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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
21/59

数年前の中等部

 沙織の部屋には続々と今日、沙織の部屋で一緒に勉強するメンバーが揃っていた。

 今現在この部屋には部屋の持ち主の沙織と、準備をして来た綾乃、めぐみ、智香、里菜の4人が既に集まっていた。


 今回の勉強を教える側の要である瑞稀と葉月は、とっちらかした部屋を整理してから来るそうだ。


 里菜も手伝おうとしたらしいが、瑞稀から「殆どの荷物は私のだから。」葉月には「私が片付けを妨害したようなもんだから、私が手伝う。」と言われ、部屋を半ば強引に追い出されて来たらしい。


 そして今、沙織の部屋では沙織以外の4人が部屋の感想を口々に言っている最中だった。

 初めて人を招き入れたから、沙織もおっかなびっくり感想に耳を傾けていた。


 最初に感想を言ったのは綾乃だった。


「これが沙織の部屋か〜……。

 本とかパソコンとか、部屋の中で過ごす時間が充実しそうなアイテムがいっぱいあるんだね。」

「もしかして綾乃が誘わなかったら部活見学にも行かないで、この部屋に篭ってたんじゃない?」


 綾乃とめぐみの言ったことは図星だった。

 2人はものの1ヶ月で沙織の事をあらかた把握していた。


『そうですね〜引きこもる気満々でしたね。

 というか、部活動見学が終わった後は部屋に直行して翌朝まで外出はしてませんでしたね……。』


 すると今度は智香と里菜も会話に混ざる。


「本とかパソコンが使いこなせる人って、頭が良いと私は思ってるよ。

 だから生徒会の仕事もたくさん覚えてもらって……。」

「沙織ちゃんに仕事を押し付けようとしてたって、瑞稀に言いつけるよ?」

「それは勘弁してください……。」


『やっぱりパソコンと本は存在自体を隠しておいた方が良かった?

 皆さんそんなにじっくり見ないで……。』


 立ったまま沙織の部屋の感想を言い合う4人に、とりあえず座ってもらうことにする。


『クッションが無くて申し訳ないけど、とりあえずカーペットに座ってもらおう。』


「とりあえず、皆さん適当に座ってください。

 今飲み物を持って来ますから。」


 沙織が冷蔵庫からジュースとお茶を持って行くと、綾乃とめぐみが驚いていた。


「沙織って珈琲以外の飲み物も飲んでたの?」

「そりゃあ飲むでしょ……。

 だけどたしかに新鮮だね。」


「人並みにはジュースもお茶も飲むよ……疲れてる時はたしかに珈琲が多いけど。」


 沙織がそう言うと、智香が普段の生徒会室で沙織がよく珈琲を飲んでいた事を思い出した。


「そういえば生徒会室ではいつも珈琲を飲んでるよね〜。」

「智香、それってやっぱり沙織ちゃん疲れてるんじゃない?」


 里菜の視線が智香に向けられる。

 沙織は里菜に疑われている智香を庇った。


「違います里菜さん!

 初めてやる仕事だったり、この間までは試験期間前で仕事が特に多かったから、気分転換に珈琲を飲んでいた事が多かっただけです!」


 必死に弁解する沙織の様子に、里菜は声を出して笑った。


「知ってる知ってる!

 冗談で智香に言っただけだから、沙織ちゃんは気にしないで大丈夫だよ。

 沙織ちゃんが生徒会の仕事を頑張ってる証拠。」



 冗談が通じない沙織は、まだ智香を心配していたが、当の本人は里菜が冗談だったのを理解して、里菜と同じく笑っていた。


『智香さんも笑ってるから、本当に大丈夫?』


 話がひと段落したところでインターホンが鳴りドアを開けると、瑞稀と葉月も到着した。


「お邪魔します。」

「おつかれ2人とも!

 部屋は片付いた?」


 2人は荷物を部屋の隅に置いて、部屋の片付け状況を里菜に報告した。


「とりあえずは生活に支障が出ないところまでは片付けた。

 写真に撮っておいてもらいたい物は、昨日の夜に殆ど終わってたから、あとは分別して捨てるだけ。」

「写真は現像したら部屋に持って行くよ。」


 片付けは概ね終了したようだ。


「それでは頭が良い2人も揃ったので、そろそろ試験勉強始めようか。」


 智香の合図で全員が思い思いの教材をテーブルに出して行く。

 すると瑞稀が鞄の中から、教材と一緒にビニール袋の中身を広げて出していった。


「私達が部屋を散らかしたせいで、沙織の部屋を借りることになったから、せめてこれ……。」


 瑞稀はジュースやお菓子、そして実家からのお茶など、めぐみが持って来てくれた物と似たラインナップを並べていった。

 めぐみは綾乃と沙織と3人で食べるように、大量には持ってこなかったため、試験勉強のお供の追加に全員が喜んだ。


 そして最後に紙製のコップと皿も取り出した。


「人数が人数だから、色々足りないと思って持ってきた。

 よかったら使って。」


 明らかにコップが足りないと内心で焦っていた沙織は、このコップと皿を誰よりも喜んだ。


『瑞稀さんと葉月さん、マジで神!

 助かりました、ありがとうございます!』


「よしっ! それじゃあ本当にそろそろ始めようか。」


 沙織はみんなと同じく、自分の机では無くテーブルで勉強道具を広げて勉強を開始した。


『やっぱり他の人と一緒に勉強すると、なんだか勉強を楽しく感じるんだよね……。

 この学校に入ってよかった……。』


 昨日と同じく、お互いが勉強を教え合う勉強会は、全員が充実した時間を過ごしていた。


 先生よりも気安く質問しやすいからなのか、普段の授業よりも全員が楽しく勉強していた。

 もちろん、テーブルの所々に置かれているお菓子や飲み物の効果もあるだろうが。



 お昼時間になると、綾乃が自分の部屋に戻って軽食を持って戻ってきた。


「今朝、学食に行ったらカウンターでたくさん売ってて、作りすぎちゃったから買ってくれると助かるって言われて……。

 調子に乗って買いすぎたので、よかったら食べてください。」


「こんなにたくさん買ったの?」


 めぐみが少し呆れた様子で綾乃に聞いた。


「買ってくれると助かるって言われたら買っちゃうの!」


 少し頬を膨らまして怒った様子の綾乃に、2年生メンバーが財布からお金を取り出して渡そうとする。


「ちょっと先輩?!」

「お昼ご飯をタダで貰うわけにはいかないから、確かこれは……。」


 そう言って2年生メンバーは食べたい物を選んで、その商品の金額を綾乃に渡そうとしていく。


「お金なんていらないです!」


 綾乃は全力で拒んで1円たらとも受け取ろうとしない。

 全員がお金を押し付けあう、異様な光景だ。


「それじゃあ、勉強代ってことにしてくれませんか?

 先輩達には午前中だけでもたくさん教えてもらいましたし、午後にも質問したいところが出てくると思うので、その質問の対価として受け取ってくれませんか?」


 綾乃が出した妥協案に、2年生は「本当にいいの?」

ともう一度尋ねると、綾乃は「むしろそうしてもらえませんか?」と返し、ある種の押し付け合いはこれで決着した。


「沙織にも部屋を貸してもらってるし、めぐみもお菓子とか持ってきてくれてるから、2人も気にしないで。」


 そう言って綾乃は沙織とめぐみにも、軽食を食べるように促した。


 2年生との押し問答の様子を目の前で見ていた沙織とめぐみは、おとなしく甘えさせてもらうことにした。



 全員で軽食をつまみながら話をしていくと、沙織以外は中等部の時に何度か話していたり、一方的に知っていたり……。

 仲良くなった今だから言える会話が弾んだ。

 最初にぶっちゃけ始めたのはめぐみだった。



「私、実は瑞稀さんのこと少し怖かったんです。

 中等部の時からピアス付いてたし、高等部に入ってからは金髪にもなってて……。」


 めぐみの話に綾乃も続いた。


「私もそう思ってました。

 私は中等部で生徒会に入っていたので、他学年の教室に行く機会が同級生の中でも特に多くて……。

 瑞稀さんを見かけるたびに、内心怖かったです。」


 2人の話に瑞稀は少しへこんでいたが、他の2年生は大爆笑していた。


 智香は爆笑したまま瑞稀の肩を軽く叩いた。


「2人とも素直だねー!

 たしかに瑞稀は中等部の時からピアス付いてたし、下の学年から見たらどう見てもヤバい先輩。

 関わったら殺されると思うレベルに見えてたかもね!」


『たしかに中学生からピアスは……かなり怖いかも……。』


 葉月も必死に笑いを堪えている風に見えるが、口角は正直だった。

 沙織が見た表情の中で、1番笑っている。


「それが高等部では金髪も加わって、パワーアップしてるんだから、後輩からしたら恐怖。」


 そして最後には里菜も同調しだした。


「しかも生徒会で副会長なんだから、逃げ道が無いよね。」



 3人が爆笑していたところに、綾乃とめぐみはさらにぶっ込んでいく。


「でも、そんな瑞稀さんとルームメイトだった里菜さんも、私たちの学年では実は怖い先輩なんじゃないかって言われてたんですよ?」


「えっ?!」


 まさかの告白に里菜の声が裏返った。


「そうそう!

 私は中等部で里菜さんと同じ陸上部だったから、部活動をしていく過程で怖くないってわかったけど、綾乃なんて大会で応援に来てくれた時に、里菜さんを見て、恐怖で体が固まってたもんね。」


「そうだったの?」


 綾乃が申し訳なさそうに「はい。」と言うと、里菜も瑞稀と同じようにショックを受けていた。


「……だからあの時に話しかけた後輩は逃げていったのか……。」


『中等部の時に何かあったのかな?』


「待って!

 この流れってもしかして、私と葉月も実は後輩に怖がられてましたって流れに乗っかっちゃう感じ?」


 智香がそう言うと、葉月も少し食い気味で2人を見た。

 2人がじっと返答を待っていると、めぐみが口を開いた。

「乗っかっちゃう感じですね……。」


「マジか!」


 智香は床にひっくり返り、葉月も表情が暗くなった。



「いや! おふたりに関しては怖いとかでは無くて、どう話しかけていいのかわからなくて……。」

「つまり、会話をするのが怖いと言う意味で……。」


 綾乃とめぐみのフォローは2人の傷口に塩を塗り込んだ。


「見た目で怖がられるよりもショックかも……。」

「うん……。」



『綾乃もめぐみも、時々ポンコツになるんだよなぁ。』


 明らかにテンションが駄々下がりの2年生メンバーを見るに耐えず、沙織が話を要約した。


「中等部の時は、瑞稀さんはピアスを付けてて怖かった。

 里菜さんはそんな瑞稀さんとルームメイトとして普通に生活していて怖かった。

 智香さんと葉月さんは何の話をすればいいのかわからなくて怖かった。

 つまりはそういうこと?」


 綾乃とめぐみは「そうそう。」「だけど今は全然、誰のことも怖く思ってないです!」と口にした。


 2年生の表情が「慰めてくれてありがとう。」と言っているみたいに見える。


「それに今はそんな中等部の時に関われなかった先輩達と、普通に話すことができるようになったし、今なんて試験勉強を一緒にできて教えてもらえてるんだから、感謝しかしてないです!」

「そうですよ!

 それに今、高等部1年生で1番怖がられてるのって沙織ですから!」



『……ちょっと待って。

 今私の名前が出た気がするんだけど?』


 この発言に同じ生徒会メンバーの智香と瑞稀が反応した。


「なんで沙織ちゃんが?」

「里菜と同じように私と一緒に居るから?」


 とうとう自虐までし始めた瑞稀に、綾乃が否定した。


「違いますよ。沙織は入学して早々に生徒会の役員になって、上級生を手玉にとったって一部では言われてるんです。」


『初耳なんだけど?!』


「私のクラスでは沙織の事を高等部の改革者って言っている子もいるよ。」

「それ、私も聞いたことある!」


『誰ですか? そんな事を言っているのは!

 めぐみのクラス、知ってる人居ない!

 先輩達はさっきこんな気持ちだったんですね……。』


 沙織も初めて知ったまさかの事実に、タジタジになる。

 思考回路が混乱して、よくわからないことになっている。


「なんだか……噂話の怖さを実感した気がします。」


 これには部屋に居た全員が納得した。


「その通りだね……。」


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