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予選 その4

「それでは、バトルロワイヤル4回戦、スタート!!」


 前の戦いが終わり、麗羅たちの番になる。



 ここまで3戦が行われたわけだが、そのいずれもが同じパターンを繰り返している。

 すなわち、「優勝候補の少女が7~8人を相手に、順番に戦う」というパターンだ。


 優勝候補者とそれ以外というのは、隔絶した力の差がある事が多い。

 そうなると生き残る・勝ち残るためには優勝候補者を可能な限り消耗させ、自身が万全な状態で挑むことが望ましい。

 よって、優勝候補者が他の少女全員を相手取る事になるのだ。


 普通に考えると、誰かが戦っているときに介入し、背後などから不意打ちするのが最善なように思える。

 しかしそれは連係訓練などをしていなければ難しく、下手な不意打ちは無意味であると突きつけられるだけに終わる。むしろ不意打ちを利用して戦闘を楽に進める者までいる始末だ。

 一人一人が全力を出し切る方が、まだ勝機がある。


 結局のところ、3回戦までの優勝候補の少女たちは、「完全勝利」を体現していた。



 戦いが始まってすぐ、麗羅は霧雲の正面に立つ。


「神手公爵家次期当主、神手麗羅。いざ、尋常に勝負!」

「さすがねー。義理とは公爵家の娘としての矜持、持ってたんだー。

 いいわよー。こちらも名乗らせてもらうわねー。

 月野家次期当主、月野霧雲。お相手、(つかまつ)る」


 霧雲は正面から挑んできた麗羅に微笑むと、一切の油断を感じさせない表情で名乗りを上げた。


 周囲の者たちはそれを見守る形だ。

 邪魔をするのは無粋と。戦意を収め、静かに見守る。


(シッ)!」

(ハァッ)!」


 初手は、互いに無手。

 麗羅が神速で踏み込めば、霧雲もまた前に出て迎え撃つ。


 麗羅の拳は相手が前に出る速度が思った以上であった為に最高速へと威力が乗り切る前に霧雲と交差する。

 逆に霧雲の拳は最大威力を以って麗羅を襲う。


 双方が右の拳を振り切る速度。

 それが二人の明暗を分けた。

 麗羅は大きく体勢を崩し、霧雲は追撃の左を放つ。

 何とか麗羅は拳打を捌くが、どちらが優勢かはこの攻防だけではっきりしてしまった。たまらず麗羅は距離をとり、場を仕切りなおす。



「功夫が足りないよー。まだまだねー」

「ええ。最強の水兵を相手にするには、このままではいけないわね」


 すでに勝敗は見えている。

 そう言いたげな霧雲に、麗羅は余裕の笑みを返した。

 まだ何かある。そう言いたげだ。


「手を抜いていた、何か隠したままで戦っている、かなー?

 ――あんまり私を舐めて戦うのなら。提督に代わって、軍法会議(オシオキ)よ?」


 そう言って霧雲は、腰にかけてあった己の武器を手にする。

 戦輪(チャクラム)

 本来遠距離主体の戦いをするのが霧雲のスタイルだ。それを手にする以上、戦いはこれでお終いにすると、麗羅に突きつける。



 が、麗羅はそんな霧雲を小馬鹿にしたように嘲る。


「手抜き、ね。最初から武器も使わなかった人に言われたくはないわ。

 ええ。私の本気を見せてあげるわ。

 ――『倍々筋(バイバイキン)』」


「なっ!?」

「嘘! あれって!!」


 麗羅が本気を出す。

 その後に使った技に、対峙していた霧雲だけでなく周囲の少女たちまで驚きの声を上げた。


 スキル『倍々筋』。

 それは倍筋(バイキン)家の者にのみ伝わる、筋力増強の秘術。一子相伝の奥義であったはずの技だ。

 神手家の者が使うというのも、元・病手(やんで)家の者が使うというのも、どちらであってもありえない。


「奥義『覇飛不兵砲(ハッヒフッヘホゥ)』」


 周囲の驚愕が収まらぬまま、麗羅はさらなる奥義を繰り出す。

 同じく倍筋家にのみ伝わる拳技、『覇飛不兵砲』。超高速で繰り出す拳は距離の概念をも打ち砕き、数m先までなら威力を減衰させることなく拳打を届かせる、必殺の技。


 さすがに霧雲も回避を試みるが――避け切れず、腕をやられる。



「勝者、神手麗羅!!」


 その後の展開は一方的だ。

 腕をやられた霧雲は戦輪を弾き飛ばされ、そのまま近接戦闘に持ち込まれて敗退した。

 他の少女たちも動揺していた為に、麗羅にあっさり倒されてしまい、良い所など無く戦いは終わった。



「ねぇ、聞かせてもらっていい?」


 戦いが終わって。

 霧雲は麗羅の所に話をしに来た。


「どうしてあなたが倍筋家の技を使えるの? あれ、私も真似しようとしたけど、無理だったんだけどー」


 納得がいかないという表情で霧雲は質問する。

 霧雲自身、倍々筋だけでもと、練習をした時期があったのだ。無論、習得の取っ掛かりすら掴めなかったのだが。


「簡単な事よ。

 貴族の血は混ざり合っているわ。なら、自身の中にある倍筋家の血を感じ取れるかどうか。そこから始めないと意味が無いというだけね」


 国が長く続けば、互いに血を交わらせる機会というのは幾度も訪れる。

 麗羅の場合、病手家の先々代当主の夫が倍筋家の傍流であったというだけの話。さすがに『倍々筋』までは教われなかったが、取っ掛かりそのものは持っていたという訳だ。


 月野家も似たような事をしているため、他の貴族家の血を引いてはいるが。

 霧雲がそこにどこまで意識を向けたかというと、ほとんど意識をしていないと言う他ない。そこからが、前提条件そのものが違ったのだ。



 予選はその後もつつがなく行われ、大番狂わせで場を盛り上げた麗羅は見事シード権を獲得する。

 実力を知られ大きく目立ってしまったが、麗羅は戦闘回数を減らす事と、最強の優勝候補との戦いを遠ざける事に成功する。


 ここまでは、予定通りだった。

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