予選 その3
「これで予選も最後! バトルロワイヤルだぁーーっ!!
1組8人か9人で1人だけが勝ち抜け! 本戦は残った15人でリーグ戦! 1人だけシードだが、これは予選3つで最優秀と判断された奴の特権だ!
さあ、気張って勝利を目指せよ!!」
結局、半数どころかそれ以上に人が減ってしまった1㎞走。むしろ1㎞葬と言うべきか。
残った選手は131人と、運営の予定が大きく狂ったようだ。
麗羅はその事に特に感想を持たず、自分にとって都合がいいとも悪いとも思わなかった。
どの組にも優勝候補クラスの実力者が存在し、楽などできないからだ。ならば有象無象でしかないライバルの増減など誤差でしかないのだ。
そうして自身の戦略を組み立てていく最中に、彼女が予想していた人物からの接触があった。
「神手家の麗羅さんですね?
時間が惜しいので単刀直入にお願いします。私と、手を組みませんか?」
それは有力な敵を追い落とすための手駒を欲する、他の選手の勧誘であった。
「私たちの組には、水兵最強を継ぐ「月野 霧雲」様がいます。正面からぶつかれば 私一人で勝てるとは思っていませんし、その他の誰であっても単独では無理でしょう。協力の余地はあるはずですわ。
受けて頂くにあたり、互いに同盟者としての扱いをしましょう。どちらが勝ち抜いても恨みっこ無し。このロワイヤル終了後に互いを気に掛けるぐらいとしませんか?
勝ち残る確率の上昇、敗戦後の保険。悪くない話だと思いません?」
話を持ち掛けたのは、麗羅と同じ年の少女。
家格は子爵家とあまり高くないが、彼女自身は相当な使い手の様に見えた。
そして、そこそこ厄介なタイプであった。
「中身」
「え?」
「協力する条件は良いけど。協力と言って何をさせるつもりなの?
そんな大事なことを言わない交渉に乗る馬鹿がいると思うの?」
麗羅はこういった事前準備を悪い事とは思わない。
普通、政治の世界では事前交渉こそが本番であり、表で本番と言われる会議などは事前準備の結果報告に過ぎない事を知っているからだ。
ならばこのバトルロワイヤルも、事前準備で勝敗を決しておくことを悪いとは思わない。きっと1㎞走でも同じことが行われていたはずだ。
「残り人数が3人になるまでの不戦協定。初手で互いに距離を置き、月野様がどう出るか次第で臨機応変。あとは互いの勝利を優先する。それだけですわ」
「……それなら乗ってもいい。私はこれ以上、他の同盟者を増やさない。それで良ければ、だけど」
「構いませんわ」
これで自分を捨て石にするような作戦を行わせるのであれば確実に断ったが、序盤で敵を一人減らす、その程度で良ければ乗っても構わないと麗羅は判断した。
どこまで信用できるかは横に置き、同盟関係をあまり多く結ばれると身動きが取れなくなるが、他の誰かと共闘をしないというのならそこまで大勢に影響はない。
彼女の側に立ってみれば水兵霧雲が倒せるかどうかという点で不安が残る話であるが、公爵家。神手家への伝手が目的と考えればそこまで不思議な話でもない。
勝ちを目指すような発言をしているが、実際は負けた後を考えてのコネづくりという訳だ。彼我の戦力差を考えると仕方がない。現実的な立ち回りである。
事実、麗羅とこの少女との付き合いはロワイヤル後も長く続くことになるのであった。