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虹森町の逆さ虹の少女

 僕は7色の道から出てきた少女の近くへと歩いて行く。


「ゆかりちゃん」僕はゆかりに近づく。


 ゆかりの目。ちょっと涙がたまってうるうるしている。


 ゆかりちゃんは抱きついてきた。


「何年ぶり? ここの時間だと7年ぶりぐらい」ぎゅっとしてくるゆかり。


「あの後、探したんだよ。7歳のころからずっと…」僕はゆかりのぬくもりを感じながら言った。


「えーとね。現地の子とあまり会っちゃいけないと親に言われて会わないようにしていたの。ごめんね。遠くから見てたよ… でもね。そのうち、こっちに来ることができなくなって」


『良かったな』蛇が言う。


 いつのまにか動物のみんながこっち見ている。


『僕は戻るよ…はちみつを回収しないと…』熊が言う。


『まだ。はちみつとるのかよ』蛇が熊を見て言う。


『空き瓶が家にあるから、いまのうちに…ねえ…お願いがあるんだよ。狐君。僕の家から空き瓶を取ってきてくれるかな?』熊がお願いをした。


『いいよ。その代りに僕にも分けてよね』と狐。


『うん』

 動物達は僕たちのそばから離れていった。


「すっかり森の動物さんたちと仲良くなったのね… そうだあたしの家へ案内してあげる」


 ゆかりは、ぽけっとから何か板状のものを取り出し、ボタンを押した。


 すると、逆さ虹は消えて、7色の道が現れた。


「こっち」ゆかりは7色の道の上に乗る。道の上を乗って歩いて行く。


 僕はそっと7色の道に足を乗せる。うん。歩けそうだ。


 僕は恐る恐る。7色の道の上を歩く。


 ゆかりの後について行くと、いつのまにかあたりの景色が変わっていた。

 

 森の中なんだけど、見たことがない山が見える。


 そして気温。ちょっとだけ寒い。


「ねえ。ここは?」僕はあたりを見回す。


 ゆかりはくるりと振り返り言った「ここがあたし達が住んでいる世界。あたし達は頭に耳があるの。ちょうどアライグマのような耳と尻尾があるの。それが普通。びっくりした?」

  ゆかりは、帽子を頭からとって言う。


 はっきり見える。ゆかりの頭の上にちょこんと乗ったアライグマのような耳。それとしましまの尻尾。


「ぷっ」僕はふいてしまった。


「なによもう… そんなに変?」ゆかりはほっぺたを膨らませた。


「いや。なんか。可愛いなあと思って… ずっと君を探していたんだよ…」


 ゆかりは再びくるりとまわる。尻尾が遠心力で持ち上がる。


「あたしの家でお茶をごちそうするね。そのときに話してあげる…」


 ゆかりは森の道を歩く。


 僕はゆかりの後をついて歩く。


☆☆☆


 ゆかりの住んでいる家に入る。


「おじゃましまーす」僕は言い、玄関から入る。


 森の中にある木でできたお家。


「だれもいないの」ゆかりは言った。


 そこに座ってと、居間っぽい部屋へと通されて、椅子に座る。


 ゆかりは、ポットのようなものを手に取り、水を入れてからぽっとを空中に固定させる。

 スイッチを押すと、赤い光がポットを四方八方から照射するように光る。

 10秒後。ぽっとから湯気が立ち上る。


 ゆかりはスイッチを押して、赤い光を止めてから、ポットを手にとって、茶葉が入っているグラスにお湯を注ぐ。


 植物の茎のようなものを1本。グラスに入れる。


「これは?」僕はグラスの中身のことを聞いた。


「たぶん。お茶。ハーブティーに近いかな… そして植物の茎は入れると甘味が出るの…

熱いから注意してね…」


 ふーふして、お茶を飲む。


 あ。あったまる。飲んだことがない味。なんだろう。飲みやすい。


「あと、昔忘れて行った帽子と、借りていたハンカチを返すね」

 僕は昔、ゆかりが忘れて行った帽子とハンカチをカバンから取り出した。


「うん。今まで大事に持っていてくれたんだね…」ゆかりに帽子とハンカチを手渡す。


「あはは。この帽子。こんなに小さかったんだね」ゆかりは帽子をかぶってみる。大きさは体と合わなくなっている。


 僕は。あははと笑ってから「ところで。あのポットとか、君の頭の耳とか気になるところがあるんだけど…」僕は聞いてみることにした。


「えーとね。最初から話すね…」ゆかりは話だした。


 今から400年前。ここにあたし達のグループはここに、不時着したの。

 あたし達は宇宙から来て。しばらくこの土地にとどまることにした。とゆかりは言った。

 世界間を移動できる虹があって。この土地の崖と崖の間に逆さ虹を渡していたの。

 逆さ虹をわたす理由は、この土地にあるエネルギーを充電するため、ある程度エネルギーがたまったら、世界間を移動できるの。あたし達はこの世界と、しんご君がいる世界を行き来して暮らしてきたの。

 そんなとき、この森にゴミの不法投棄がされるようになって、森のエネルギーが弱くなっちゃったの。

 ちょうどあたし達はこの世界に来ていたから、しんご君の世界にしばらく行けなくなってしまっていたの。最近。エネルギーが回復してきたから世界を行き来できるようになったんだけど、向こうの世界につなげることができなくて、困っていたの。

 と熱いお茶を飲みながら、ゆかりは話してくれた。


ゆかりは「今日。ちょうどね。あなたの世界とつながったから、虹の道を使って出て行ったら、しんご君がいたの…」と言った。


「そうなんだ。ひょっとしておんぼろ吊り橋のところの小屋のせい? あそこに壁にプレートを指したからかな…」


「えっ」ゆかりの頭の耳がぴこっと動いた。


 そうそう。とゆかりは言った。


「うん。やっぱり。ありがと。あのプレートが壁にささっていないと、しんご君の世界に行けないの…」


 僕とゆかりは2時間ぐらい、いろいろな話をした。ゆかりの住んでいる世界のこと。

 ゆかりの家族のこと。

 今はゆかりの家族はもういない。1人だけ。しばらく前に親は他の世界へと出て行って戻ってきていないという。


 気が付くと、あたりは夕焼けの色となっていた。


「ああ。もうすっかり遅くなっちゃった。もう帰らないと…」僕は椅子から立ち上がった。


「ねえ。ここはすぐに日が暮れてしまう。今日は泊まっていかない?」ゆかりが言ってくる。


「えー。でも家に帰らないと… 連絡してないし…」


「うん。大丈夫。虹の道。時間移動ができるの。ちょっとだけならね… 今日は泊まっていって、明日になったら、一日戻って帰るといいよ…

そうしたら、しんご君は夕方には帰ることができるよ」


「へー。そうなんだ。じゃあ泊まっていこうか…」と言いかけた。


 えーと。ゆかりちゃんは、一人暮らしなんだよね。大丈夫かな。僕は思った。


 けれども「ねえ。今日の夕食は何がいい? 魚介と、お肉のスープとお野菜でいいかな」

 ルンルン気分で、ゆかりは聞いてくる。


「えーと。うん。お願い…」僕は泊まっていくことにした。


☆☆☆


 夕食。シンプルな料理だがおいしかった。何かの魚介を焼いたもの。お肉が入った澄んだ色のスープ。何らかのお肉と何かの根菜が入っていた。そしてナスに似た感じの野菜をみそで焼いたもの。

 みそだと思ったのは別の似たものだった。


 夕食後。バルコニーから外に出てみる。ちょっと寒い。


「ねえ。これを着てくれるかな。寒いでしょ」とゆかりは上着を渡してきた。

「うん。ありがと」僕はゆかりに言った。


「ねえ。しんご君。あなたの見たことがある星座。ここから見えるかな…」


 ゆかりは空を指さす。僕はゆかりの指を指す方向を見る。


 うーん。えーと。星が3つ斜めに並んでいて…


「あ。ひょっとして。オリオン座?」オリオン座の形と良く似ている。けれども形がちょっと違い、少し斜めから見たような感じになっている。


「うん。正解。あれが地球で言うオリオン座。星系が違うから見え方が違うんだけどね…」


☆☆☆


 夜遅くまで2人で話し込んでから寝た。

 ベッドだった。ゆかりとは別の部屋で寝たんだけど、夜中。ゆかりが部屋に入ってきた雰囲気がした。目をさましたが、ゆかりはいなかった。気のせいか。


☆☆☆


 朝。朝日。森の鳥の声が聞こえる。


 朝。ゆかりは家の中にいなかった。家の中から出て、家のそばにある小川のほうに行くと、ゆかりがいた。小川の冷たい水で顔を洗っていた。


「おはよう」僕は声をかけた。


「うん。おはよう。この小川。冷たくて気持ちがいいよ」ゆかりが言う。


 僕は小川に手を入れる。


「うん。ほんとだ」


 小川で顔を洗ったあと、小川の隣の地面を見る。小さいどんぐりが落ちていた。

 どんぐり? なんでここに… 僕はどんぐりをポケットに入れた。


 僕は、先にもどったゆかりの後を追って、家の中に入る。


 そして朝食をとる。自家製のパンに似たものと温かいスープと何かのたまごのようなものだった。


☆☆☆


 朝食の後、ゆかりに言われた「ねえ。お願いがあるんだけど、畑仕事手伝ってくれないかな。芋に似た植物があるんだけど、1人で運ぶのは大変で…」


「うん。いいよ…」僕は引き受けた。


 ゆかりに畑の場所を案内してもらい、畑の道具を借りて土を掘り起こす。

 すると、ごろごろと芋に似た植物が出てきた。


「うわぁ。いっぱい」僕は楽しくなった。


 ゆかりと一緒に、ゆかりが普段1人でやっていることを手伝う。

 結構大変。


「なんか。いいなあ。ずっと独りぼっちだったから… 幸せ…」ゆかりはアライグマのような尻尾を左右に動かしながら言う。


「尻尾かわいい」僕は小声で言う。


「え? 何か言った?」ゆかりは聞こえなかったようだ。


「なんでもない…」


☆☆☆


 午後2時ぐらい。


 僕は帰ることにした。


「帰っちゃうの。また来てね。というかあたしがあなたの世界に行かないとだめか…

じゃあ。逆さ虹が良く見える休日に… おんぼろ橋の小屋にスイッチがあるから。押せば。呼び鈴になるから」とゆかり。


「うん。じゃあ」


 ゆかりが逆さ虹を使って7色の道を出してくれた。


 僕は自分の世界へと帰ってきた。ゆかりは7色の虹の道の上から手を振っている。


 僕は7色の虹の上から降りた。


 ちょっとたってから、逆さ虹が元に戻った。


「あれっ」僕は虹を見た。


 ちょっと逆さ虹の色が薄くなっているような…


 僕は、道の端に座っている狐を見た。


『やあ。戻ってきたみたいだね…君が戻ってくるまでの間に、おんぼろ橋はさらに補強しておいたからね』と狐が言った。


「うん。ありがと。ねえ。ところでずっとそこで待っていたの?」僕は聞いてみた。


『いや。ちょっと前に来たのさ。戻ってくるころだと思ってね』


 狐と一緒におんぼろ橋を渡り、木の根っこの広場を通り、森の入り口の遊歩道まで戻る。


☆☆☆


 次の日。ニュース番組。


 また、逆さ虹が見えなくなっているという番組をやっていた。


 僕は気になった。家の近くのマンション、そこに寄ってから学校へ行くことにした。


 僕は早めに家を出てマンションのエレベーターで上へとのぼる。


 最上階の廊下から森を見る。


 たしかに逆さ虹が見えない。


 僕は気になった。


☆☆☆


 次の日。逆さ虹が見えるよ。と友達から連絡があった。

 僕はほっとした。


 次の土曜日。また会いに行こう。僕はそう思っていた。


 土曜日。逆さ虹が見えなくなっていた。日曜日。日曜日も同じく見えなくなっていた。


 土日。行こうと思っていたのに… 僕は次の週の土日に期待した。


 金曜日。

 僕は放課後、町のデパートの上の階のレストランで友達とスイーツを食べていた。

 誘われたからだ、スイーツを食べていると地震があった。震度は3ぐらい。


 僕は地震が終わった後、逆さ虹が見える森のほうを見た。

 一瞬逆さ虹が消えて、水平の7色の虹が見えたかと思ったら、すぐに逆さ虹に戻った。


 いやな予感がした。


 土曜日。

 逆さ虹が良く見える。快晴の土曜日。


 僕は朝から出かける。


 家の前にポストがある家と、バス停がある家の間の道。ここを通って所定の道順で逆さ虹の森に行かないと、最初の遊歩道の分岐点で、まがる道が見つからない。


 僕は決められたとおりの道順で、逆さ虹の根元があるところまで歩く。そして虹が見えることを確認してから、おんぼろ橋を渡り、小屋へと行く。


 僕の悪い予感は当たってしまう。

 先日の地震。その自信のせいで、壁にさしてあったプレートが床に落ちている。

 それだけならよかったんだけど、プレートの端のガラス状のところが割れている。


 僕は震える手で、プレートを持ち上げて壁にさした。


 ……


 壁のグリーンのランプがつかない。


 なんどさしなおしても、壁のグリーンのランプがつくことがなかった。


 僕は壁を見る。そして端のほうにボタンがあった。


 僕はボタンを押してみる。 


 小屋から出て逆さ虹が見えるところまで走っていく。


 逆さ虹。そのまま消えることはなく7色の道になることもなく、少女が出てくることもなく、そのまま逆さ虹があるだけだ。


「やっぱり。あのプレート壊れちゃったのかな…」僕はとほうにくれた。


☆☆☆


『ねえ。しんご君。どんぐり池の願い知っているよね』狐が声をかけてきた。


「うん。ああ。そうか。願いをかなえてくれるというあの池…」僕は狐に言われて思い出した。

 どんぐりを投げ込んで願いを言うとかなえてくれるという池。


『そうなんだ。でもかなり大変かもしれないよ』狐がこっちを見て言った。


「なんで?」


『他人の願いを叶えるときは普通のどんぐり。自分の願いを叶えるときは黄金に輝くどんぐりが7個いるんだ… それがあればなんだけど… 黄金に輝くどんぐりは僕が1つ持っている』と狐君


「本当? じゃあみんなに相談してみたいんだけど…」僕は狐君に聞いた。


『じゃあ相談してみるよ。ちょっと待ってて』狐君はこまどりを探しに行った。


☆☆☆


 こまどりが飛んできた。

「持っているよ。黄金に輝くどんぐり。君のために使ってもいいよ…」コマドリは黄金に輝くどんぐりを、飛んできて、僕の手の平に乗せた。


『ねえ。蛇君は黄金のどんぐり持ってなかった?』リス君が聞いた。


『うん。持ってた。どうしてもお腹がすいたときに、卵くれとお願いして池に投げ込んでしまったよ。だいぶ前に…』と蛇。


『なんだよ。もったいないなぁ。それだったら俺にくれたら。卵ぐらい見つけてきたのに…

ちなみに俺は持っているぜ。しんごのために使ってもいいぜ。ほら…』アライグマは僕の手のひらに黄金のどんぐりを乗せた。


『じゃあ。家の家宝なんだけど、しんごにやるよ…』リス君も僕の手の平に黄金に輝くどんぐりを乗せた。


 狐君がもどってきた『あった。あったよ。黄金に輝くどんぐり。前になくしたと持ったけど、お宝ボックスの中に入っていた。あげるよ…』狐君も僕の手の平にどんぐりを乗せた。


熊君もやってきた『どんぐりを探しているんだね。僕のもあげるよ…』大きい手でどんぐりとつまんで、僕の手の平に乗せてくれた。


「これで5個だね。2個足りないか…」僕はポケットに手を入れた。すると何か。


 どんぐりだった。しかも黄金色になっていた。


『なんだ。お前も持っているだ。じゃあ残りあと1つだな。蛇君が食いしんぼうじゃなければ、7個そろってたのに…』とアライグマが言った。


『ごめんよ。使うと思ってなかったから…』蛇はしゅんとなって言う。


『数年に一回は、このどんぐりの木から、黄金のどんぐりが1個落ちてくるという言い伝えがあるんだ』リス君。どんぐりに一番詳しい子が言った。


『今年はどうなんだろ』コマドリ。


『どんぐりの実ができる季節になったらまた集合しよう。それまでの間はしんご君がどんぐりを預かっててくれるかな…』狐君。


「うん。じゃあ。つぎのどんぐりができるころに来るよ…」

 小屋にあったプレートがないと、ゆかりはこっちに来ることができない。プレートの仕組みはわからなかった。だから『どんぐり池』のお願いに期待するしかなかった。


☆☆☆


 今年のどんぐりができる季節。10月の終わり。再び僕は逆さ虹の森へと足を運んだ。


 所定の道順で森に入り、動物達と会う。


 コマドリやリス君の協力のもと、どんぐりを探す。


 今年はないみたいだった。


「ねえ。どうしてもだめなのかな。どんぐり6個だと…」僕は狐君に聞いた。


『うん。7個ないとだめなんだ…6個だと不完全』狐君は言った。


「そう…」僕はゆかりに会いたかった。


☆☆☆


 1年がすぎ。再びどんぐりの実ができる時期になった。森の動物達と一緒に探すけど、黄金に輝く実はなかった。


 再び。もう一年待つのか… 僕は来年が来るのを待った。


 さらに数年が過ぎ、そのたびにどんぐりを見つけに森へと出かける。


 僕も17歳になった。


 就職のため、この町を来年には離れることになると思う。だから今年が最後。


 再び。所定の道順を通り、逆さ虹の森へと足を運ぶ。


 こまどりとリスの協力のもと、どんぐりを探す。


 けれども見つからなかった。


『こんなに探したのにないなんて… 今年ぐらいはあると思うんだけど…』熊君も腰を下ろす。


『ひょっとして蛇君が見つけて、卵が欲しいと言ったんじゃないか?』アライグマが言う。


『そんなことはしないさ。この森を救ってくれたしんご君のために探しているんだから… もう一度さがそうぜ』と蛇君。


 僕は「あー。つかれた。もうだめなのかな」僕は落ち葉の上に寝っ転がった。


 ふと、手にふれたどんぐりを見る。普通のどんぐりだった。


「なんだ。普通のか…」僕はどんぐりをつまんで、ぽいっと捨てる。

 捨てたどんぐり。そのどんぐりが、落ち葉の上に落ちる。

 落ち葉がぱりっと割れた。


『おい。黄金のどんぐりだ』リス君が、落ち葉のほうを見て言った。


「えっ?」僕は落ち葉の下にどんぐりがあるのを見つけた。


『やった。たしかに黄金のどんぐりだ…』狐君。


「これでやっと…」僕はぽけっとに入れていたどんぐりを手のひらの上に出した。


 どんぐり7つ。


☆☆☆


 僕はコマドリ、蛇、アライグマ、狐、リス、熊をひきつれて「どんぐり池」へと向かった。


『じゃあどんぐりを投げ込んで願いを、頭の中で思いうかべるんだよ…』狐君が言った。


 僕は、ぽちゃん、ぽちゃんというふうに黄金のどんぐりを投げ入れた。


『卵がいっぱい食いてえ』と蛇が言った。


『だめだ。しんご君の願いの場だ』アライグマが怒った。


『悪りぃ。悪りぃ。冗談』蛇は謝った。


 僕は『どうか。プレートが直って、ゆかりの世界と行き来できますように…』お願いごとをした。


 あたりがシーンとなった。


 ごぼごぼ。池の底から何かが出てきた。


 大きい蛇。大蛇だった。大蛇は僕1人ぐらいは丸呑みできそうな口を持っていた。


 大蛇は口を開けた。その口の中には7つの黄金に輝くどんぐりがあった。


『これを投げ投げ込んだのはそなたか?』大蛇は言う。


「う。うん。ゆかりの世界と行き来したくて、プレートを直してほしいと思って…」僕は震えそうになりながら大蛇に向かって言った。


『そうか。プレートを直してほしいんじゃな?』


「そう。プレートが直れば行き来できるんだ…」僕は小屋から持ってきた壊れたプレートを大蛇に見せた。


『それはできんな…』


「そんな…」僕は大蛇を見た。


 大蛇は口を閉じて池へと沈んで行った。


『あーあ。行っちゃったよ』蛇君が言った。


『そんなことはないんだけど、かならず叶えてくれるはずなんだけど…』狐君はこっちを見て言った。


 すると、ごぼごぼ。池から泡が上がってきた。


 僕の目の前に大蛇の顔が現れた。


「うわぁ」僕はびっくりして尻もちをついた。


『プレートというのはこれか…』大蛇が口をあけると、中には泥にまみれたプレートがあった。


「こ。これって…」僕はおそるおそる大蛇の口の中からプレートを取り出した。


 僕は水につけてプレートを洗う。


 たしかにプレートだ。


『昔昔。誰だったかな。男の人が、この池にこのプレートを落としたのじゃ… そのまま保管していたのだ… これがいるのであろう… 使えるはずじゃ…

あと。言っておくことがある』


 大蛇は言った。


 どうやら、数日間以内にまた地震が起きるらしい。


『大蛇が言うには、また地震が起きて、プレートを入れる口がゆがむと…』狐君が言った。


『しんご君が向こうの世界へと行ったら帰って来られなくなるかもしれねえな』アライグマ。


『しんご君はゆかりが好きなんだよね… 何年もかけてどんぐりを探していたんだもの… 良く考えてね…』とこまどりは言う。


「うん…」僕はプレートをカバンにしまい。いったん家へと帰ることにした。


☆☆☆


 その夜は寝付けなかった。


 明け方。夢を見て。目が覚めた。


 よし。僕は決意した。ゆかりの世界へ行こう。


 僕は家を後にした。


 家の人にも、友達にもお別れを言わず。机の中にかきおきを残して出た。


☆☆☆


 プレートを手にして、逆さ虹の森へと急ぐ。


 途中。逆さ森の入り口にさしかかったとき。ぐらっとちょっと地面がゆれた。

 きっと地震かな?


 僕は急いだ。


 所定の道順で、逆さ虹の根元に行く。虹があることを確認しておんぼろ橋を渡る。


 小屋に入る。小屋の壁にプレートをさす。


☆☆☆


「あれ? なんで?」プレートをさしても、グリーンのランプがつかなかった。


 なんで?


 僕はさしなおした。


 だめ。


 何度やってもだめだ。


 僕は座り込んだ。


『慌てないで見て。そのプレートは壊れているほうだよ…』いつのまにかこまどりさんがそばでホバーリングしていた。


「あ。ほんとだ」プレートの端が割れている。


 僕はカバンから壊れていないプレートを出した。


 そして、壁にさしこむ。


 1秒。2秒。3秒。


 かちっ。音がしてグリーンのランプがついた。


 僕は壁のボタンを押す。


 ボタンを押してから、僕は小屋を出る。


☆☆☆


 逆さ虹。逆さ虹が一瞬消える。そして7色に光る道が見えた。


 やった。これでゆかりと会える。


 僕は7色に光る道を渡った。


 7色に光る道の真ん中。そこでぐらっと来た。大きな地震。


 僕は7色に光る道の真ん中でバランスをくずした。


 落ちそうになった。


「危ないよ…」7色に光るから腕が出て来て僕の腕をつかんだ。


 バランスを崩しそうになっていた僕は、その手に引き込まれた。


 誰かに抱き寄せられる。


 ゆかりだった。僕より1つ年上の子。


 最初に会った時は僕は少年。ゆかりも少女だった。


 ゆかりのアライグマのような耳がピンと立っている。尻尾もピンと固く立っている。


 僕は後ろを見た。


 後の7色に光る道のそばに、コマドリ、蛇、アライグマ、狐、リス、熊が立っていた。


 みんな手をふっていた。


 だんだん7色の道が消えていく。

 さっきの地震のせいで、プレートを入れる穴がゆがんだんだろう。


 もう、自分の世界には戻れない。


「さようなら。そしてみんなありがと」僕は逆さ虹の森の動物達にお礼を言った。


『お礼を言うのは僕たちだよ。ありがと。森を綺麗にしてくれて… じゃあね』


 7色に光る道が消えた。


 僕は道が消えた後、ゆかりの顔をまじまじと見る。

 結構大人っぽくなった。それでいて、アライグマのような耳が頭についているので、かわいいままだ。

 ゆかりのお尻を見る。尻尾が左右にゆれている。しましまの尻尾。前より大きくなっている。


「しんご君。しんご君。しんご君」ゆかりは抱きついたまま何度も僕の名前を声にだしていた。


「ゆかり…」僕はゆかりを抱きしめ返した。


☆☆☆


「戻れなくなっちゃったね」ゆかりが僕に言う。


「いや。いいんだよ… 僕は君に会いたかった。森の動物達が協力してくれたんだよ。このプレート壊れちゃって。代わりのプレートを、どんぐり池から見つけてもらったんだ。

黄金のどんぐりを7個集めて… 池にお願いをして… そしたら大蛇が現れてさ…

どんぐりを7つ集めるまでにだいぶ時間がかかっちゃった」


それを聞いていたゆかりは泣いていた「あたしは信じて待っていたの。良かった。本当に良かった。でも、あなたはいいの?」またゆかりは聞いてきた。


「うん」僕はゆかりの頭をなでた。ゆかりのアライグマのような耳をさわった。

 耳は体温があってあったかかった。

 ゆかりのアライグマのようなしましまの尻尾が僕の足にあたる。


 これからゆかりと、一緒に暮らすことになる。


 これでよかったのかな?


 7歳の時に出会い。14歳の時に出会い。そして今。どんぐりを7つ集めてやっとのことで出合った僕たち。


 逆さ虹や、しゃべる動物達。大蛇。いろいろあったけど、再び出会うことができた。


 ゆかりは泣いていた顔でわらった。耳がぴこぴこ動いている。


「あはは」僕は笑った。


「ねえ。何がおかしいの? やっぱりこの耳を見て笑っているんでしょ」ゆかりはほっぺたを膨らませた。


「いや。君の耳がね。ぴこぴこ動いているのが可愛いなあと思って… それに…」


「それに?」ゆかりがじっとこっちを見る。


「しましまの尻尾。かわいいなあと思って」


「もう…」ゆかりは僕をどついた。


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