第二話-絶望と…―
前回 少年ユウキの家に墜落したAGにより全てを失い失意の中、避難所である地下鉄に移動する
その道中で起こるその出来事は…吉と出るのかはたまた凶と出るのか?
ユウキは仕官に指示された、地下鉄に向かって力なく歩く、道なりはそれでも20分強の道なりである。
その道中、そこが前線になるであろう雰囲気がし大勢の国防軍士官たちが対空火砲や対空戦車、ミサイル等の配備を進める怒号が聞こえ右往左往する姿がうかがえる。
(ここも前線になるのか・・・)
せわしなく動く士官たちの目に留まらぬようにその場を後にし歩を進める…。
地下鉄まであと10分程だろうか大分歩いた所で車や人の往来を失い砲弾の着弾跡だらけ目抜き道路の中央で少女が母親を呼びながら泣いている姿を見たユウキは助けようと側へ寄ろうとおもむろに歩みを進めた瞬間だった…。
突然、飛行していたであろう、AGが悲鳴を上げるまもない早さで少女を巻き込み、轟音をたて激しく墜落し辺り一面に広がった土煙の中で駆け寄り少女の安否を心配し探すも煤ぶれて鉄くさい残骸の中で見つけたのは、四肢は砕け臓物や血液を辺りにぶちまけ出来た血だまりと亡骸と化した無残な姿の少女を目の当たりにしたユウキは、複雑な感情と共に急に腹の底から襲い来る吐き気を催し、口元を手で覆いその場からすぐに離れるも限界を超えたのか残骸となり横たわるAGの腕近辺で胃の中のものを全て吐きだしてしまった。
ひとしきり吐いていたが、胃の中の物が空となったようで途中から胃液しか出なくなったところで吐き気を押し殺しその場をふらふらとあとにするが周りに響く砲声や爆発音といった轟音や墜落したであろう衝撃がどうすることもできない自分の無力さとして体を突き刺して抜けていき生きる気さえ削がれていった…。
(なんてことない…自分が死ぬだけ…。)
そう、思ったととたん不思議と口元が緩んだ。
絶望が支配した人間というのは不思議といくつかの行動に出ることがある。
ひとつは、自暴自棄になって自刃する人間
ひとつは、笑みを浮かべてさ迷う人間
ひとつは、無関係な人間に危害を与える人間
いわゆる気が触れた人間の行動である…。
ユウキは、気が触れたかの様にすすり泣きながら笑い続けたがふとしたとたんに笑うのをやめた…。
(ここでなにもしないで死んだらどうしようもない…。)
ふと、仮に死んだとして何も無いだろうしたった17年の短い命を理不尽に無駄にしたらとてももったいないと考え始めると不思議と死ぬ気を起こさなくなり胃に走る嫌な吐き気も感じなくなっていったところで誰かに持ち上げられたようにすっくと立ち上がり自然と地下鉄に足が向き、誰かに後押しされるように一歩を踏みしめるとユウキは心の中に強い決心が芽生え始め足取りはしゃっきりしはじめた。
(死にたくない!死んだところで何にもならないじゃないか!)
心の中で強く思いながら着々と歩をすすめ地下鉄の入り口が目に入るとそこが救いの入り口のように思えてならないように見えユウキは駆け出した…。
あと30歩…
あと5歩…
すぐそこに!
そう思った瞬間、空から突然AGが降りてきて地下鉄の入り口を粉々に踏み潰し轟音と土煙を立てる、その煙の中から右肩にアメリカ公国の国旗、左肩に黄色い盾と中に戦車のシルエットの部隊章をあしらった濃灰色の巨体に赤黒いレンズを光らせたそのカメラアイには、はっきりと機械越しでもわかる殺意を目の前の少年に向けていた。
着地の衝撃を逃がすため姿勢を低くしていた体勢をゆっくり整えつつあるAGは、ユウキをジッと捉え続け、体勢が整うと今度は右手に装備した27.8mmAGライフルの銃口を向け引き金に指をかけていた…。
この時、自分のあっけない無残な死に方を想像し笑う…そして、不思議と死を覚悟すると周りの音が消え静寂となり、衝撃といった空気が一切感じられなくなった…。
ゆっくり目を瞑る…。
27.8mmの弾丸が放たれるまでの処刑の時間が長く感じる…。
シャンッ…!
突然、耳に入る錫丈の鐶のあたるような甲高い音だけがかすかに耳に入ってくる…。
シャンッ!
再び、鐶の音が鳴り響く、頭に直接入ってくるような違和感ではなくはっきり耳から入ってくる音だ、ユウキは目を開け音のする横の目抜き通りにふっと目を向けた瞬間、視界はまるできらめいたダイヤモンドが宙を舞っているような光景が広がっておりその中に何かが居た…音ははっきりそちらから聞こえ、目の前に居たAGも気がついた様でその方向に巨体を向けライフルを構えた。
どうやらソレ《AGのようなもの》が高速で移動しその速さで起こった風圧でビルのガラスが割れ舞い上がり地面に激突しさらに粉々になる音、それが連鎖しまるで錫丈の鐶があたるような音を発てていたのであるそして、ガラスがきらめいた世界を移動するソレがまるで翼をもった何かのように見えユウキが確実に視界に姿を捉えた瞬間だった、前に立ち自分を殺そうとしていたAGを蹴りつける形で近くのビルに押し倒し、AGの胸にあるコクピットブロックを格闘と言うよりは一方的に殴りつけるように殴打し動かないことを確認したあと、ユウキの居る方へソレは顔を向ける。
「もう大丈夫、怪我はない?」
ソレから発せられた第一声は快活そうな女性の声、ニホン語でユウキの心配をしていた、どうやらすれ違う瞬間にユウキ《民間人》が居ることを認識していたようで先ほどの行動もそれを配慮したもののようであった、助けられたことに安堵するユウキは、ソレに向かって大きな声で礼を述べるとソレのパイロットは笑った。
「あはははは!大きな声出さなくてもいいよ~普通にちゃんと聞こえてるから、危ないところだったね。」
女性パイロットには普通にしゃべっても聞こえてるらしいマイクでもソレには搭載されているようだ、しかしソレは一般的なAGとは同じ人型を模してはいるが少々背が高く今までとはまったく違う風貌をしている、最新型なのだとユウキは察したが口に出さないほうが懸命だなと思い心に留めておいたがパイロットが先にそれを口にした。
「気になった顔してるから言うけど一応ニホン軍所属の月産社最新型機動兵器レディアーマー《RA》よ、そこらのAGと一緒にしちゃいやだよ…。」
どうやら、ソレはRAと言われるようでパイロットから口にしたところを見ると彼女はそれなりにおしゃべりなようだ…警戒して周囲を見回している姿を見ると、人間らしいような動きでAGとは違い動きが恐ろしくスムーズだ…。
「パイロットさん、助けてくれたついでに近くの壊されてない地下鉄の入り口ってないかな?」
ユウキは、RAの女性パイロットについでで地下鉄の入り口をたずねるも、RAの頭を横にふりイヤ、近くには無いことを伝えられると落ち込んだ。
しかし、それもつかの間だった…RAのレーダーセンサーに反応があった様で頭を上空に仰ぐ。
「うぇっAG…4機接近!?ヤッバ…すごい近い…流石に連中も軍人だしね位置はすぐバレるよねぇ…。」
彼女が独り言のようにぼやいてすぐだった、その四機のAGは圧倒的な火力と言わんばかりのライフルの一斉射が土砂降りのように降り注ぎユウキはあわてて物陰を探したが盾になるようなビルの入り口が施錠されていたり瓦礫で埋まっていたりで隠れられるような場所は見当たらなかった、RAのパイロットはすぐそばで拳銃を取り出し応戦を始める、民間人を守りながらが負担なのかスラスターを吹かさないで立ち回っていたがそれが苦戦としてあらわれる事態に陥っていた。
「も~埒が明かないぃぃっ!」
あせっているのか独り言の音声が響くのが良くわかるが何を思ったのかユウキの逃げた先でしゃがみ、身を守るために伏せいているユウキをつかむとコクピットブロックを開け放り込んだ。
「なにも触らずっ!座って!シートベルト付ける!」
声は聞こえるがコクピットには誰も居らず操縦シートがひとつあるだけだった、ユウキは驚きながらも言われたとおり即座にシートに座りベルトを締めた。
「いいよ!」
「OK!口はあけないでね舌噛むからっ!」
女性はそう言うといきなり急挙動を行ったようでユウキは前から強烈な力で押されるような感覚が襲い、目の前のモニターに映る街の映像がめまぐるしい速さで変わると今度は、左から強烈に振り回される感覚が頭を揺さぶると吐き気を催した…。
「吐きそうでも吐かないでね!我慢して!」
女性はユウキを見ているようだがどこに居るのかわからないが戦闘もこなしているという不思議な感覚だ、ユウキは必死に彼女の言葉を信じ吐きそうなのを操縦桿であろうスティックを強く握りながらこらえつつモニターを見つめる、4機のAGが互い違いに連携を取りながらライフルを撃つ、モニターにははっきりと弾であろう物体が迫る姿を捉えてる、それにあわせて機体を回避させていることが良くわかる、体と頭が変に揺さぶられてジェットコースターに乗ってるような感覚ながらもモニターを良く見て堪えようとする…。
「気・・・気持ち悪い…。」
「堪えて、すぐだから!」
大人の言う『すぐだから』があてにならないのを非常時ながらも日常的でなんだか実感してしまうユウキは、ソレを信じるだけの我慢はとっくに無く限界がとても近かった…。
先ほども吐いたばかりというのに胃がきりきり、むかむかしているのが感じる、それでもモニターを見続けるているとRAは急加速をしてアメリカ公国のAGに接近し両腕の刃物のようなもので一機を胴体から両断しながら急旋回をして別の敵機に向きなおると今度は左右に機体を振り射線を縫い定められないように接近する…。
「も…もう…だめ…吐きそう…いや…吐く…!」
「うぇっ!ちょっ!シート下にゲロ袋あるからっ!」
ユウキは限界でたまらず、すぐさまシート下をまさぐり指先にかかるビニルの感覚をつかむと引っ張り出してひろげその中に胃液を吐き出した…赤茶色の液が空っぽの袋に満たされていく、それでも機体は依然戦闘機動を続けているため右往左往と体が揺さぶられる、救いは上下の動きが無いだけと一息、ユウキはついたがそれもすぐに裏切られた。
「飛ぶよっ!口閉じて!」
彼女は二言、絶望的な内容を伝えると、すぐにユウキの体は上から強烈に押し付けられる感覚が襲うとさらに前と立体的に重力が体を襲い一旦落ち着いたと思った矢先に今度は上に引っ張られ浮く感じとともに着地しちょうど下に配置していたAGを踏み潰しその先に居たAGにひざ蹴りを繰り出し頭を吹きとばした後、拳銃で後ろから3発撃ち込み崩れ落ちるのを確認するとすぐさま機体を左に滑らして残りを確認しようとしたが肩部がビルに微かに当たりゴリゴリと硬い音を発てる
「あちゃ…ぶつけちゃった…ゲロで修理費がかさむよりか…。」
「確かに壊れない…よりかは…マシだと…うえっぷ…。」
女性は多少自身の機体を心配しつつユウキは袋を口にあてがいながらマシだと話をすると女性は笑った。
多少なりと彼女は、余裕を見せていた、そうユウキのゲロでまみれるコンソールだけが気がかりなだけのようになるほどだ、女性は滑らかに動く機体をどこからか操縦し残りのAGを軽やかに撃墜し周辺の安全を確認した後、残弾その他を確認し始める。
「え~と、推進剤が残り30パー…38口径弾…あ~おおむね0発…レーザートンファーEN残は多少余裕はあり、と。」
「大雑把な…管理…過ぎない…ですか?」
「細かく管理してもおよその結果は同じだしね…あとどれくらい動けて戦えるか予想できるし。」
雑ではないにしろざっくり過ぎるのに構わない彼女の余裕を見せる性格から熟練パイロットの風格を表していた、おそらくは、過去の戦闘、九州地方から奪還作戦に関わっている相当な猛者で、ユウキは声とにじみ出る性格から彼女の風貌をうかつにも想像してしまった…。
筋肉ムキムキマッチョの大柄で大雑把、細かいことを気にしない…そう、想像したとたん吐き気を取り殺し思わず笑ってしまう…。
笑ったユウキの声を聞いた女性は驚いたようで事情を聞きだそうとする。
「いきなり笑ってどうしたのさっ!?」
「いや、変な想像をしてしまいました、ごめんなさい。」
「変な想像って、まさかあたしが機敏に動くゴリマッチョで大雑把な女版シュワちゃんだとでも?」
まさに想像していたこと、心でも読むように姿の想像をしていたことを的確に当ててしまうと女性はいささか不機嫌になり合わせて怪訝そうな声で話を続ける。
「君が、想像、推測するのは勝手だけど…ゴリは失礼なぁ…。」
「あぁ~、ほんとにすいません…。」
彼女はユウキの想像したゴリマッチョの部分だけは訂正させるとその後についての動きを何気ないように口にしだした。
「とりあえず…本来、君は乗せちゃいけないんだけど…事態が事態だったし、ね。」
「降りれば良いんですか?」
「行くアテがあって親御さんが心配していればね、口外しないための条件はたくさんあるけど。」
『行くアテと親御さん』と聞いてユウキは少しうつむいた…だいぶ時間はたったが今日だけで家族も失い、避難する希望すら、アメリカ公国に踏み潰され、いくアテも親も無くした…何もかもがめちゃくちゃになってしまった…生きる術が全て断たれかろうじて国防軍とも陸海空軍とも判断のつかないロボット兵器の操縦席で生かされてる状況だ…。
しばらくの沈黙…うつむいてる姿が女性には見えているのかその沈黙を破って女性は口を開いた。
「その様子だと…ごめんね…君のご家族はもう…そういうことなんだね。」
沈黙を破って出た言葉は、謝意を表した言葉だった…女性がいかに軍人で人を守る立場でも守れなかった
少年の家族への弔いの言葉はどこか悲しくそして重いものだった…。
また少し長い沈黙が重くのしかかる…が女性がボソッと口を開く。
「戦時徴用…非常時採用…なら…。」
「え?せんじ?ちょうよう?」
「そう、戦闘が起こって、足りない物資、人材を軍が現地で強制採用する制度で―――――。」
女性は簡単にわかりやすく戦時徴用制度を長々と説明すると、ユウキは納得した、つまり人員に関しては強制的に軍属になり、衣食住は保障されるが、見返りに軍事や戦闘に加担する命の危険が伴う…。
それでも、アテになるならとユウキは、その話に乗ると女性はうなずいたようでユウキを臨時の戦闘員(当てにはならない)としての採用の口契約を交わすと今後の動きを改めて話し出す。
「とりあえず、補給をしないことには、続けてアメリカ公国の連中と戦えないし、いったん補給に戻るよ。」
「そこで、僕には何ができるんですか?」
「何もしない…もとより、休んでいてとても疲れてるでしょう。」
一旦の安息ではあるその地を二人と一機は目指すことに成るが女性はその場所を口にすることは無かった。
最後までお読みいただきありがとうございます。
だいぶ間を空けてしまいましたが第二話を投稿しました。
ついに出てきました、人型ロボット兵器RA これからの重要なファクターです。
ガン○ムの様に採算度外視の規格外兵器ですがもちろん操縦を誤ればザ○のように簡単に落ちる機体です。
少年ユウキがニュータイプというわけではありません(作中でもコクピット内でゲロゲロ吐く位なので)このRAの女性パイロットが凄腕で歴戦の猛者であるというだけです。
マイペースに投稿が続くと思いますがどうか長い目で見ていただければと思います。
また、まだ至らない点が多いと思いますが、ご指導ご指摘いただければ幸いです。