第一章第一節 回想〜解消
「が、ガイスターだと!?」
ギルタリアが驚いていた。それもそのはず。
「ガイスターって絶滅したはずよね?それがどうして…」
アイリスも顔が青ざめていた。そう、アイリスのいうとおり、ガイスターは本来遠い昔に絶滅したと言われていた。それなのに生き残りがいたとなればある意味歴史が動くレベルだろうからな。
「ユーク、君は情報によると短剣使いということになっているんだけど、どういうことか説明してもらってもいいかな?」
「それはこの戦いが終わってからだ!」
背後から飛びかかってきていた魔獣を精霊を動かし倒した。
「スゲェな、絶滅したって聞いてたから、まさかこの目で精霊を拝めるとは思ってなかったぜ」
「あぁ、にわかには信じがたいが、目の前であんなもん見せられたら信じるしかないもんな」
ヴァンとハイムも驚きを隠せないようだ。やはり絶滅したと思っていたものが目の前にいると知れば驚くのも無理はないだろう。
「なんかわからないけど、さっさとこいつら始末しちゃお?僕そろそろ疲れてきたよ」
「それもそうだ。みんな、ラストスパートといこうじゃないか!」
ギルタリアの掛け声とともに、魔獣に向かって一斉に駆け出す。一体、また一体と蹴散らしていく。みんなすごい、本当に各国の精鋭たちって感じだ。俺も負けてられない。
「よし、ラスト一体…!」
俺が精霊を飛ばそうとした瞬間だった。目の前の魔獣が突然消えた、ように見えた。
「えっ…何が…」
俺が驚いていると、理由はすぐにわかった。目の前にアルスが立っていた。
「遅いよ、ユーク」
「あ、アルス…?」
あからさまに怒っているように見える。真顔を通り越して鬼顔…
「あのぉ…アルスさん…?綺麗なお顔が台無しですよ…?」
「お前そんな力持ってたなんて…隠してたの!?」
「いや、これはその…」
俺はギルド内でもこの力を使ったことはなかった。その理由はギルタリアの口から明かされた。
「かの魔王が使っていたとされる精霊術…その使い手のガイスター…その理由からガイスターは徹底的に抹殺されたはず…それなのに、なぜ…」
「俺だって、知りたいぐらいだ…」
そう、俺はある日突然この力に気付いたのだ。親がガイスターだったら理由はそこにあるのだろうけど、生憎俺の両親は二人とも物心ついたときには死んでいた。俺は小さい時からジャーツィのギルドが運営する孤児院で育てられた。アルスともそこで出会った。つまり、アルスも親を失った孤児だった。
「ユーク…二度と私に話しかけないで」
「アルス…」
「ちょっと、どこ行くの!?」
アルスはそういうと、外に出て行った。サトシも慌てて後を追う。
「ユーク、まずは落ち着いて話そう。アルスくんにはサトシくんが付いている。君がその力をギルドで隠していた理由も、大方予想は出来る。きっと今まで一人で辛かったんだろう。力を使わせてしまってすまなかったね」
「いや、大丈夫。俺も隠してて悪かった」
その場の空気がまるで氷河のように冷たく感じた。ギルタリアは優しく声をかけてくれた。しかし、他の人たちが必ずしも同じように優しくしてくれるとは限らない。こうなることは予想していた。でも、俺は前から決めていたんだ。もしも、魔王が復活したのなら、俺は魔王が使っていたこの力で、魔王を討つ、と。
そんな俺でも、予想外なことが起きた。アルスがあんな悲しい目をするなんて思ってもいなかった。
「あの子、泣いていたように見えるわ。本人が行って謝らないと収拾つかないんじゃないかしら」
「アイリス…わかった」
俺はそう言って、外に走り出した。
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「アルス!待ってよ、どうしたの!?」
「さき…じゃなくてサトシさん…」
サトシさんが心配して追いかけてきてくれた。
「まったく…気持ちはわかるけど、これから力を合わせなきゃいけないのに、そんなんじゃ…」
やっぱり、そんなことを言うんだろうと思ってた。
「ダメなんです、私」
「……理由、聞いてもいいかな?」
多分、私がこんなに取り乱した理由を聞きたいんだろう。私はそう思って重い口を開けた。
「私、親を殺されたんです、ガイスターに。5歳の頃でした」
「待って、それじゃやっぱりガイスターは絶滅していないってこと?」
サトシさんが驚いた顔で聞いてくる。
「はい、少なくとも私はそう思っています。目の前で親を殺されて、私はヤツの後ろ姿を目撃したんです。その姿はまるで魔王のように禍々しく、恐ろしいオーラを纏っていました。ただ…」
私はそこで口を噤んでしまった。
「ごめん、聞いちゃいけなかったね。もう大丈夫だよ」
「いえ、その…私もそろそろ向き合わなきゃいけないんで…」
そう言って私は話を続けた。
「ヤツは、小さかったんです。私と同じくらいか、もしかしたら少し年下だったかもしれません。子供…だったんです」
「うそ…子供が、殺人を…?」
「信じられないかもしれませんが、間違いないです。だから、さっきユークを見たとき、もしかしてって思っちゃって…」
「そう、だったんだ…」
気がつくと、私は涙を流していた。そしてサトシさんも同じように泣いていた。きっとこの人は心が綺麗な人なんだろうな…私はそう思った。
私たちはお互いに言葉を失ったように黙ってしまった。何も言えない、何も言ってはいけない、そんな空気が流れていた。
「アルス!」
しばらくするとユークが出てきた。私は逃げ出したくなった。もしも、あの時の子供が、両親を殺したヤツがユークだったら…私はきっと、耐えられないだろう。
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「アルス、ごめん…話聞いちゃった…」
「ユーク…話しかけないでって言ったじゃん」
「それでも、弁解だけはさせて欲しい」
俺はどうしても誤解を解いておきたかった。
「俺は、その犯人じゃない。証拠というか、俺にはアリバイがあるんだ。アルスが5歳だったなら、12年前だよね。俺はその頃、すでに孤児院にいたんだ」
「そ、そういえば…そうだったね」
「あ、あれ…あっという間に解決しちゃった感じ…?」
俺たちの会話を聞いて、サトシがあっけらかんとしていた。しかしアルスの表情は険しいままだった。
「私、どうしてもガイスターが許せない。たとえユークがあの日の犯人じゃなかったとしても、あの力を使う人間を、私は許すことができない」
「うん、わかってる。だから、俺は…」
「でも私は、ユークを許す。いや、許すも何も、ユークは何も悪いことしてないしね」
俺は拍子抜けした。まさかそんなことを言われるなんて思ってもいなかった。
「でも隠してたことは事実よね?」
目の前の美少女はとてもいい笑顔をしている。
「こ、怖いですよアルスさん…?目が笑ってないですけど…」
「しょうがないから一発で許してあげる♡」
「いや、その…い、いやぁああああああ!!!」
「あちゃー、痛そ…」
アルスが強く握りしめた拳は、俺の右頬にクリーンヒットした。