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一貫校の新入生  作者: 相模原 光
入学編
16/59

副会長は苦労人

 後日めぐみは、早速葉月を誘う事に成功したようで、次の週の平日5日間は2人でめぐみの下校ルートを写真撮影をしていく事になったようだ。


 写真撮影の日程が決まってから1週間、それぞれの浮かれっぷりは想像を越えていた。

 めぐみが嬉しそうにしているのは予想通りだったが、葉月が浮かれてカメラのレンズを写真部の部室テーブルに並べて、全てのレンズを分解、清掃する計画表まで作り始めるとは誰も思っていなかった。


 そのせいで葉月と顔を合わせて会話をした人間は、写真部の部員くらいしかいないらしい。



「沙織ちゃ〜ん。

 葉月と同じ部屋に居るはずなのに全然遊んでくれないの!」


 学生寮で同室のはずの智香ですらこんな様子だ。


「きっと写真撮影が楽しみなんですよ。

 ほら、遠足の前にテンションが上がっちゃうみたいな?」


「寝る前にいつもレゴブロックで一緒に遊んでくれたのに……。」

「レゴブロックですか?」


『レゴブロックで遊ぶって、とっても楽しそう……。』


「智香は一緒に遊んでると言ってるけど、レゴブロックは智香が作って、葉月はそれを写真に撮ってるだけなの。

 その写真を見て、智香は壮大なストーリーを想像して、また新しくレゴブロックで作っていく……そんな遊びを夜な夜なやっているらしい。」


 瑞稀が沙織に耳打ちで詳細を教えてくれる。


「だけどその遊び……も写真が関わってるのに、全く反応が無いって事は、相当めぐみとの写真撮影が楽しみで仕方がないんですかね?」


「おそらく葉月は寮生だから、学校の外で写真を撮る事自体が楽しみなんだと思うけど、それを自宅登校しているめぐみちゃんと一緒にできるから、相当楽しみにしているはず。」


瑞稀と沙織が話していると、突然智香が机を叩いて立ち上がった。


「決めた!」


 驚いた沙織は智香に聞く。


「何を決めたんですか? 智香先輩。」


「私もその写真撮影について行く!」


 高らかに宣言した智香と違い、瑞稀は頭を抱えてため息を吐いた。

 沙織は全く状況がわからなかったが、瑞稀の様子から、智香が面倒なことを言っているのは理解した。


「智香……また仕事の途中で遊びに行くつもり?」


 瑞稀は呆れた様子で智香に聞いた。

 どうやら面倒ごとは今回が初めてでは無いようだ。


「仕事に支障が出ないようにやるから!

 お願い瑞稀!」


『仕事の途中でって……。』


「わかった。今回はまだ期間があるし、今週中に仕事を前倒しできるものを終わらせる事。

 それから、2人がついて行っても良いって言わない限り行だちゃ駄目。」

「わかった! 仕事はちゃんと終わらせてから行く。

 2人にもちゃんと聞く。」


『なんだろう……ここは幼稚園だったかな?』


「もうひとつ。

 5日間全部は行っちゃだめ。」

「えっ、なんで?」


 瑞稀は智香の耳元で、沙織に聴こえないくらい小さな声で耳打ちをした。



 瑞稀が自分の席に戻ると、智香は凄い勢いで仕事に取り掛かり始めていった。


 そんな様子に沙織は瑞稀に何を言ったのか聞きに行ったが、瑞稀は「あまり水を差すと、智香が遊びに行って私たちに仕事が流れてくる。」と言って、沙織を席に戻した。


『仕事が流れてくるのは困るけど、どうしても気になっちゃう……。

 瑞稀先輩と智香先輩の……2人の秘密。』



 沙織の頭は変な妄想で溢れていった。

 2人があんな事やこんな事を……。


『きゃー!

 先輩でこんな妄想するなんて、私の頭イカれてる!』


「……沙織?」

「へっ?! だ……大丈夫です!」

「顔、真っ赤……。」

「なんでもないです、なんでもないです!

 いや〜今日は暑いですね!

 あははは〜。」


 瑞稀は不思議そうな表情をしていたが、沙織がなんでもないの一点張りだったので、様子見がてら仕事に戻った。

 智香はそんな2人の会話にも気がつかないくらい、仕事に集中していた。


『私も集中集中!』


 沙織はもう一度仕事に取り掛かった。




 次の日、智香はニコニコしながら生徒会室へやってきた。

 どうやら葉月とめぐみから、同行許可をもらえたようで、いっそう勢いを増して仕事を片付けていった。


 沙織が仕事を覚えていくために、ある程度は仕事を残すようにと瑞稀に言われるほどやり込んでいった。



 そして週末には、次週の仕事もほとんどが終了するほどにまでなっていた。


「瑞稀先輩……本当に智香先輩に何を言ったんですか?」


 智香の1週間で終わらせた仕事量と、仕事ペースに若干の不気味さを感じた沙織は、たまらず瑞稀に訊ねた。


『これは本当におかしい仕事量が終わってる。

 それなのに、どうして智香先輩はこんなに元気なの?』


 瑞稀は少し笑って沙織の質問に答えた。


「秘密。」


「それじゃあ私、この書類を千夏先生に提出してくるから!」


 智香が生徒会室を出て行くと、瑞稀は先程の答えに補足をしていった。


「もう少ししたらわかるよ。

 多分、智香が自分で口を滑らせると思うから、それまで待ってて。」


『智香先輩が自分で……口を滑らせるって、あまり良い表現では無い気がするんですけど。』


 瑞稀のそこまで計算しての計画なのは明白だが、沙織は智香を制御する大変さと、手綱の引き方を間近で1週間見て瑞稀の苦労の片鱗を感じた。


『私だったら絶対にできない。』


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