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ギルティセブン  作者: 阿部曜一
Anfang Verbrechen
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第一章第五節 過去〜怪光

「あー!バカなレヴィがきた!」

「おそいぞレヴィ!」

「そのひとだれ?」

 レヴィに連れられて入ってきた場所は、ヤパンが管理する保育所だった。俺たちが入ってきた途端、子供達が群がってきた。

「待て待て、落ち着いて。この人はユークさんだよ。みんな迷惑かけないようにね」

「ユーク!あそぼあそぼ!」

「ユークであそぼ!」

「えっ、ちょっと待って、今なんて!?」

 俺はされるがままになっていた。子供達は恐らくレヴィ以外の人間が珍しいのだろう。

「こら、迷惑はかけるなって言ってるだろ?」

 レヴィの言葉は聞こえないようだった。俺は子供の群れに飲まれていった。




 しばらくしてから子供達は疲れてしまったのか、お昼寝を始めた。

「ごめんね、ユーク。まさかこの子達がここまではしゃぐとは思わなくて」

「気にしないで。それより、レヴィは毎日こんな感じなの?大変じゃない?」

「まぁ、そんなところだよ。でも大変よりは楽しい、かな。僕子供好きだしさ。それに…」

 そこまで言ったレヴィの顔はなんだか少し寂しげだった。

「それに…?」

「ごめん、なんでもないよ。気にしないで」

 レヴィは言いかけたまま立ち上がった。そのまま部屋の奥へと入っていってしまった。

「何かあったのかな…」

 俺が手持ち無沙汰にしていると、扉が開いた。

「あれ?レヴィはどこ?」

 そこから現れたのはサトシだった。

「部屋の奥に行ったっきり帰ってこないんだけど…」

「あぁ、それならきっとおやつを作りに行ったのかもね」

「おやつ?」

「うん。あの奥の部屋にはキッチンがあるんだ。レヴィはご飯やおやつ、全部自分で作ってるんだよ」

 サトシがそう説明すると、奥からいい匂いがしてきた。

「おっ、この匂いはレヴィ特製マドレーヌだな?」

 サトシの目が急に輝きだした。

「サトシ、ずっと気になってたんだけど、いいかな?」

「どうしたの?」

 俺はここに来た時から抱えていた疑問を打ち明けた。

「レヴィはヤパンの人じゃないのか?」

「どうしてそう思うの?」

「レヴィだけヤパン人っぽくない名前だからさ」

 ミヤタサトシ、ナカジマスバル、そしてレヴィ・アサン。分かりやすく言うとサトシとスバルには漢名があるが、レヴィにはそれがない。

「確かに、レヴィはヤパン人じゃないよ。ある日どこからともなくここにきてギルド入りしたんだ。僕にも詳細はわからないけど、ただ一つ知っているのは…」

「親を失った、孤児なんだ。僕はね」

 いつの間にかレヴィが戻ってきていた。その手にはマドレーヌの入ったカゴが握られていた。

「ビックリした…」

「僕のことなら僕に聞けばよかったのに。もしかして、気を使ってくれたのかな?」

 レヴィは笑いながらそう言った。

「ごめん、気を悪くしたかな」

「いいんだ。それに、ちゃんと話そうと思っていたしね。それより、おやつにしよう。美味しいマドレーヌが焼けたよ」

 レヴィの言葉に反応して、子供達が次々起き上がってきた。

「おいしそうな匂い!」

「レヴィのマドレーヌだ!」

「俺レヴィのマドレーヌ大好き!」

 またしても子供達が群がってきた。今度はレヴィの周りに、だけど。

「ほら、順番に配るからちゃんと並んで!」

 子供達はその言葉通り、一列に整列した。食べ物の前では従順なようだ。

「かわいいでしょ、子供達。こんな無邪気な子たちが、これからギルドの武器にされちゃうなんてね。僕は許せないよ」

 サトシは涙ぐみそう言った。

「どういうこと…?」

「ここに預けられた子達はギルドメンバーの子供で、将来を約束された…というより、決めつけられた子達でね。ギルドの方針で、子供の時から戦闘員として教育することで他の国を圧倒するほどの精鋭を育て上げることができるんじゃないか、ってね。この子たちはまだ幼すぎるから、こうして普通に過ごしているだけなんだ」

 その話を聞いて、俺は胸が苦しくなった。

「そんなの、かわいそうだ…」

 この子たちは将来戦いを余儀なくされている。そんなの、俺だって許せない。

「俺は…やっぱり魔王を倒す。この子たちが戦わなくていいように」

「そうだね、僕も賛成だ。絶対魔王を倒そう」

「難しい話はそのくらいにして、君たちもおやつはいかがかな?」

 レヴィが俺たちに割って入ってきた。子供達はおとなしく座ってマドレーヌを頬張っていた。

「ありがとう、レヴィ」

「ごゆっくり、召し上がれ」

 笑いながらそういうレヴィの瞳は、暗く(よど)んだ翠色(みどりいろ)をしていた。

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