本選 その1
トーナメント1回戦、第一試合から第七試合までは順調に、下馬評通りのメンツが勝利する。
トップの成績を収めた麗羅はシードで、あとは戦力評価の順位を足すと17になるように配置されているため、より強い者が確実に勝ち抜けるようになっているのだ。
初戦のみ、番狂わせは存在しない。
トーナメント1回戦がすべて終われば2回戦が始まる。
2回戦に残った8人。この中の誰かがあと3回勝利すれば、優勝が決まるのだ。自然と、麗羅の拳に力がこもる。
2回戦の第一試合は麗羅と下馬評8位の「僕怒 羅美」。足を使い相手を翻弄する、トリッキーな戦術を得意とする少女だ。
1回戦で体力を大きく消費しているため、肌には汗が浮かんでいるし息もやや荒い。戦力評価の低さは扱いの悪さとなるため、運営の対応は羅美に厳しいのだ。体力回復の時間がほとんど無い。
当たり前だが、麗羅は羅美の事情を斟酌する気など全くなかった。
「それでは! トーナメント2回戦第一試合、始め!!」
「――倍々筋」
「青狸流忍術奥義、四次元殺法!」
麗羅は開始と同時に『倍々筋』を使用する。筋力が上がることにより攻撃力のみでなく防御力も増すため、短期決戦ではなく長期戦に向けての判断だ。
逆に羅美は短期決戦をすべく、『四次元殺法』を始める。
四次元殺法は高速機動に加え相手の意識の死角に潜り込み、防御も許さぬ一撃を見舞う技だ。
一般的には『縮地』などとも呼ばれるが、魔法を併用することで時間と空間に矛盾が起きたような現象も起きる。初見ではまず防げず、外から見ても実際に死角を突かれることのイメージに結びつかないため、判別が難しい。
問題は、体力魔力の消費の激しさ。
そして。
「青狸流忍術、『空気法』」
全方位に意識を向けるタイプの技に弱い。
羅美は手にした苦無を麗羅に突き出すが、背後からの一撃であったにもかかわらず、麗羅はその苦無を素手で掴んだ。
そしてそのまま、苦無を試合会場の外へ向かって放り投げようとする。
苦無は羅美の手を離れ、地面に突き刺さった。
「倍々筋だけじゃなくて、他の家の技も使えるでござるか!?」
「ええ。実は、有力選手の技はだいたい使えるわ」
「嘘だっ!!」
青狸流忍術『四次元殺法』。
戦ってみないとどういう技か分からない四次元殺法も、同流派の者であれば何度も退治する機会に恵まれる。『空気法』はそうやって生まれた。
同門の技ではあるが、その経験から対抗策を編み出していたのは不思議な話ではない。対抗策を講じられようと、それを乗り越えるために技を磨いて行くことが望ましいからだ。
ただし。
こういった対抗策系の技は、ほぼすべて門外不出。
外部の人間に知られている事は不思議な話である。
また、そこまで多くの技を身に着けていること自体、異常なのであった。
羅美はそれ故に麗羅の言葉を強く否定した。
「意外と研究されるいるわよ。どの家の技も、ね」
羅美としては、否定したい。
しかし情報化社会、記録機器の性能向上が古式の技の、秘密を暴いていく。
麗羅はその恩恵にあずかっているだけだ。
羅美は麗羅の守りを貫けなかった。
万全の羅美であれば『四次元殺法』のさらにその上、『大夢魔神』――超々高速機動による防御貫通技――で『空気法』を破ることもできただろう。
しかしその前の戦いによる疲労が祟り、スタミナ不足で大技が使えない。それに大技は体に負担がかかる。決勝以外で使うのはその次で負けるのと同義であり、衆目に技をさらすことに羅美は躊躇してしまった。
この戦いも、下馬評通り。
終始麗羅が羅美を圧倒し、3回戦へと勝ち進むのであった。