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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
18/59

試験前の生徒会はデスマーチ

 写真撮影週間の最終日、智香は初日と2日目に参加したので今日は参加しない。

 というか瑞稀が行かせないだろう。


 放課後に智香は生徒会室へ瑞稀に襟首を引っ張られてやって来た。

 最終日だからどうしても少しだけでも参加したいとごねていたらしいが、瑞稀が参加を許すことは無かった。


「今日は仕事が大量にあるから、一瞬でも外出はさせない。」

 瑞稀はそう言って智香を生徒会室から一歩も出さない。

 智香は来て早々に逃亡をはかったが、ことごとく失敗。

 生徒会室に来てから30分が経過して、ようやく諦めて仕事を始めた。



「お疲れ様です瑞稀先輩。」

「ありがとう。」


 智香が仕事に集中し始めたので、沙織が瑞稀に珈琲を渡した。

 沙織も自分の席に戻り、今週の完了した仕事の確認と、来週の予定を確認していく。


 今週中に終了予定の仕事はほとんどが終わっていたが、1つ重要な仕事が残っていた。



『この書類の山を今日中に……。』


 いよいよ中間試験が間近に迫ってきており、その為の書類仕事が残っていたのだ。


 試験期間は来週から始まり、試験は更に翌週の木曜、金曜の午前中に行われる。


 試験期間は全ての課外活動が停止、または放課後の1時間だけ許可されての活動になる。

 試験期間が始まる前、つまり今日までが許可申請の申し込み期限なので、生徒会室に各部活動の部長達が持参した申請書に目を通して、来週の朝には申請が通ったのかを知らせなければならなかった。


 入部届けを提出できなかった沙織が言えた立場ではないが、部長達も書類の提出が比較的遅いようで、沙織含め生徒会の面々は、こんなギリギリの仕事を余儀なくされていた。


『提出期限でも最終日に提出すると、提出された側はこんなに大変なんですね……。以後気をつけよう。』


 沙織は書類に目を通して不備や申請理由が適正なのかをチェックしていく。


『それにしても、試験期間中の申請がこんなに大量に来るなんて、この学校は課外活動が盛んな事も理由ではあると思うけど、こんなに部活動があったんだ。』



 書類は各部活ごとに提出されたものがほとんどで「大会が近いから」や調理部のように「全面の活動停止が難しいため」など様々だ。


 そして沙織がチェックした書類は次に瑞稀に渡す。

 瑞稀は沙織が適正と判断した書類にもう一度目を通し、申請書に書かれた参加予定メンバーに前回試験などで赤点だった生徒がいないかを確認していく。

 もちろんここで引っかかった生徒は許可対象外になり、課外活動の参加は認められない。



 ここまできてやっと智香の仕事になる。


 2人の振り分けた申請書を生徒会が確実に確認したとわかるようハンコを押し、運動部などの活動場所が被る部活動のグラウンドや体育館の割り当てを決めて千夏先生に提出するのが智香の生徒会長としての仕事だ。


『私の仕事が終わらないと先輩達の仕事ができない。

 丁寧に、でも早く仕事を終わらせないと。』



 沙織は自分が正確に仕事ができる、限界のスピードで書類を確認して瑞稀に渡していった。

 沙織が頑張って進めたおかげで、昨年よりも早く終われそうな勢いだったらしく、瑞稀と智香は嬉しそうに仕事をしていた。


「沙織ちゃんのおかげで早く帰れそうだよ!」

「去年の学年末試験前は金曜日の内に終わらなくて、土曜日にも仕事してたんだよね。」


 智香と瑞稀が昨年の様子を話し出した。


「そうだったんですか?」


「そうそう! 土曜日も2人で生徒会室に缶詰めになって仕事してたっけ。」

「3年生の生徒会長が居たんだけど、進学先から課題が来ていたらしくて手伝えないって言われて、2人だった。」


『この仕事量を2人で?』


「先輩達は今2年生だから……もしかして1年生2人で生徒会の仕事をしてたんですか?」


「そういうことになるね。」


「大変だったんじゃ無いですか?」


 智香と瑞稀はお互いの顔を見合わせて昨年を思い出す。


「そうでもなかった。」

「うん、なんとかなったし。」


『先輩! 謙遜し過ぎです!

 絶対にそんなことない仕事量が今、私の目の前にあります!』



「千夏先生も生徒会室で仕事を手伝ってくれたし、土曜日は朝からやってたから、お昼くらいには終わっていたし。」


『瑞稀先輩、金曜日の放課後と土曜日の午前中を合わせて終わった仕事がなんてこと無かったとは私は思えません。

 最終的には半日かけて終了していることに気がついてください。』


「そうそう、やっぱりこのくらいの仕事がある時は最低3人は居ないと期限に間に合わないねー。」


『智香先輩も仕事量の認識がバグってる気がする。』


 沙織は生徒会がブラックなのではと思い始めていた。

 そして先輩達の感覚はバグってると……。



「とにかく、このペースで進めていけば今日中には終われそうだね。」

「そうだけど、夕食はどうする?

 学食に向かうと、明日の朝また来て仕事しないといけなくなるけど。」


 この時、沙織は綾乃から新聞部が学食で弁当を頼んで、部室で作業をしながら夕食を食べたと言っていたことを思い出す。


「それなら私、学食でお弁当買ってきましょうか?

 私は先輩達よりも先に仕事が終わりますから、終わり次第買ってきますよ。」


「ごめん沙織ちゃん、頼んでもいい?」

「私も一緒に行こうか?」


「いえ、ひとりで大丈夫です。

 先輩達は仕事を進めてください。」


「ありがとう。」



 沙織は残りの書類確認を済ませて、学食へ向かうために生徒会室を出る支度を始めた。


『3人分のお弁当だから、極力荷物は置いていこっと。』


 沙織が財布以外の荷物を置いて生徒会室を出ようとすると、智香が沙織を呼び止める。


「沙織ちゃん生徒会室の鍵を持って行ってね。

 それでお会計できるから。」


「生徒会室の鍵でですか?」


 寮の鍵で会計ができる事は知っていたけど、生徒会室の鍵でもできるとは初耳だった。


「各部活の部長、副部長が持ってる部室の鍵や、生徒会役員が持ってる生徒会室の鍵は、所属生徒の分だけなら一時的に立て替えができるようになってるの。」


「今は私と智香と沙織の役員3人分だけだから、立て替えに利用しても問題ない。」


「わかりました、生徒会室の鍵でお会計ですね。」

「よろしくね〜。」



 改めて鍵だけを持って生徒会室から学食を目指す。


 学食に到着すると早速、普段とは違い弁当コーナーへと直行する。


『しまった! 先輩達から何弁当がいいか聴いて来なかった。』


 スマホも持ってきていなかったので、とりあえずバラバラの弁当を選んで会計に進む。

 智香に言われた通りに、生徒会室の鍵でお会計を済ませると、沙織は袋に詰めてもらった弁当3つを持って学食を出た。


 少し歩くと前方から綾乃と奈津美が歩いて来た。


「おつかれ沙織! あれ、お弁当?」

「おつかれ綾乃。奈津美先輩もお久しぶりです。」

「うん、おつかれ。もしかして生徒会の仕事?」


 奈津美は沙織が弁当を3つ持って校舎内に戻ろうとしているので、生徒会を想像したようだ。


「そうなんです。課外活動の申請許可証の処理がもう少しで終わりそうなので、お弁当を買い出しに。」


「やっぱりね。

 去年はあの2人、夕食を食べ損なってたみたいだから、しっかり食べさせておいてね。」

「食べ損なってたんですか?!」


 あまりにも沙織が驚いたので、奈津美は「アハハ!」と笑っていた。


「そうなんだよね、2人とも仕事に夢中になり過ぎて、学生寮に戻って来たときにはフラフラで、寮中から食べ物かき集めたんだよ。」


『そんな話、聞いてない!』


 奈津美の話を聞いて綾乃が沙織を心配する。


「沙織も無理しないで、絶対にご飯はちゃんと食べるんだよ?」

「うん、先輩達にも絶対に食べさせる。」

「これは頼もしいね!

 だけど生徒会は本当に仕事が多いな……。」


 奈津美は「うーん……。」と考え事をして、沙織にある提案をした。


「もしよかったら次回の試験……期末試験の時には校内新聞に早めに書類の提出をお願いする記事を掲載しておこうか?」


 奈津美の提案は沙織達、生徒会メンバーからしたらありがたい提案だった。


「いいんですか?」


「これでも一応は新聞部で取材と編集を担当してるからね。

 今から記事提案しておけば期末試験期間前には記事を掲載する余裕はあるから、新聞部的には何も問題無いよ。」


 ありがたい申し出だったが、沙織は二つ返事をせず、一旦生徒会へと持ち帰ることにした。


「一応先輩達に聞いてみます。」

「わかった。新聞部は掲載には前向きだって伝えておいて。」

「ありがとうございます。それじゃあそろそろ生徒会室に戻りますね。」


「頑張ってね!」


 沙織は奈津美と綾乃と別れ、生徒会室へと戻った。



「戻りました。」

「遅かったね沙織ちゃん、何か問題でもあった?」

「遅いから心配した。」


 この時既に、沙織が生徒会室を出てから、30分以上が経過していた。

 校内での買い物にしては、2人の言う通り時間がかかっていた。


「すいません遅くなって。」

「とりあえずお弁当食べよっか。

 ほら瑞稀も、一旦作業休止!」

「うん。

 何かあったみたいだし、お弁当食べながら話そう。」


 3人は弁当をテーブルに広げて、各々好きな弁当を選んで食べ始めた。

 そして沙織は新聞部の奈津美からの提案を2人に伝える。


「実は……。」



 話を聞いていた2人の顔色が、一気に明るくなっていくのがよくわかる。

 ご飯を食べて血色が良くなったのと、新聞部からの提案に乗って記事を掲載してもらえば、次回の試験前の仕事が格段に楽になるのがわかったからだ。


「さすが新聞部。そんな発想無かった。」


 智香は感心してお弁当を頬張った。


「たしかに、記事を掲載してもらってそれを読んだ各部活動の部長達が早めに提出してくれれば、沙織と私の仕事がそれだけ早く終わることができる。

 そうすれば後は智香の割り当て作業だけになるから、金曜日に仕事を進めながらご飯を食べなくて済む。」


 瑞稀もこの提案には好意的のようだ。


「だけど、それなら提出期限を早めればいいんじゃないかと思ったんです。

 なので奈津美先輩には一旦持ち帰りますとお伝えして来ました。」


 沙織がすぐに返事をしなかったのはそのためだった。


「沙織の言うことも一理ある。

 だけど活動内容によってはどうしても提出期限が金曜日まで欲しい部活動も有るから、早めに出してもらえる部活動が増えるだけで充分かな。」


「そうだね。今度、新聞部に正式に頼んでみることにしよう。

 それで効果があれば、試験前に新聞部に掲載を継続してお願いできないか聞いてみることにしよっか!」


「そうですね、少しずつ改善できそうなところを試していきましょう!」


「なんだか沙織ちゃん、やる気に満ち溢れてる気がするけど、疲れ過ぎておかしいテンションになってたりする?」

「そんなことないですよ。」


『先輩達のご飯の時間を確保するために、出来ることを頑張ってるだけですよ。』



「さて、ご飯も食べたしそろそろ再開しよっか!

 瑞稀ももうすぐで終わるみたいだし、私も後は千夏先生に渡す書類をまとめれば仕事終了!」


 どうやら瑞稀は智香が仕事を進められるように、場所被りをする部活動の書類から終わらせて渡していたみたいだった。


『瑞稀先輩……出来る女だ。』


 こうして、沙織の頑張りと瑞稀の計画性のおかげで、智香の仕事は順調にはかどり、無事に金曜日の内に千夏先生に提出することができたのだった。


『千夏先生すっごく疲れ切ってたけど、本当に先生って大変そう。

 今度は千夏先生のお弁当も一緒に買って職員室に持っていこう。』


 生徒会室の戸締まりを終えて、また3人で校舎を出る。

 学食も既に扉が閉まっていた。

『あの時お弁当を買いに行けて良かった。』


 学生寮の前で沙織は2人と別れる。


「お疲れ様でした。」

「沙織、明日は時間ある?」


 瑞稀の質問に沙織は首を横に振り「何も予定は無いですよ。」と返した。


「もしよかったら明日、私たちと一緒に試験勉強しない?

 私と智香は毎回一緒にやってるんだけど。」

「沙織ちゃんのおかげで、今回の試験勉強に土曜日から取り組めるし、わからない所があったら教えられるよ!」


 これといって勉強が得意では無い沙織からしたら、先輩に勉強を見てもらえるのは願ってもない機会だ。


「ぜひお願いします!」


「それじゃあ明日、寮の玄関に朝9時でどう?」

「はい!」



 沙織は改めて2人に別れの挨拶をして、自室に戻った。


『やばい、嬉しい!

 眠れるかな?』


 沙織は全く問題なく、翌朝まで一度も目が覚めることなく、ぐっすりと眠った。


 起床後、沙織は早速身支度を整える。

 学園内とはいえ、休日は私服で出歩いても良いので、智香と瑞稀と一緒に居ても子供っぽくない服装を選んだ。


 朝ごはんを軽く済ませて、試験勉強に使う教科書やノートを、服装に合わせて用意した鞄に詰め込んだ。


「筆記用具!」


 いつもと違う鞄に肝心の筆記用具を慌てて詰め、再度荷物の確認をする。


『先輩達はどこで試験勉強してるんだろう。

 無難に図書館とかかな?』


 そして待ち合わせの時間が迫り、沙織は玄関へ向かった。

 外に出ると、まだ2人の姿は見えない。

 前髪が気になって手鏡で見ながら軽く整える。

 デートの待ち合わせと見間違う佇まいで、沙織は2人を待っていた。


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