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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
20/59

予定変更の大所帯

 日曜日。昨日と同じく鞄の中に教科書、ノート、筆記用具を準備しておく。

 昨日ほど気合を入れた格好をするのはやめた。

 昨日は勉強が捗ったけれど、服装がキッチリとしすぎて肩が凝ってしまったからだ。


 沙織は今朝の身支度を整える時、せっかく先輩達に勉強を教えてもらえるのだから、勉強に集中できる格好にするのが1番良いと結論付けたのだ。

 そのため鞄もただのリュックサックに変更した。


「これなら教科書とノートを沢山入れても問題ない。

 昨日は帰って来た時に肩が凝ってしょうがなかったし。」


 年寄りみたいな事を独り言で言っているが、沙織は正真正銘、女子高生だ。


「まだ時間には早いし……でも荷物をまとめたから教科書を出すのも面倒くさい。」


 暇つぶしを考えていると、インターホンが鳴った。


「はーい。」


 沙織が玄関ドアを開けると、そこには綾乃が居た。


「おはよう沙織。」

「おはよう、朝から元気だね。

 何かあった?」


 沙織が聞くと綾乃は教科書を持ってニッコリと笑った。


「一緒に試験勉強しない?」


 綾乃の誘いに一瞬了承しそうになった沙織だったが、すぐに先輩達との勉強会を思い出した。


「あー……実は先輩達に誘われて、昨日から先輩の寮で教えてもらってるんだよね……。」


「そうだったの?」


 沙織は申し訳なさそうに首を縦に振る。


『そうじゃん!

 同級生として綾乃やめぐみと勉強する方が自然な流れ。先輩の寮まで行って勉強の面倒見てもらうって、どれだけ図々しい後輩なんだ私は!』


 頭を抱えてしゃがみ込んだ沙織を、綾乃は優しく慰めた。


「そこまで気にしなくても……。

 よしよし。」


『うー……。また玄関にしゃがみ込むなんて思わなかったよ……。』


 玄関でそんなこんなしていると、綾乃の背後からめぐみが現れた。


「おはよう2人とも。こんなところで朝っぱらから楽しんじゃって……。

 私もいーれーて!」


 2人ともまとめてめぐみの腕の中へ収まった。


「おはようめぐみ。」

「おはよう……めぐみが寮に居るの新鮮。」


 めぐみは2人を解放して、沙織を立ち上がらせた。


「いやー、綾乃に良ければ試験勉強一緒にやらないかって連絡もらったから来たの。

 沙織も一緒にどうかな?」

「そう思って私も誘いに来てみたんだけど、先輩達と先約してたみたいだし、今回は残念だけど……。」


「もしかして先約してる先輩達って……。」


 めぐみの背後からひょっこり顔を覗かせたのは、里菜だった。


「おはよう!」


「おはようございます! どうしてここに?」


『里菜さん、どことなく疲れた表情をしている気がする。

 何かあったのかな?』


 里菜は首筋に手を当てて困った様子で沙織の部屋を訪ねた理由を話す。


「実は昨日、みんなが帰った後に瑞稀と私で部屋の片付けをやり始めたんだけどさ……。」


「もしかして昨日の話の流れで?」


「そうなんだよね。

 それでね、ぬいぐるみは葉月に写真に撮ってもらって処分したり、本は読み返したい本だけ残して、あとは紐で縛ったり……。

 途中まではすっごく調子が良かったんだけど……。」


『私、この流れ知ってる。』


「終わらなかったんだよね〜、あははは。」


『やっぱりね……。』



 部屋の片付けが上手くいかないのはよく有る事だ。

 沙織もこの学生寮に引っ越す準備をしていた時、実家の部屋はめちゃくちゃに荒れ放題になった。


 しかし、里菜の話はここからが本題だった。


「里菜さん、途中までは上手くいってたってことは終わらなかっただけじゃ無くて……。」

「そうなんだよね……。

 今は片付ける前よりも散らかってて、とてもじゃないけど人を招き入れられる状況では無くなりました!」


『片付けて物自体は減っているはずなのに、いろんなところに散らばりすぎて余計に部屋が汚くなる現象ですね。

 私も経験済みです。』


「瑞稀が思い出を写真に撮ってもらいたいって、葉月を呼んだところからおかしくなっちゃって……。

 葉月は……ほら、写真には妥協しないのは周知の事実でしょ?

 なんというか、深夜テンションで撮影会になってしまって、私と瑞稀もノリノリで……気がついたら朝というか……。」


『どれだけ深夜テンションではっちゃけたんですか?』


 ここで徐々に状況を理解して来た綾乃とめぐみも会話に加わり始める。


「里菜さんと瑞稀さんがノリノリで……。

 壁や床は無事ですか?」

「めぐみちゃん? それはどういう意味かなぁ?」


「先輩達……テスト余裕そうで、さすがですね!」

「綾乃ちゃんに私の成績表見せてあげようか?」


『里菜さんニコニコでツッコミしてるけど、まだ深夜テンションだったりします?』



「とにかく、今日は私達の部屋では試験勉強できなくなっちゃったの。

 それを知らせるために沙織ちゃんの部屋まで来たってわけ。

 2人は? 沙織ちゃんに用事があったんじゃ無いの?」


「私達は沙織に一緒に試験勉強をやらないかって誘いに来たんですけど、先輩達との約束があるって言われたところだったんです。」


「だけど私達の部屋ではできなくなったし……。

 沙織ちゃん、今日は綾乃ちゃんとめぐみちゃんと一緒に試験勉強しなよ!

 昨日私達と一緒に勉強したから、ある程度は解けるようになってるはずだし。」


 里菜が3人に提案をすると、めぐみがさらに付け足していく。


「だったら、先輩達も一緒にどうですか?

 図書室にでも行って一緒にやりましょうよ!」


「でもそれだと、私達の勉強を先輩達に見てもらうことになっちゃうよ?

 先輩達には先輩達の勉強があるんだから、もう少し遠慮しないと。」


『綾乃の言う通り。昨日の私は図々しかったです。

 誠に申し訳ありませんでした。』


 沙織が無言で里菜にお辞儀をする。


「沙織ちゃん? 全然気にしなくて大丈夫だから!

 1年生の勉強を教えていくうちに、私達も基礎が完璧になったというか……2年生の勉強は1年生の勉強の延長戦みたいな感じだから、むしろありがたいというか。」


「ほんとですか?」


 沙織が疑心暗鬼に里菜に聞くと、里菜は笑顔で何度も頷いた。


「ほら沙織、里菜さんもこう言ってるんだし気にしないでさ。

 綾乃が変なこと言うから……。」


「変なことって何よ!」


 綾乃とめぐみの軽口の叩き合いに、里菜が割って入る。


「まぁまぁ。」


 里菜の仲裁で会話に一区切りがつき、綾乃が本音を漏らす。


「でも先輩達と一緒に勉強できたら、私達は心強いです。」


 綾乃の本音にめぐみも賛同する。


「たしかに……。

 瑞稀さんと葉月さんは2年生の成績上位のツートップだって、有名な話ですからね。

 一緒に勉強しただけで、自分も頭が良くなった気がします。」


「私達は3人と一緒に勉強しても全然構わないんだけど……でも私達も参加するってなるとかなりの大所帯になるし、図書室だと試験期間だし他の生徒も多いと思うから、教えてあげるのは難しいかも知れないなぁ。」


 里菜の言う通り、今は試験期間中。

 図書室へ試験勉強をしに行く生徒は多いはずだ。

 その場所に大所帯で行って、教えるためとはいえ会話をするのは明らかに迷惑行為になってしまうのは目に見えてわかる。


 昨日のように、誰かの部屋なら会話をしても問題は無いが、昨日よりも人数が増えるとなると、部屋もそこそこの広さを確保しておかないと窮屈で仕方がない。


『広めのスペースを確保できる部屋……。』


「あの……よかったら私の部屋でどうですか?」

「沙織ちゃんの部屋で? いいの?」


 めぐみと綾乃は沙織が1人部屋だった事を思い出した。


「そうか、沙織は1人部屋だから他の部屋よりも使えるスペースが広い!」

「個人の部屋なら会話しても問題ないし、いいじゃん!」


 沙織は2人部屋の内、1人分のスペースしか使っていなかったので、完全に空いている空間が部屋に存在するのだ。

 今回はそのスペースを丸々使って、全員で勉強会をしようと考えたのだ。


「本当にいいの?」

「はい! 実は昨日、里菜さんと瑞稀さんの部屋で先輩達に勉強を教えてもらって、とても捗ったんです。

 だけど部屋に戻ってからは思うように進まなくって……。

 だから今日も先輩達と一緒に勉強がしたいんです。」


 沙織が里菜にそう伝えると、里菜は「わかった。」と言ってスマホを取り出し、電話をかけ始めた。


「もしもし智香? 今日の試験勉強は私達の部屋ではできないって伝えたでしょ?

 実は沙織ちゃんが一緒に勉強したいから、私の部屋で良ければって言ってくれたんだけど……。

 うん、わかった。それじゃあ後で。」


 スマホをポケットにしまうと、里菜は「荷物をまとめたら戻って来るね!」と言って自室に戻って行った。


「先輩達、本当に来てくれるんだ!

 部屋片付けないと!」


 沙織が焦り出して部屋に入って行くと、綾乃とめぐみは沙織の部屋を覗き込んだ。


「そんなに慌てて片付けるほど散らかってないと思うけど?」

「だよね……。私も荷物持って来るから、ちょっと部屋に戻るね。」


 そう言って綾乃も部屋に戻ると、残っためぐみは沙織の部屋の玄関で、入室許可をもらえるのを静かに待った。


 しばらくして沙織が玄関に戻ってきた。


「お待たせめぐみ! どうぞお入りください。」

「そこまで気にしなくてもいいのに。」


 部屋に入っためぐみはとても驚いた。

 ものの数分で沙織の部屋は生活感を無くしていたからだ。

 先程の玄関から見えた光景の方が、人間味のある部屋に感じたのだが、今は誰も住んでいない空き部屋にただ家具を置きました……といった雰囲気の部屋に感じる。


「どうぞこちらにお座りください。」


 沙織がめぐみに椅子へ座るように促すが、めぐみはそれを断った。


「沙織……片付けすぎて落ち着かない。」

「えっ?」


 そう言うとめぐみは教材が入っているであろう鞄の中から、ビニール袋を取り出して沙織に手渡した。


「これは?」

「決まってるじゃん! 試験勉強のお供。お菓子だよ!」


 沙織は手渡されたビニール袋を広げると、中にはめぐみの言った通り、さまざまなお菓子が袋いっぱいに入っていた。


「これを食べながら楽しく勉強しよ?

 だからそんなに部屋の綺麗さとかは気にしなくてもいいと思うよ。」


 沙織は書類の提出期限を守れなかったり、抜けている部分も多いが、他の人は気にしない事を、いつまでも気にして考えてしまう悪い癖があった。

 今回の部屋の片付けは、その悪い癖が前面に出ていた。


 めぐみの言う通り、そんなに気負わなくても良いはずのところを、考え込んで若干のパニックになっていたのだろう。


『お菓子を食べながら、楽しく……。

 昨日の試験勉強、楽しかったなぁ。

 里菜さんと瑞稀さんの部屋で、先輩達と一緒にできて。

 私もそのままの部屋でいいのかな……。嫌われないかな……。』


 不安が顔に出ていた沙織に、めぐみは手を広げて「おいで。」と優しく呼び寄せた。

 めぐみの腕にスッと吸い込まれた沙織は、そのままめぐみに抱き込まれた。


「大丈夫だよ沙織。

 普段の沙織の部屋のままで、先輩達と一緒に楽しく勉強ができた方が、これからのこの部屋での生活も楽しくなると思うよ?」


 めぐみは優しくそう言った。


「うん……。」


 沙織はそう言うと、無理矢理片付けた部屋の物を元の位置に戻して行った。


 棚に置いていた漫画や雑誌。

 布切れを被せて隠しておいたパソコン。

 実家から持ってきた小物など。


 沙織の部屋に色が戻っていく。



「こんな感じの部屋なんだけど……変じゃない?」

「全然! むしろ沙織の部屋ってこんな感じなんだ。

 沙織らしくてすっごくいい部屋だね!」


 めぐみはお世辞では無く本心でそう言った。

 沙織もめぐみの言葉を素直に喜んだ。



 ちょうど綾乃が沙織の部屋に戻って来た。

 綾乃がなんて反応をするのか、沙織はおっかなびっくり期待していた。


「沙織の部屋、初めて入ったけどとっても綺麗でいい部屋ね!

 同じ間取りなのに私の部屋の雰囲気と違って、新鮮な感じがする。」


 沙織は自分の部屋が、綾乃にも好印象だったのがとても嬉しかった。

 ただこの部屋には、まだ沙織が隠している秘密があった。


『良かった……。

 パソコンの画面とか見せられないものも多いから、気をつけないと。

 ……あれ? パソコンってスリープモードにしただけだったっけ? シャットダウンしたっけ?

 漫画も試験勉強だから誰も読まないよね?』


 沙織は笑っているが、心配事が増えていく。

 心配事を確認する暇もなく、今度は2年生組が沙織の部屋に到着した。


 そして沙織にとって、おっかなびっくりの試験勉強会が開催された。

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