第一章第四節 来訪〜来塔
「ここがヤパン、か…」
立ち並ぶビル、行き交う車や人の群れ。ヤパンは文明が進歩した国で森などの自然を拝むことはあまりないらしく、野獣も発生しにくいらしい。そのため、他の国に比べてギルドの活動も少なく、街中でギルドのメンバーを見ることもほどんどなくなったという。
「それで、ギルドヤパンにはどのようにしていくのだろうか?」
ギルタリアがサトシに聞くと、サトシは少し困った顔をして答える。
「それが…」
サトシは目の前の建物をそっと指差す。
「こ、これは…」
目の前にあったのはひときわ高くて大きなビルだった。そのビルの前には門番…というにはあまりに軽装の男が寝息を立てていた。
「スバルっち、起きて〜」
「んお…なんだ、サキちんか、もう帰ってきたのか…って、なんか大所帯だな、お友達か?」
スバルと呼ばれたその男は、寝ぼけた顔で不思議そうに聞いてきた。
「だからそっちの名前で呼ばないでって言ってるのに…えっと、この人たちは僕と同じように召集された各国の精鋭の皆さんだよ」
「せ、精鋭だなんて、そんな…」
なぜかアルスが照れている。サトシは遠回りに自らを精鋭と言っているだけだと思うのだが…
「ほう、そんな精鋭の皆さんがこんなところに何をしに来たんだい?」
「失礼、私はギース国王子兼ギルドギースギルド長のギルタリア・フォン・マクドールだ。先刻のギルド強襲の件について調査をしに来た。是非ここを通していただきたい」
「あ、いや…ここそんなに警備厳しくないし、入りたきゃ勝手に入ってもらわないけど…」
「えっ?」
俺たちは唖然としていた。およそギルドとはメンバーや関係者、招待されたものしか入れない掟になっているはずなのだが…どうやらここはそうじゃないらしい。
「あの…そういうことだから、とりあえず中に入ろうか?」
サトシはバツが悪そうに言って扉を開く。すると中から子供が飛び出してくる。
「やーい!レヴィのバーカ!」
「こら!外に出ちゃダメだって言ってるだろ!それにお兄さんに向かって馬鹿とはなんだ!!」
子供を追いかけて出てきた男はレヴィと呼ばれ、何やらおちょくられているようだった。
「どういうことなんだ…ギルドに子供が…」
「実はここ、保育所も兼ねてるんだ…」
サトシの表情が次第に曇っていく。怒っているというよりは困っているようだ。
「その、サトシ…ここって本当にギルドなんだよね?」
「このビルにはギルド本部以外に、いろんな施設が入ってるんだ」
俺たちは改めて唖然と…というより呆然とした。おそらく、みんな同じことを考えている気がする。
「これじゃ侵入者に気づかないのも当たり前なんじゃ…」
俺は思わず口に出してしまった。
「そうなんだよね…だから僕はずっと言ってるんだけど…もっとセキュリティー強化しようって…それなのにギルド長は聞く耳持たずというか…ギルドなんて形だけでいいんだって言ってさ…」
「なるほど…確かにヤパンでは野獣も発生しないし平和そのものだろうからな、そう考えるのも無理はない。しかし、現状をもってしてもそういうのであれば少し考えを改めたほうがいいだろうな」
「心配はいらねぇぜ。その件に関してはもう既に対策済みだ。」
俺たちの話に割って入ってきたのはスバルだった。
「紹介が遅れたな。俺はナカジマスバルだ。刀使いとでも言っておこう」
「スバル、対策済みとはどういうことだ?」
「魔王石が奪われたと知ったギルド長は、水面下で魔王討伐隊を編成しているんだ。ギルドを守る、それと同時に魔王石を奪い返すという名目でね」
スバルはそう言いながら胸元のバッチを見せつけてくる。
「魔王石を奪ったやつはまだこの国にいるだろう。何としてでも探し出して魔王石を奪い返すんだ」
「なぜ、魔王の手下がまだこの国にいると思うんだ?」
ヴァンが不思議そうに聞いた。
「なんとなくだが、そんな気がするんだ」
「俺もそんな気がするよ」
俺はこの国に来た時から、サタンたちの時と同じ気配を感じていた。ただ、気配が薄いというか、かすかに感じる程度だったから、気配の残りのようなものだと思っていた。
「なるほど、根拠はないということだね。しかしそういうことなら早々に手を打たなければなるまい」
「あぁ、そうだな。ギルタリア、俺は少しこの街を散策してくる。何かあったら連絡する」
ヴァンはそう言って街の中に消えていった。
「それじゃ各自自由行動としよう。その際不審なものを見つけたら即座に連絡をすること。俺はここのギルド長と話をしてくる」
「そういうことなら、私は少しお買い物でもしてくるわ。アルス、一緒に行きましょ?」
「お、おう?いいけど…」
「俺は少し休ませてもらおうかな。サトシ、仮眠室を貸してもらえるかな?」
「オッケー。案内するね」
みんなそれぞれに行動を開始した。俺は取り残されてしまった。
「ど、どうしたものかな…」
俺が考えていた時、声をかけられた。
「よかったら、一緒に子供達と遊んでくれないかな?俺一人じゃ大変で…」
「あなたは、さっきの…」
「レヴィ。レヴィ・アサンだ、よろしく」
「俺はユーク・ドレイルです」
俺たちは紹介をそこそこにギルドに入っていった。