予選 その2
「お次の試験は妨害アリの1kmレース! 殺し以外なら何をしても構わない、だから真っ直ぐ1km走るだけでも命がけ!
ここで人数は半分の150人まで減らすし、最後の予選にも大きく影響するから気合い入れろよ!!」
予選2次会は、妨害アリのレースだった。
ただし実質、バトルロイヤルの前哨戦である。
殺し以外は何でもあり。つまり300人中140人を排除する手段さえあれば、走る必要すら無い。まともなレースであるはずが無かった。
前に出れば背中が射撃・砲撃系の魔法の的になるし、かといって後ろにいるのも実は危険だ。最後方から砲撃で前を撃って勝とうとする者が結託し、妨害される可能性が高い。
普通に走るのが苦手な者で砲撃が得意な者なら、まず間違いなくそれを選択するだろう。
この場合、隠密行動が得意で足の速い者が一番有利という事か。
麗羅は自身の能力を勘案し、ここは目立ってでも前に出る事を選んだ。
初戦で目立たないという選択をしたが、欲しいのは確実な勝利であり、危険な賭け事では無い。相手を油断させる事ができれば上出来だが、それに拘って勝ちを逃すのは愚か者のする事である。
優先順位を間違えてはいけないのだ。
さすがに300人を並べて走らせるのは効率が良くない。
1回の出走は100人ごとに行い、その組み合わせは1次予選の結果を使って公平に決められた。
麗羅の位置は、第一出走のほぼ真ん中である。
人に囲まれ、身動きしにくい位置だ。
「それでは! 二次予選1km走、始まるよ!
位置について、よぉーい、ドン!!」
「死ねやオラァ!!」
「ぶっ殺す!!」
「破ァッ!」
ぱん、と空砲が撃たれ、レースの始まりを告げる音が響き渡る。
位置関係の都合で前にいる者たちは後ろを振り切る作戦に出た者が多い。その数は先頭集団の半分強で10人ほど。
中には何でもありと称して馬車を用意した剛の者までいるが、そこは一瞬で潰されている。
ただし残り半数はその場で振り向き、手近な者への攻撃を始めた。主に筋肉の総量が多い者たちである。
筋肉の量は時に足の遅さに繋がるため、打撃力を重視しすぎた彼女たちは走って勝つのでは無く、目の前のライバルを蹴散らして勝つ事を選んだようだ。
位置関係から逃げられそうな者はそんな妨害者達をくぐり抜け、逃げられないと悟った者たちは応戦を始める。
中ほどから後方までの少女たちは、そんな先頭に蓋をされて前へ出られなくなってしまった。
その騒ぎに釣られ、麗羅の周り、そして後方でも乱戦となり始める。
先行する者たちは放置され、そこそこ安全な状態で先頭から逃げ出した。時折だれかが撃った魔法で倒れる者が出るが、この人混みの乱戦の中よりは倒れる者の数が少ないだろう。
麗羅はそっと集団から離れ、戦うよりも走る事を優先しようとする。
運良く都合良く、先行している走者の方が目立っているため、ここから麗羅が前に出ようとしてもあまり注目は浴びない。
乱戦の中、誰もが敵対関係で自分に拘る者がいないうちに逃げてしまおうとほくそ笑む。誰もが目の前の敵を優先してくれるなら、走り出してしまえば後はどうとでもなるのだ。
その、走り出すまでが難しいというだけで。
「行かせはせん、行かせはせんぞぉっ!!」
今回の参加者の中でも打撃力一位の少女、「座日 道流」が豪腕を振るう。
巨躯に見合ったその一撃は、当たれば必殺の威力を発揮するだろう。
しかし周囲の少女たちもそれぐらいは見れば分かるので、足下を泥に変えるなどして機動力をそぎ、他の少女が死角、股下からの特攻でとどめを刺す。ライバル同士であっても強敵相手であれば協力して立ち向かうのだ。
有力者とは、このように集団に狩られていくのである。
麗羅のような目立たない、注目されていない少女は、ついで程度の軽い攻撃を受ける事はあっても重要視されない。
今は強敵に複数で戦えるから有力者を潰す方が重要であり、雑魚は次の予選で潰せば良いと見逃されるのだ。
見た目の戦闘能力は底辺レベルでしかない麗羅は、周囲の戦略により実力を隠したまま二次予選を突破するのであった。