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まさかまさかの異世界転移 ③

「うわっ!」


 自分は咄嗟に体が向いている方向に飛び込み、真後ろからの突然の攻撃を回避した。

 だが相手の攻撃速度が速かったのか、一瞬自分の背中に攻撃が掠ってしまった。

 

「チッ……今のは外したか」


 相手がそう言い放つ。

 

 自分が立ち上がりつつ相手を見てみると、襲ってきた相手は緑色の肌をした小人であることがわかった。、

 見た目からして間違いなく人間ではない。化物である。

 同じ攻撃でも人間の物ならともかく、未知の化物の物を何度も避けられる自信は自分には無い。

 

「だが、次は外さん!」


 化物がそう叫ぶと、自分に向かって殴りかかってきた。

 

 化物の攻撃は先程の物よりも明らかに速くなっている。自分が避けようとしても先に攻撃が当たるだろう。

 間違いなく本気だ。


 やられる。

 それも討伐対象の魔王ではなく、そこらの化物相手にである。

 このままの状態だと使命を果たして元の世界に戻るのは絶対に無理だ。

 

 元の世界に帰る為には絶対にこの局面を突破しなければならない。

 どうすればいい、何か手段はあるのか?

 

 

 

 一つだけあった。

 

 

 ラーニングだ。


 ラーニングで相手のスキルをコピーし、即座にコピーしたスキルで相手を攻撃できればこの局面をどうにかできるかもしれない。

 だが、相手がスキルで攻撃してこなかった場合、もしくは相手の攻撃が固有スキルでの攻撃だった場合は、大人しく攻撃を受けるしかない。

 つまり、運が悪かったらここで終わり、元の世界に戻ることは永遠に不可能になるということだ。

 他に手段など残されてはいない。今の自分はこれに賭けるしかない。


 乾坤一擲の大勝負だ。やってやる。


 だがどうやって相手のスキルをラーニングするんだ?

 やり方がわからない以上どうしようもない。


 

 自分がそうこうしている内に化物は自分の目の前まで到達していた。

 

「死ねえええッ!!!」


 化物の拳が目にも留まらぬ速さで自分の体に向かってくる。喰らったらただでは済まないだろう。

 でも今はこれをラーニングできるかどうかに賭けるしかない。これを避けて反撃に移るなんて到底不可能だ。


 自分は相手の攻撃をラーニングできることを祈りつつ、相手の攻撃を待ち構えた。


 その直後――


 全身に衝撃が走った。

 化物の拳が自分の体に直撃したのだ。

 

「ぐわっ!!!」


 痛みで自分は思わず声を上げた。

 痛い、それも元の世界では感じたことのないくらいに。


 そして痛みを感じたのとほぼ同時に、自分の体がパンチの衝撃で吹き飛ばされる。

 


 終わった。

 

 

 

 自分がそう思いかけた時だった。


 再び全身に衝撃が走った。

 痺れるような、でも痛みとは何かが決定的に違うような衝撃が。

 間違いなく相手のパンチによる衝撃では無い。


 それと同時に何故かはわからないが、痺れと共に力がみなぎってきたのだ。今まで感じたことのないような力が。


 体が地面に叩きつけられた瞬間、自分の身に何が起こっているのかを感覚的に理解できた。


 自分のスキルであるラーニングが発動したことを。

 

 証拠は無い、だが自分の脳はそのように判断している。

 

 ここから立ち上がることさえ出来れば相手に反撃ができる。

 自分はそう思いつつ、激しい痛みを堪えて立ち上がった。


「何だと!? 俺のゴブリンパンチを喰らってもまだ立ち上がることができるのか!?」


 "ゴブリンパンチ"という名称を聞いて初めてこの化物が何かを理解した。

 そうか、今の自分はそこらのゴブリン相手に苦戦していたのか。

 今の自分をRPGに例えると最序盤でやられそうになっているような物じゃないか。


 まあいい。

 先程の攻撃をラーニング出来た以上、ここからはこっちのターンである。

 お前からラーニングしたゴブリンパンチとやらを今度はお前の体にぶち込んでやるぞ。

 

「うおおおおおお!!!」


 そう叫びながら自分はゴブリンに向かってゴブリンパンチを放つ。

 このままゴブリンにも先程自分が喰らった一撃をそっくりそのままお見舞いする……はずだった。


 自分の拳が相手の体に命中した瞬間、自分のパンチがゴブリンに全く効いていないことに気づくと同時に、自分の拳が痛んだのだ。

 

「何だァ……今のパンチは」


 ゴブリンがそう言い放つ。

 まさか、今自分が放った一撃はゴブリンパンチでは無かったのか?

 ラーニング出来たと思っていたのだが……


「俺を馬鹿にしてるのかァ!!!」


 ゴブリンの声と共に、自分のパンチに対する反撃が飛んでくる。

 マズい、今度こそ本当に死ぬ。


 

 その時だった――


 何処かで見たことのある様なゼリー状の物体がゴブリンに飛びかったのだ。

 

「ぐわっ!」


 よろめきながらゴブリンが後ろに退く。

 

 

 この自分を助けに来た物体はまさか……? 

 色や形から自分にはアイツが助けに来たとしか考えられなかった。


「スライ!!!」


 自分はそう叫ぶ。


「全く……オイラがいないとそこらのゴブリン相手にすら殺されそうじゃないか。しかもラーニングしたスキルがゴブリンパンチじゃないと来た。このままだと反撃なんてできねえぞ!」


「うるせえ! って言いたいけども、これが俺の現実のようだな。何か打開策はあるのか?」


「打開策? それならオイラに任せろ!」


 そうスライが言うと、スライの体が瞬く間に剣の形、いや剣そのものに変化した。

 スライの"武器変化"だ。

 

 そして、自分はスライが何をしようとしているのかを瞬時に理解した。


「タツヤ! オイラを使え!」


「おう!」


 自分はそう返すと、剣となったスライを取り、ゴブリンに向けて構えた。

 


「で、構えたまではいいんだげど、俺は剣の使い方なんて全く知らないんだけど!」


「ならオイラの言う通りにしろ!」


 とりあえずスライの言う通りにやってみるか。

 自分は剣の扱い方なんて知らないし。


「まずは精神を集中するんだ」


 精神を集中させる?

 剣を扱うのに精神集中ってどういうことだ?


「剣になった状態のオイラは、オイラを扱う奴の魔力の大きさによって威力や切れ味が変化する」


「魔力って?」


「魔力ってのは生物の体内に備わっている精神的なエネルギーのことで、これを利用することによって様々な現象を引き起こすことができるんだ」


「そして魔力は精神を集中させることで一時的に増幅させることができる」


「タツヤ! お前にも魔力はあるはずだ。ぶっつけ本番になるがやってみろ!」


 魔力とやらで剣の性質が変わるのか。これはなかなか変わった剣のようだな。


 そう思いながら、自分が精神を集中させた。

 すると、何処からともなく何か得体の知れない力が湧いてくる。

 体が熱い。自分から何かが解き放たれそうな感覚がする。

 

 そうか、これが魔力って奴なのか。

 

「そのままオイラがいいって言うまでは剣を振らずに、精神を集中し続けるんだ」


 スライがそう言った。


 だが、そうこうしている内に、


「ちょっと邪魔が入ったが、二人まとめて始末してくれるわ!!!」

 

 と叫びながら、ゴブリンが再び自分に対して殴りかかってきた。

 

 来る。

 またあのパンチが来るぞ。


 そう思いつつも、自分は剣を構えたまま精神を集中し続ける。 


 

 次第にゴブリンが自分に近づいてくる。

 先程と同じ、いや違う。先程よりも少しだけ速い速度で。


 どんどん間合いを詰められていく。

 まだか、まだ剣を振らないのか。


 そして、今にもゴブリンの拳が自分に向かって飛んでくるという距離まで相手が近づいたその時――


「タツヤ、今だ! 相手を斬れ!!」


 スライの声だ。

 今が剣を振る機会なのか。


「うおおおおお!!!」


 自分はこの一撃に全てを賭けるという思いで、渾身の力を込めて剣を振るう。

 しかし、それと同時にゴブリンの拳も物凄い速度で自分に襲いかかってくる。


 剣と拳、どちらが先か。

 その答えは……

 

 「ぐわあああああああ!!!」


 ゴブリンの悲鳴と共に、辺りに鮮血が飛び散った。

 自分の渾身の一撃が先だった。


 ゴブリンは前方に倒れると、みるみる内に体がが青っぽい宝石のように変化していった。

 

 ん? ちょっと待て。

 何でゴブリンが宝石になるんだ?


「何でゴブリンが宝石みたいな形に変化したんだ? 倒したんじゃないのか?」

  

「この世界の魔物は自然な死に方じゃない死に方をした場合、死ぬ瞬間に体が宝石へと変化するんだ。それを利用して宝石を集め、売ることによって生計を立てている奴もいるぜ」


 魔物が死ぬと宝石になる仕組みなのか。

 話によると魔物狩りで暮らす奴もいるらしいし魔物を狩り続ければ金には困らないのではないか?


 まあ、今の自分の力では到底無理だろうが。


 後もう一つ気になったことがある。自分がラーニングしたスキルがゴブリンパンチじゃないとスライが言っていたことについてだ。

 言い方的にもラーニングに失敗した訳では無さそうだし。


「もう一つ気になったことがあるんだけど、俺がラーニングしたスキルがゴブリンパンチじゃないってどういうことなんだ?」


「それについてはオイラもよくわからないんだけど、何故かお前がラーニングしたスキルは共通スキルのゴブリンパンチじゃなくて奴の固有スキルの"成長促進"だったんだ」


 ラーニングしたスキルが固有スキル?

 固有スキルをラーニングするのは不可能ってあの少女が言っていたはずなのだが。

 それにラーニングって普通自分が受けた技をコピーする物なんじゃないのか?

 不思議である。


「ちなみにお前がラーニングした"成長促進"は保有者の能力の成長を早めるスキル、確実にゴブリンパンチよりも有用だろうから結果的には良かったんじゃないの?」


 まあ結果オーライってとこか。


「でもこの世界についての知識が豊富そうなスライでもわからないことってあるんだな」


「オイラだって生き物である以上知らないことだってあるに決まってるだろ」


「お前だって知らないことがあるんだな。わかった」


「さて、話も済んだし今度こそヒスブルクに行くぞ!」

 

 スライはそう言うと、街のある方向に進み始めた。

 やはり進む速度は速く、走らなきゃすぐアイツを見失いそうだ


「俺も行くか」 


 自分はそう言いながら、スライと同じ方向に走ろうとした。


 その時だった――


「いてえええ!」


 自分の体に激痛が走った。おそらくゴブリン戦でのダメージによる物だろう。

 そしてその痛みを堪えながら走ろうとした結果、自分の走る速度はスライよりもかなり遅くなってしまった。

 だが、スライはそんなこっちの事情を知らんとばかりに走り続ける。


 自分とスライの距離がどんどん離れていく。今にもスライが見えなくなりそうだ。


「待ってくれえええええ!!!」


 自分はそう叫びながら、痛みを堪えてスライの後を追い続けた。

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