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商業都市の情報屋 ③

 自分が情報屋のおっさんに聞いたことはこの世界について、いやそれだけじゃない。世界の情勢やこの街や周辺の地理、この世界のシステムについてなど、内容は多岐に渡った。

 それらの質問におっさんはほぼ全て答えてくれたのだ。流石情報屋といったところか。


 おっさんが自分に語ってくれた内容の中で自分が理解できた内容は、まずはこの世界には魔族と呼ばれる種族がおり、長きに渡って人間との戦争を続けていることだ。

 そして魔族は一度自分が戦ったゴブリンやスケルトンなどといった魔物と呼ばれる生物の大半を支配下に置いており、それらを利用して人間を攻撃している。

 

 各国の軍隊は魔族軍との戦闘で忙しく、魔物の相手までするのは厳しい。そこで生まれたのが国家とは別に民間で魔物や魔族軍と戦う者達、魔物ハンター。

 ただ、彼らの大半は魔物が死ぬと宝石になるという性質を利用して、その宝石を売り金銭を手に入れる為に戦っているらしいが。

 その性質上、魔物ハンターは常に死の危険と隣り合わせだが、ハンターとして成功すれば一気に大金を得ることも決して不可能ではない。

 それに、一部のハンターは魔族の大物とされる人物を討伐する機会もあるらしい。魔王討伐までいけるかはわからないが。

 

 つまり、魔物ハンターというのはこの世界での生活に必要な資金稼ぎと本来の目的である魔王討伐を両方こなすことができる職業という訳だ。

 そして、そのハンターとやらはこのヒスブルクにも拠点を構えているという話もある。


 次に、この世界には魔法が存在するということ。

 魔法は魔力と呼ばれる精神的なエネルギーを具現化して放つ物で、この世界における基本的な技能らしい。

 魔法を使うには脳内におけるイメージと呪文の詠唱の二つ、そして術者の魔力が必要である。

 そして、魔力は精神を集中させることにより一時的にだが増幅させることができる。自分とゴブリンが戦った時のように、だ。

 

 ただ、一人ひとりには扱える魔力の限界があり、鍛えることで魔力の限界を上げない限りはそれを超えて魔力を増幅させることはできない。

 ちなみに、自分の魔力の限界はこの世界の平均とほぼ同じくらいらしい。魔力に関しては凡人並といったところか。何故そんな人間に魔王討伐をさせようとするのかが理解できない。

 まあ、やらないと元の世界に戻れない以上やるしかないのだが。


 そして、ここやその周辺の地理についてだ。

 ヒスブルクはあらゆる国家から独立した都市国家とも言えるような都市であり、同時にこの世界でも有数の商業都市であるらしいのだ。

 商業都市であるヒスブルクにはさまざまな人種の人間が住んでいて、なおかつそれらが共存している。

 更に、この街の最高指導者は街の有力者限定とはいえ、投票で決定されるらしい。民主主義って中世のような世界にも普通にあるんだな。

 

 そして、この街の西にはゴブリンの集落とされる危険地帯がある。ゴブリンに襲われたことを考えると、どうやら自分はヒスブルクから見て西にある場所からここに来たらしい。

 南方にはフェルガウという都市があるが、そこは数年前に魔族軍に滅ぼされた国の首都であり、現在は魔族の支配下にある。


 それと、この世界の言語についても聞いている。

 こちらはおっさんが言うには、別の世界から来た人間には、(来た人間から見て)別の世界の言語は普段自分が使っている言語、自分の場合は日本語に自動翻訳されるとのこと。ちなみにこれはスキルとは別の物らしい。

 これはこの世界以外の別の世界においても適用されるようだ。

 言語の問題はこれで一安心といったところか。 


 その他、詳しい世界情勢などもこの世界の知識を得る目的で聞いたのだが、こちらはおっさんの発言が固有名詞と聞いたこともないような難解な単語ばかりで、ほとんど理解できなかった。

 流石にほぼ何も知らない世界の政治や歴史について理解するのは自分にとって敷居が高かったか。


 これらの内容から考えると、これから自分がやるべきことはただ一つ。

 魔王討伐とこの世界での生活資金のために魔物ハンターになることだ。

 

 これに関してはおっさんが言っていたことそのままなのだが。そのせいなのか、おっさんにこれからやることを決められている感も多少出ているが。

 とりあえず、ハンターになるためにハンターの拠点とやらに行くとするか。


 とにかく、この世界で生き残るための知識を少しは得られたのは助かった。

 この世界で生きるための知識が無ければ魔王討伐どころかそこら辺で野垂れ死にするだろうし。

 おっさんには感謝しかない。


「ありがとうございました」


 自分は情報屋のおっさんに感謝の気持ちを伝え、情報屋を去ろうとする。

 だが、スライの奴はここから出ようとする素振りを全く見せない。 

 それに、コイツの目は明らかに自分の方向に向いている。口は何やら笑いを抑えているようにも見えなきもない。

 自分は何かおかしな行動をしているのか? いやそんなはずはない。

 

 まあ、コイツの役割を考えると、自分が外に出れば付いて来るだろう。一応自分のお付け目らしいし。


 そう思いながら、ここから外に出ようとドアを開けた瞬間――


 自分の瞳に映ったのは、光という物が全く感じられない程に、黒く染まった空だった。

 あまりの暗さに自分の影どころか、周辺の建物すらまともに確認することができない。

 唯一まともに確認できるのは、空にポツンと一つだけある薄緑色に輝く月のような物だけだ。


 この状況で自分が理解できることはただ一つ、自分がここにいる間に夜になっていたということだ。

 

「今はもう夜だぜ。泊まる場所も無いっつーのにどこに行くつもりなんだ? まさか野宿でもするつもりか?」


 スライが強い口調でそう言い放つ。

 ノープランだった。これからの行き先なんてハンターの拠点に行くくらいしか考えてなかったのだ。

 もちろん、泊まるあてなんて全くない。

 

 このような事実に気付かされたのだ。

 そして、これに気付いてしまった以上、この世界での生活は詰んだような物である。

 睡眠すらまともに取れない人間が生き残ることは出来ないからだ。


「そんな訳あるか! 野宿なんて全く考えてねえよ!」


「じゃあノープランだったってことか。何も考えずに行動するとか馬鹿なのか?」


「ノープランだったのは認めるが、馬鹿は余計だろ!」


 自分とスライがそのような言い争いをしていると、突然おっさんが今日はここに泊まってもいいと自分に伝えてきた。

 少しの間だけではあるが深刻だと考えていた問題は一瞬で解決した。それも予想外の方向からだ。


「……本当にここに泊まっていいんですか?」


 自分がそう聞くと、おっさんは本当だと答える。


「オイラは最初からここに泊まろうとしたんだけどな」


 スライがそう言った。

 だからコイツはさっきここから出ようとしなかったのか。

 でも、いくらコイツの知り合いとはいえ、普通は泊めてくれるなんて考えないとは思うが。


「明日にでも魔物ハンターの拠点に行くんだろう。そのためにも今日はここで泊まるといい。ほら、中に入って」 


「……お言葉に甘えさせていただきます」


 自分はおっさんにそう伝えると、再び情報屋の中へと足を踏み入れた。

 

 今日はここでしっかり寝て、明日以降に備えるとするか。

 そう考えていると、急に眠気が襲ってきた。


 ◆



「起きろ! もう朝だぞ!」


 とても大きな声が、突然耳に鳴り響く。

 自分の両親ではない、でも何処かで聞いたことがあるような声だった。


「いきなり大声はやめろよ……」

 

 それに驚いた自分はそう言いながら目を覚ます。

 こっちはまだ眠いのだがら、誰であろうと大声で起こすのはやめて欲しいのだが。


 目を開くと、眩しい光が自分の目に大量に入ってきた。

 それと同時に、ここが少なくとも建物の1階ではないことと、自分の目の前に緑色の物体がいることに気付く。


 スライの奴だった。大声で自分を起こしたのはコイツか。


 スライがいるってことを考えると、昨日のことは夢ではなかったらしい。

 だが、自分は情報屋に再び入ったとこからは何も覚えていないのだ。

 今、自分がいるのは革で出来たベットの上である。こんなところに来た覚えは全くない。


 スライに何故自分がここにいるのかを聞いてみると、スライは少し驚いた顔をして


「何も覚えていないのかよ、お前は情報屋に色々と聞いてからすぐにここに来て眠っただろ。まるで死んだかのようにな」


 どうやら自分はあの後すぐに眠ってしまったらしい。あの後の記憶が無いのは、眠さのあまりに何も覚えていなかっただけということだろう。

 

「とりあえず今日はハンターの拠点に行ってみるんだろ?」


 スライがそう言ったので自分がうなずくと、なら早く準備しろという声が瞬時に飛んできた。

 だいたい朝っていっても、今が何時かわからないと早くしろと言われてもピンと来ないのだが。


「早くしろ、早くしろとか言ってるけどさ、今何時かわからないと早い遅いなんて何も感じられないだろ」


「この世界にはお前のいた世界と違って時間を計るなんて便利な物はまず無いんだ。そうなるとなるべく早く行動しないとすぐ夜になっちまうぜ」


「マジかよ……」


 スライによると、こっちの世界には時計なんて物はまず無いらしい。なら早めの行動を心がけろという意見ももっともかもしれない。

 まあ、砂時計くらいはどっかにあるんだろうけど。

 そう思いながら自分は準備をする……といっても、何も持ち合わせていない以上、準備することなんてあまりないのだが。


 準備を終わらせた自分は階段を下りると、下の階には情報屋のおっさんがいたので、一応挨拶をすると、おっさんはもう行くのかと言ってくる。

 自分がそうだと伝えると、おっさんは一つ言い忘れていたことがあると唐突に自分に言ってきた。

 それが何の話かと思って聞いてみたら、その内容は意外かつ衝撃的な物だったのだ。


「言い忘れていたのだが、スキルというのは私のような特殊な立場の者にしか通用しない単語だ。他人の前で使うのは控えるように」


 そうおっさんが言ったのだ。

 この発言から考えられることはただ一つ、



 スキル



 この単語がこの世界では通用しないということだ。

 ならどうやってこの世界の人間はスキルを認識しているのだろうか? 謎である。

 まあ、この世界の人間が日常的に固有スキルとか共通スキルとか言っているのはかなりの違和感があるし、こっちの方が自然だろう。ゲームの世界じゃあるまいし。


 そのようなことに驚いていると、後ろからさっさと行くぞと、スライの声が飛んできた。

 そうだ、早く行動しないとまずいって言われたばっかだったな。


「何か困ったことがあったらまた来てくれよ」


 おっさんがそう言った後に、自分はおっさんに別れの挨拶を告げる。

 そして後ろを振り向くと、目に映ったのは扉の向こうに見える外の景色だけだった。


 ……どうやらアイツに置いていかれたらしい。


「あの野郎!」


 自分は顔を赤くしてそう叫びながら、情報屋を飛び出していった。

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