第二章第三節 兎を見て犬を放つ
「チッ…嗅覚が鈍ってきやがったぜ…」
「大丈夫か、ヴァン」
ウルフモードのヴァンは鼻をこすりながらそう言った。俺はヴァンに声をかけたが、どうも調子が悪いらしい。
「ダメだ、これじゃ逃げた野郎を追うことなんてできない…」
「とりあえず今は目の前の敵を倒すことを考えよう。やつはその後だ」
ギルタリアはそう言ってアイスハウンドを攻撃した。ギルタリアの剣を受けたアイスハウンドは粉々に砕けた後、水になって蒸発した。
「ヴァン、とりあえずこれをつけておけ。何もないよりはいいだろう」
ハイムはそう言って犬用の口輪のようなものをヴァンにつけてあげた。
「んっ…こ、これ…鼻専用の…?こんなものいつの間に…」
「チャチャっと錬成しただけだ。気にするな」
「ハイム!そっちに行ったよ!!」
サトシの声にハイムは咄嗟に反応するが、水溜りに足を取られて滑ってしまった
「しまった…!」
その時、ヴァンは瞬時にモードチェンジをしてウルフマンに変化し、飛びかかってきたアイスハウンドを殴りつけた。その拍子にハイムにもらった口輪を壊してしまった。
「すまない、壊してしまった」
「気にするな。また作ってやるさ」
「よし、今ので最後だったみたいだな。ひとまず村に戻って状況を報告しよう。それに…」
ギルタリアはそこまで言うとヴァンに目を向けた。
「あぁ、少し休めば回復すると思う。すまんな」
ヴァンは申し訳なさそうにそう言った。俺たちは村に戻るため歩き出した。
「そうか、とうとう奪われてしまったか…」
「すみません、我々がいながら、魔導鏡を奪われてしまうとは…」
「ところで、その魔導鏡、何枚奪われたのじゃ?」
「な、何枚…?」
俺たちは一同頭の上にハテナを浮かべていた。
「それ、どういう意味ですか?」
俺はみんなを代表してヤマトに聞いた。
「魔導鏡は二枚あるはずじゃ。昨日話したじゃろ、満月の光を照らして…と」
「それだけなら、一枚で十分なんじゃ…?」
「二枚の魔導鏡を使うことで、月の光を増幅させるんじゃ。そうすることでやっと本来の力を発揮するのじゃ」
「そういえば、あの人一枚しか持ってなかった気がする」
一連の話を聞いて、アルスが思い出したように呟く。
「ならば大丈夫じゃ。もう一枚、何としても奪われぬよう、死守してくれ」
「わかりました。みんな、準備が出来次第出発する。奴らがいつ気づくかもしれん。できるだけ急いで準備をしてくれ」
ギルタリアはそう言ってそそくさと準備に取り掛かった。俺たちも各々準備を始める。
「ヴァン、大丈夫か?」
ハイムが心配そうに声をかけていた。
「いや、しばらく嗅覚はあてにならない。だが俺には目と耳が残っている。なんとかなるさ」
「そうか、ならいいんだが」
そんな二人を見て、俺はふと思った。
「あの二人…あんなに仲良かったっけ…?」
「ユーク、どうしたの?」
「アルス、ヴァンとハイムっていつからあんなに仲良しになったんだ?」
俺は準備を済ませて俺の様子を見に来たアルスに聞いてみた。
「さぁ?でも確かに仲良いよね。ハイム、ヴァンには優しいというか、まぁ私たちにも優しいんだけど…」
「なんていうか…飼い主と犬って感じかな」
「…間違ってはない、かな」
「お待たせしました!新年明けまして1本目!まさかこんなに時間がかかるとは思ってもいませんでした!
え?私ですか?名前はマグナ、16歳!今回から次回予告を任されました!
てことで、次回は例の敵が再登場!ユークたちは魔導鏡を守り抜けるのか!?」