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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
17/59

放課後の3人組

 ついに写真撮影をする週になり、一緒に行くめぐみ、葉月、そして智香の3人のテンションは朝から最高潮に達していた。


「いよいよ今日の放課後からは、先輩達と……。」


 めぐみは予定を組んでから今日に至るまで、ずっと緊張しているのは誰が見ても明らかだった。

 特に今朝は普段の元気が空回りしているのがよくわかる。


「めぐみってあんまり緊張しないタイプだと思ってだんだけど、そうでもない?」

「めぐみは昔から憧れとか、尊敬している人と一緒に何かをするって時には、緊張しまくる人なんだよね。」


「意外……。」


「もう我慢できない! 沙織、ぎゅーってさせて!」


 めぐみがいつになく鼻息荒く沙織に頼んだ。


「そんな顔で言ったら、だいぶ変態みたいなんだけど……。

 沙織も困ってるじゃん。」


 綾乃はそう言ったが、沙織は少し気持ちを鎮めていただけで、めぐみを受け入れるために万全な状態に整えていただけだった。


『綾乃ごめんね、私全然嫌じゃ無いの!

 むしろ嬉しいですね! はい!』


 抱きしめられて満更でもなさそうな表情をしていた沙織を見て、綾乃は「両想いならまぁいっか。」と言って2人を放置して教室へと向かう。


「綾乃待って!」

「待って沙織〜もうちょっとだけ〜。」

「ちょっとめぐみってば! 綾乃が行っちゃう。」

「ごゆっくり〜。」



 綾乃は2人に手を振って、ひと足先に教室に行ってしまった。

 その場に残された沙織は、めぐみを引きずるようにして綾乃の後を追った。


 どうにかめぐみをクラスまで送り届けて、自分のクラスに向かうと、先に到着していた綾乃が手を振って迎えた。


「綾乃ってば置いていかないでよ……。」

「ごめんごめん、なんだか面白くなっちゃってつい。」


 綾乃は軽く謝った。


「そういえば智香先輩も、凄い勢いで仕事してたって先週言ってたけど、今日はどんな様子なのかな?」

「さぁ、私も今日は先輩達に誰とも会ってないからわからないなぁ。

 でも、今日は昼休みに生徒会室に行く事になってるから、その時に先輩達に会うし様子を見てこようかな。」


 沙織は今日の放課後に智香が生徒会室に来ないので、昼休みに生徒会室で今週の仕事を確認していく事になっていた。


「そうなんだ。お昼ごはんはどうする?」

「食べてからでいいって瑞稀先輩に言われてるから、食べてから向かうよ。」

「なら早めに食べ終わらないとね。」


 予鈴が鳴り千夏先生が教室に入ってきて、朝のホームルームが始まった。

 その後は午前中の授業を終えて、学食で手早く昼食を済ませた沙織は、一緒に食事をしていた綾乃とめぐみと別れて、生徒会室へ向かった。


「あれ? まだ先輩達来てないみたい……。」


 沙織は持っていた生徒会室の鍵を使って中に入った。


『ひとりで生徒会室は初めて……。』



 いつもと違う時間帯だから、窓から入る太陽光の向きや色味が違う。

 いつもは光が当たっていない場所まで照らされていて、生徒会室が明るく感じる。


「お昼寝するには少し眩しいけどね〜。」

「きゃー!」


 急に背後から智香が声をかけてきて驚いた沙織は、悲鳴をあげて振り返った。


「そんなに驚くとは思わなかった。ごめんね。」

「後ろから急に声をかけられたら誰だって驚くでしょうよ……。」


 智香の横には瑞稀も居た。


「驚かさないでくださいよ!」


「まぁまぁ……。

 とりあえず、生徒会役員が全員揃ったところで、今週の仕事の話を済ませてしまおうか!」


 全員が自分の机に向かい、確実が抱えている仕事の進捗状況と期限を資料と共に共有していく。


「……それじゃあこの件は千夏先生に書類を提出して、あとは経理部にも連絡しておこうか。」


 仕事の話を3人とも順番にしていく。

 沙織も仕事を覚えてきたので、すっかり仕事を任され始めていた。

 メモを取ったりして間違いやミスが無いように真剣に取り組む。



「とりあえず報告事項は以上かな?

 何か他にある人はいる?」


「何も無いです。」

「ありません。」


「よし! それじゃあこれで解散で。

 2人とも、今日の放課後はよろしくね。」

「はい、智香先輩もお気をつけて。」

「いってらっしゃい。」


 3人は資料を片付けて生徒会室を出る。

 時刻は昼休みの終了時間ギリギリだ。


「教室までなら午後の授業に間に合うから、ゆっくり移動しよっか。

 沙織ちゃんは次は何の授業?」

「次は数学です。苦手なんですよね……。」

「数学なら瑞稀が得意だから、今度教えて貰えば?」


 沙織が瑞稀を見ると、瑞稀は小さく頷いている。


「全然いいよ、いくらでも教える。」

「ありがとうございます瑞稀先輩!」



 2人と分かれて教室へ向かう沙織は、次の授業担当である千夏先生が自分よりも先を歩いているのに気がついた。


『やばい……先生来ちゃってる!』


 沙織は早足で先生を追い抜いて教室に滑り込んだ。

 ちょうどチャイムが鳴り、千夏先生が教室に入り授業が始まった。


『危なかった〜。先輩達は平気だったかな?』



 授業が終わり綾乃が心配していたようで声をかける。


「沙織、間に合ってよかった。」

「廊下で千夏先生が前にいたから早歩きして追い抜いたの。でなきゃアウトだったよ。」


 そこに千夏先生がやって来た。


「及川、今日の放課後は私も生徒会室に顔を出すから。

 今週は千葉が生徒会を休みがちになるから、とりあえず来いと勝又に言われてな。

 よろしく頼む。」


「わかりました。

 それじゃあ今日の放課後、生徒会室にいらっしゃった時に資料を提出するので、確認をお願いします。」


 千夏先生は「わかった。」とひと言だけ言って次の授業の支度をしに職員室へと戻って行った。


「なんだか沙織の生徒会役員も板についてきたみたいね。」

「そうかな?」

「うん、なんだか頼もしくなった気がする。」


『綾乃にそう言われると照れるなぁ。』



 その後も授業は続き、帰りのホームルームを終え、放課後となった。


「それじゃあ沙織、私は新聞部に行ってくる。

 夕飯は一緒に食べる?」

「そうしよっかな。夜の7時でいい?」

「いいよ、それじゃあ。」


 教室で綾乃と夕飯の約束をしてから別れ、生徒会室に向かった。


 既に鍵が開いていて、ドアノブが動いた。


「おつかれ。」

「お疲れ様です。」



 今日は瑞稀が一番乗りのようだ。既に瑞稀は自分の仕事を始めていた。

 沙織も席につき、昼休みに確認した仕事を順次やり始める。



 沙織と瑞稀の仕事をしている音が静かに生徒会室に響く。

 そんな静かな時間が流れてしばらく経つと、ドアをノックして千夏先生が入ってきた。



「2人ともおつかれ。」

「お疲れ様です千夏先生。」


「お疲れ様です。

 先生に確認してもらいたい書類はこれです。チェックお願いします。」


 千夏先生にひと息つく暇を与える事なく、瑞稀は書類を手渡した。


「あぁ、及川が言ってたやつか……。

 もらう。」


 千夏先生もそれがさも普通のように書類を受け取り、椅子に座って書類に目を通していく。


『智香先輩が居ないと、生徒会室って静かすぎる気がするな……。』


 沙織は静かな時間が好きだが、今は少し寂しく感じる。

 今頃3人はどこでどんな話をしながら、写真を撮っているのだろうと。


「及川、悪いけど珈琲を頼めるか?

 どうも内容が頭に入らない。」


「いいですよ、瑞稀先輩も飲みますか?」

「うん。」



 沙織は珈琲を3杯分淹れて、それぞれに渡していく。


「悪いな。」

「千夏先生は今日はお疲れですか?」


「あぁ。週末に中間試験の問題に手をつけ始めてな。

 学生の時よりも問題を制作する教員になった今の方が頭を抱えているかもな。」


 沙織が「先生は大変なんですね。」と千夏先生に声をかけると、それを聴いた瑞稀が千夏先生のところへ更に書類を積み重ねる。


「千夏先生は問題ないです。もう2週間くらいはこの調子で仕事できます。

 ほら頑張ってください。」


 瑞稀の血も涙も無いセリフに、千夏先生は悪魔でも見たかのように顔面蒼白になる。


「勝又は本当に容赦が無いな。」


『頑張れ先生。』


 沙織はそう心でつぶやいて自分の席で仕事を再開した。




「ん〜。」


 千夏先生が腕を上にあげて背筋を伸ばした。


 その声につられて沙織も頭を上げて時計を見る。

 時計の針は午後6時半になろうかといったところだ。


「瑞稀先輩、そろそろ今日は終わりにしましょうか。

 そろそろ出ないと、学食に間に合わなくなります。」


 集中していた瑞稀は沙織の声に気がつかない。そのまま仕事を続けている。


「瑞稀先輩!」


 今度は瑞稀の横に立ってもう一度声をかける。


「?!」


 瑞稀は驚いて椅子をガタッといわせて立ち上がった。


「先輩、今日は終わりにしましょう?」


 やっと瑞稀も時計を見て外が暗くなっている事に気がついた。


「そうしよう。

 千夏先生、今日チェックしてもらった書類に誤表記や記入漏れは無いですか?

 あれば明日までに直しておきますけど。」

「どこも無い。この書類は勝又が?」


 瑞稀は首を振り、その書類を作ったのは自分では無いと伝える。


「それは沙織が作ってくれました。」

「そうか。及川、よくここまで仕事を覚えたな。」


 瑞稀と千夏先生が褒めてくれたことに、沙織は嬉しくなった。


「ありがとうございます!」

『褒められた。』


 2人に仕事ぶりを評価してもらえたことが、沙織の自信に繋がる。



「この書類は明日、私から橋本に渡しておこう。」

「お願いします。」


「それじゃあ私達は、学食が閉まってしまう前に夕飯を食べようか。」


 瑞稀がそう言うと、沙織は綾乃と夕食の約束をしているので一緒にどうかと瑞稀を誘った。

 瑞稀はスマホを取り出して何かを確認すると、沙織の提案に同意した。


 3人はそれぞれの鞄などに荷物をまとめて、生徒会室を出た。

 戸締りもしっかりと確認して、千夏先生は職員室へ。瑞稀と沙織は学食へと向かって行った。



 瑞稀と2人きりになった沙織は、初めて瑞稀と会った時と比べて、とても落ち着いて会話をしている。

 それどころか、2人の会話の主導権はほとんど沙織が握っている。


「瑞稀先輩。さっき生徒会室でスマホで確認したのって、もしかして智香先輩から何か連絡が入っていたからですか?」


「そう。夕飯は外で食べてくるって。」


 学生寮の生徒は、基本的には学食でご飯を済ませることが多い。

 滅多に外食をする機会は無いから、外出した時には外食をしてくる生徒が多い。

 それを踏まえて、瑞稀は智香からの連絡が入っていたかを確認していたようだ。


「何を食べてくるんですかね?

 普段の学食にはあまり無いメニューとかですかね!」


 瑞稀は楽しそうに想像する沙織を温かく見守っていた。


 学食が見えてくると、綾乃が外で待っていた。


「沙織!」

「綾乃! ごめん待った?」


「全然! まだ7時前だから問題ないよ。

 瑞稀先輩もお仕事お疲れ様です。」


「うん。」


「今日は瑞稀先輩も一緒に?」

「そう、智香先輩達は外で食べてくるみたいだから。」


 ちょうど3人のスマホから通知音が鳴った。

 画面を見ると、写真撮影組から外食の様子が写った写真が送られてきていた。

 その写真には楽しそうに夕食を食べる3人の姿が写っていた。葉月とめぐみも打ち解けたようで、仲睦まじい様子が写真から伝わってきた。


「私達も早く食べましょう。学食も美味しいものいっぱいありますからね!

 外部進学者の私がそう思ってますから、間違いありません!」


「そうですよ瑞稀先輩! 私達も早くご飯の写真を送りましょう!」


 沙織と綾乃は写真撮影組の写真に対抗心を持ったようで、瑞稀をぐいぐいと引っ張って学食へ入って行った。


 そんな雑な扱いをされた瑞稀だったが、後輩から誘われたことが嬉しかった。

 外見で怖がられて、自分は人見知りで。

 智香や葉月以外に会話をすることも難しい時期が長く、同級生でもそんなだったので後輩と話したことはほとんどなかった。


 それが今では普通に会話ができる後輩がいて、その後輩達は一緒にご飯を食べようと、腕を引っ張って学食に連れ出してくれている。



 3人は夕食を選び席に着くと、早速写真を撮って写真撮影組に送った。


 送った写真には、美味しそうな夕食と、笑顔の3人が写っていた。

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