第一章第八節 目覚〜目指
サトシとリヴァイアサンが本気の戦闘を始めてから、俺たちは何もできずただ見守っていた。しかし、しばらく経ってから、状況が変わった。
「くそ…これじゃ埒があかない…カザキリの攻撃だけじゃ削りきれない」
「どうしたの、もう終わり?つまらないわね。せっかく本気出してあげたのに」
消耗したサトシをあざ笑うように、リヴァイアサンは言った。
「そろそろ飽きてきたし、私のとっておきでも見せて終わらせようかしら」
そう言ったリヴァイアサンは両手を広げて宙に浮いた。次の瞬間…
「あれ…サトシが…消えた…?」
目の前にいたはずのサトシが消えた。
「いや、違う…」
消えたように見えたサトシは、その場に倒れ込んでいた。
「サトシ!大丈…」
「……るな…」
俺が駆け寄ろうとした時、サトシの口が動いてるのに気づいた。しかし、気づいた時には遅かった。俺の体は切り裂かれ、見たことないほどの血が噴き出していた。
「ユーク!!」
これは…アルスの声だ。でも、声が遠のいていく。おかしいな…アルスが駆け寄ってくるのが見えたのに、どんどん遠くに行くように感じる。
俺は次第に意識を手放してしまった。
「これじゃ死んじゃうよ」
「つーかもう死んでない?」
どこからともなく声が聞こえる
「いや、まだ助かる余地はある」
「でも魂が消えかかってるわ」
ー誰だ、聞いたことない声
「これでは持って後数分か」
「早く覚醒してくれたらいいのに」
「ヴァッサーは抜け駆けしたみたいだけど?」
ーヴァッサー…どこかで聞いたことある
「僕は抜け駆けなんてしてないよ」
「今はそんなことどうでもいいわよ。この状況なんとかしないと、私たちまで消えちゃうのよ?」
「わしの力じゃ無理じゃ」
「ウチも無理ー」
ーなんの話をしているんだ
「こうなったら、みんなの力をあわせるしかない」
誰かがそう言った時、目の前が黒から白に変わった。そして、俺は意識を取り戻した。
「な、なによこの光…やだ、体が…動かない…」
リヴァイアサンはどうしたことか、急にひるんでしまった。
「よう、リヴァイアサン。どうした、そんなに怖い顔して」
気がついたら俺はリヴァイアサンを見下すように立っていた。傷も癒えて痛みもなかった。そして俺の周りには精霊たちが飛んでいた。
「あ、あんた…精霊使いだったの…!?」
「だったらどうした?」
俺は精霊の一体をサトシに向けた。その精霊はサトシを包み込み、サトシの傷がみるみるうちに回復していった。
「う、うぅ…あれ、どう、して…」
「サトシ、お寝坊さんだぞ。ほら、決着つけようぜ」
気がついたサトシに俺は喝を入れた。するとサトシは起き上がり、剣を構えた。
「ふん、やかましいわ。この俺に指図するな」
「剣を構えるとそっちに戻るんだな…」
喋り方が変わったサトシを横目に、俺は精霊をサトシの剣に宿らせた。
「お前、何をした!?」
「目には目を、って言うだろ?だったら、風には風をお見舞いしてやればいいんだよ」
「全く、人使いの荒いお方だ」
どこからともなく、また声が聞こえた。
「この声、さっきの…まさか、精霊なのか?」
「左様。私の名はヴィント。風の精霊。名を知った今なら、私の真の力を解放することもできましょう」
そう言った精霊、ヴィントは、光の玉から人の形に変わった。
「ヴィント…わかった。風の精霊よ、我が命に従い、その力を解放せよ!ヴィント!!」
俺は誰に聞いたわけでもないのに、言葉が自然に口から出ていた。
「この感覚…どこかで…」
「今の、あの時と同じ…」
アルスが何かに気づいたようだったが、それどころではないようだ。
「なんなのよ…なんなのよなんなのよ!どいつもこいつも力を見せびらかしちゃって…まるで私を無能だと言うように…許さない…絶対にユルサナイ…!」
一度は元の姿に戻ったリヴァイアサンが、また姿を変えた。改めて本気を出したようだ。
「サトシ、俺の精霊の力を使え。その力であいつを倒すんだ」
「ふん、礼など言わんぞ。しかし今はこの力、ありがたく拝借するとしよう」
サトシはそう言って剣を振った。するとリヴァイアサンの風をも凌駕するほどの風が吹いた。
「クソガアアアアアアアアアアア!!!」
リヴァイアサンはサトシに向かって飛びかかってきた。サトシはそれをハエを払うように振り払った。
「嫉妬など、最も醜い大罪だな。見るに堪えん。失せろ」
サトシの振るった剣はリヴァイアサンに直撃した。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
斬られたリヴァイアサンは断末魔の叫びを上げ、倒れこんだ。それと同時にリヴァイアサンは元のレヴィの姿に戻った。
「レヴィ!!」
サトシも剣を手放した瞬間、いつものサトシに戻った。
「レヴィ、しっかりして!レヴィ!!」
「サト…シ…ごめん、こんなことになってしまって…」
レヴィは息絶え絶えに口を開いた。
「いいよ…もういいから、無理してしゃべらないで!」
「僕、みんなが羨ましかったんだ…僕には戦う力がない…だから、僕は何もできないんだって…卑屈になってたんだ…そしたら、いつの間にか…僕が僕じゃなくなってて…気づいたらこんなことに…」
レヴィはそこまで言って俺の方を見た。
「ユークくん、サトシを…みんなを頼んだよ…魔王の復活、絶対に阻止するんだ…」
「あぁ、任せておけ。絶対にみんなを守る」
俺の言葉を聞いてレヴィは力なく微笑む。そして再度サトシに向き直る。
「サトシ、最後まで何もできなくてごめん…そして、ありが……」
そう言ったレヴィは光となって消えていった。
「レヴィ…レヴィ!!嫌だ…行かないで…行かないで…!!」
サトシは空気を抱いて泣き叫ぶ。俺たちは何も言えず、それを見守っていた。
「それじゃあ、私たちは行きます」
ギルタリアはそう言って振り返った。俺たちもそれに続いて歩き出す。
「待て、お前ら、忘れ物だ!」
スバルが慌てて追いかけてくる。
「忘れ物?」
俺たちは頭にハテナを浮かべていた。するとスバルの後ろから誰かが走ってきた。
「君たちひどいよー、僕を忘れるなんてー!」
「あ…サトシ…」
忘れていたわけではない。サトシにはしばらく休んでいてもらおうと思って黙って出てきたのだ。
「もう大丈夫なの?」
「ん?何が?僕はいつでも元気マックスだよ?」
どう見ても空元気だった。しかし、これもサトシなりの処世術なのだろう。俺たちはそれを察して何も言わなかった。
「それじゃ、改めて…出発しよう」
ギルタリアの言葉を合図に、俺たちは歩き出した。
「そういえば、魔王石ってどうなったの?」
サトシがギルタリアに疑問をぶつけた。俺もその件については気になっていたからちょうどいい。
「あぁ、そのことなんだが…リヴァイアサン…もとい、レヴィが消えた後、一瞬現れたのだが、すぐにどこかへ消えてしまったようなんだ。どうも嫌な予感がするが…今は他の魔王の手下を探し出すしかないな」
「そうなんだ…」
その時、ギルタリアの携帯端末に着信が入った。
「はい、こちらギルタリア」
『コンティネント・Mのマルガスだ。あれから私たちギルドの人間は持てる技術を駆使して司令塔を開設した。これからはこちらから逐一情報を発信する。早速だが君たちがいる場所から南の方角に強い反応を感知した。向かってくれ』
そこで通信が切れたようだ。
「みんな、聞いた通りだ。南に向かおう。そこに次の敵がいるのかもしれない」
「うん、行こう」
俺たちは南に向かって歩き出した。
「ふーん、リヴァイアサンがやられたんだ」
「如何いたしましょう、〜〜様」
「南に向かって行ったみたいだね。その方角にはアスタロトがいたはずだよね」
「えぇ、そのようでございます」
「だったら、何もしなくていいんじゃないかな?彼の力も、少しずつ目覚めてきてるようだし…」
「先刻、風の力を解放したようです。その前には水の力も…」
「すごいね、一気に二つも力を解放しちゃうなんて。さすが…
僕のお兄さんだ」
ここまで読んでいただいて本当にありがとうございます。
無事第一章書き終わりました。感激。
最後、誰でしょうね、あれ。怪しい〜。
てことで、第二章も頑張りマッス。