商業都市の情報屋 ①
「着いたぞ! ここがヒスブルクだ!」
スライがそう言った時、自分の目の前には元の世界では絶対に見られないような風景が映っていた。
海岸の近くには石で出来た建物が多く並んでおり、海に面している部分以外は壁で囲まれている。
そして城壁の内側では、海の近くにある巨大な灯台がどこまでも続いている海を照らしている。
それだけじゃない、街の中心部とおぼしき場所には巨大な城のような物まである。
まるで空想上の世界のようである。
だがこれは現実なのだ。少なくとも自分にとっては。
「ここがヒスブルクなのか……」
自分は街を見ながらそう呟いた。
このような物を実際に見るのは初めてだからだ。
こんな中世ヨーロッパみたいな街を実際に見ることができるのは感動ものである
でも、街の中に入れるとなれば話は別だ。
どうやら門番が街の出入りを管理しているようなので、自分みたいな何処から来たのかもわからない謎の人間はそう簡単に街に入れないだろう
それに正体不明の生物も同行しているし。ここって自分達が入れるのか?
そう思いながら、自分はスライに入れるかどうか聞いてみた。
「でも俺達ってここに入れるのか? どうやら門番が街の出入りを管理しているようだし」
「この街の門番は結構緩いことで有名なんだ。通行証を持ってないお前みたいな奴でも用件を言えば街に入れてくれるぜ」
スライがそう返してきた。
そうか、ここの門番って結構ザルな警備をしてるのな。
パッと見怪しすぎる自分達ですら普通に入れてくれるって門番としては結構ヤバイような気が……
まあ、入れなかったらそれはそれでヤバイのだが。
「それじゃ、さっそく街に入るぞ!」
スライはそう言うと、門へと向かっていった。
自分も後に続いて門へと向かう。
自分が門の前に着くと、門番が通行証の提示を求めてきたが、自分は当然持ってないと答えた。
すると、門番はこう言った。
「通行証を持ってないのか……、まあいい。他の街とは違ってここでは通行証を持っていなくても一応街へ入ることができるからな」
どうやらスライの言っていた通り、通行証を持ってなくても入ることはできるらしい。
ザル警備とも取れるが。
「本当ですか!?」
「だが、代わりに用件の確認と、お前の持ち物を少し見させてもらう必要がある」
でも、用件確認や持ち物検査はあるのな。門番もそこまでザルではなかったか。
そりゃあただ通行者を中に通してたら門番のいる意味もないだろうからな。
こうして自分は用件を説明し、その後に持ち物検査を受けることになった。
だがその途中に、自分は門番にあることを尋ねられたのだ。
「そういや、お前の近くにいる生物は何なんだ?」
おそらくスライのことだろう。
コイツは見た目からして、おそらくこの世界の一般人からしたら謎の生物でしかない。怪しまれる要素の塊である。自分からしても謎の生物であるが。
実はコイツは神の使いです、だとか言っても絶対に信用されないだろうし。むしろ怪しまれるだけだ。
そうなると、ここで言うべき言葉は……
「自分のペットです」
もちろん嘘である。
でもこうしないと怪しまれて街に入れなくなるだけだ。仕方がない。
「……まあいい、通れ!」
持ち物検査が終わると同時に門番はそう言うと、速やかに門を開けた。
そうして開いた門を自分達は通り抜け、ヒスブルクの街へと入ろうとする。
「でもなあ……、オイラがお前のペットなんてそりゃないぜ」
「そうやって言わなかったら、お前の存在が怪しまれて街に入れないかもしれなかっただろ」
スライとそのような会話をしながら、自分はヒスブルクの街に足を踏み入れた。
だがここで唐突に気になったことがある。
今更過ぎる内容なのだが、言語の問題のことだ。
自分に門番の言葉がしっかり理解てきて、なおかつ自分の言葉が門番に通じているのかが謎なのだ。
そういや、先程のゴブリンの言葉も自分は理解できていた。
もちろん自分は異世界の言語なんて物は知らない。
そこで考えられる可能性は二つである。
まず一つは、異世界における公用語が日本語であること。もう一つは、自分が言語理解に関わるスキルを持っていること。
前者はともかく、後者だった場合は、自分にそんな内容のスキルを与えられたという話を全く聞いていない以上、自分は説明不足のまま異世界に飛ばされたこととなる。
前者であることを祈ろう。
そう考えながら街に入ると、スライが街の情報屋の元に案内する、と言って急に走り出した。
もちろん自分も付いて行く。情報屋の居場所は自分にはわからないからだ。
「お前、最近の魔物狩りの調子はどうだ?」
「最近はゴブリン1体くらいかな。俺って結構弱いから」
「ははは、俺はゴブリン2体にオーガ1体だぜ。凄いだろ!」
「嘘つけ! お前なんかにオーガなんか倒せる訳ないだろ!」
スライを追いかけていると、このような会話が聞こえてきた。
このような会話がこの世界における日常会話なのだろうか。
でも、"魔物狩り"ってのは何なんだ? これが少し気になった。
まあ、今の自分には関係無いことか。
そう思いながら、自分はスライの後を追い続けていると、急にスライが立ち止まり、ここが情報屋の居場所だと言った。
しかしスライの前には、ただの民家にしか見えない石造りの建物が建っているだけだった。
どうやらスライはここが情報屋の居場所と言っているらしい。
本当にここが情報屋の居場所なのか?
自分にはただの民家にしか見えないのだが。
「本当にここが情報屋の居場所なのか?」
「そうさ。ここが情報屋の家。見た目はただの民家だけどな」
「情報屋ってさ、謎の多いイメージがあるから変わった建物にいるのかと思ったけど、普通の民家にいるのかよ」
「んじゃ入るぜ、付いて来い」
スライはそう言うと、建物の中に入っていった。
でもこれって不法侵入になるんじゃ……と自分が思った、その時だった――
「おおスライじゃないか、何か用があるのか?」
「実は別の世界から連れて来た奴がいてな、お前にそいつに対してこの世界について色々と教えて欲しいんだ」
「ああそういうことか、それなら別に問題ない。後、それに関しては私からも少し話したいことがあるんでね」
と、建物の中からスライと奇妙なおっさんのような声をした人物が話しているのが聞こえてきたのだ。
「おーい、誰かそこにいるんだろう、まずは家に入ってくれ」
またおっさんの声が建物の中から聞こえてきた。しかも今度は自分を呼んでいる内容だ。
何か怪しい、これは何か自分の知らない事情があるのか?
そう思いながら、自分は声に呼ばれて情報屋の家らしき建物に入っていった。