【漫才】古典病
ボケ「わたしなんて生きていてもしょうがないのよ……」
ツッコミ「どったの先生――たくみ君と何かあった?」
ボケ「後悔の多い人生を送ってきました」
ツッコミ「結構幸せだったと思うよ?」
ボケ「生きるべきか死ぬべきか、それが疑問だわ……」
ツッコミ「とりあえず尼寺へいけ」
ボケ「わたしが一番うまくできることは、倒れたままでいることです……」
ツッコミ「七転び八起きって知ってる?」
ボケ「八回目に立てないときは、すべておしまいよ。もうこれまで」
ツッコミ「下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる!」
ボケ「そうやって人は自分を見失っていくの――当たらないものを当たると信じていくことがいかに絶望的か……あなたには分からないんですね!」
ツッコミ「誰だよおまえ!」
ボケ「当たらないのに毎年年末に大きな夢を買う――嗚呼、なんと絶望的か!」
ツッコミ「良いじゃん、外れたって寄付になるんだから」
ボケ「ほら! そうやって問題をすり替える! 夢を買うことと寄付をすることは別の問題です。そうやって当たらなかったことを別の問題にすり替えるから毎年同じ過ちを繰り返すの! それは自分を騙していることに他ならないわ!」
ツッコミ「急に説教か……いいじゃん夢買っても! それを言ったら鼠の国はどうなるんだよ」
ボケ「絶望的ね――特にファンタジーは……」
ツッコミ「なんでファンタジーは駄目なんだよ」
ボケ「いい?……よく聞いて……クラスの友達に、モデルの翼ちゃんみたいだね――って言われたとするでしょ。そのあと鏡で自分のことを見てごらんなさい……」
ツッコミ「それは絶望的ね……でも、翼ちゃんに近づこうと努力することも必要じゃないかな?」
ボケ「嗚呼! 絶望的だわ! このままじゃ街に翼ちゃんが溢れるわ! 翼ちゃんのクローンだらけになっちゃうわ! 翼ランドだわ!」
ツッコミ「そうじゃなくて、身なりに気を使うのは大切だって言いたいの! そんなネガティブだとたくみ君に嫌われちゃうよ!」
ボケ「そうね、そうやってわたしはたくみ君のおもちゃになるの……愛されるためのおもちゃになるの……」
ツッコミ「そこまでは言ってない」
ボケ「だってそうじゃない! 結婚して子供を産んでも夫のたくみは家事なんてろくにやりもしない。一方わたしは朝早く起きてから寝るまで自由なんてありゃしない! 俗物になり下がるの」
ツッコミ「結婚してないでしょー」
ボケ「わたしね。愛されるんじゃなくて、愛する努力をするべきだと思うの」
ツッコミ「あんたが言うと薄っぺらいわ。けど、その通りね。人はパンのみにて生きるにあらずだよ」
ボケ「嗚呼、なんて典型的な日本人が言いそうなセリフ! 絶望的だわ! だってあなたキリスト教徒じゃないもの!」
ツッコミ「物の例えだよ……」
ボケ「あなた、結婚はキリスト教、正月は神道、葬式は仏教、バレンタイン&ハロウィン&クリスマスうぇーい、な日本人なの? そうなのよね?」
ツッコミ「あぁ、そうですよ。どうせわたしは、結婚はキリスト教、正月は神道、葬式は仏教、バレンタイン&ハロウィン&クリスマスうぇーい、な日本人ですよ!」
ボケ「薄っぺらい! あなたこそ薄っぺらいわ!」
ツッコミ「そういうあなたはどうなのよ」
ボケ「わたし? わたしはそもそも、己の理性を批判しつつ道徳的に生きる道を選んでいるから問題ないわ」
ツッコミ「意味わからん……どういうこと?」
ボケ「日本には日本の道徳があるわけでしょ? だから、たとえそれがおかしいと思ったとしても、それはそれとして受け入れていくのよ」
ツッコミ「それわたしと同じじゃないの?……」
ボケ「いいえ、ぜんぜん違うわ」
ツッコミ「ふーん。ところでさ先生」
ボケ「なに?」
ツッコミ「道徳って何?」
ボケ「えーっと……」
ツッコミ「今日は太陽が眩しいな……あ、頭がぼうっとしてきちゃうよ」
ボケ「こ、殺される……」
全部わかったら凄い。
夏目漱石『こころ』→太宰治『人間失格』→シェイクスピア『ハムレット』→フランツ・カフカ→セーレン・キルケゴール『死に至る病』→エーリッヒ・フロム『愛するということ』→イマヌエル・カント→アルベール・カミュ『異邦人』