第11話 不安
俺がこの世界に来てから二回目の夜。が、来た。
シトルフとコウちゃんはすでに夢の中だ(コウモリが夢を見るのかはさておき)。
(『コウモリコウちゃんは夢を見るか?』著:ハジメ)。
一人と一匹の気持ちよさそうな寝息の隣で、俺は一人で起きていた。
思案に暮れるにはうってつけの夜に思えた。いっそのこと、窓辺で夜空でも眺めながら詩作にでも耽っていたらそれらしい場面になりそうなのだが、残念ながらそうではなく、俺が眺めていたのは天井だった。
文明を再建しろと言われてまずやったのが詩作というのは、それはそれで後々笑い話程度にはなりそうだが、適切とは言い難いだろう。俺はそこまで詩人じゃねえし。
ただの普通の一般的な凡人だし。
凡人である俺は、その夜、ベッドの上で横になって、天上を眺めていた。と言っても、今は夜で真っ暗で、実際に天井を見ることはできないから、「天井があるであろう方向に目を向けている」と表現した方が正しいが。
別に、特に何を考えていたわけでもない。が、強いて言うなら、未来に対する不安について考えていた。
ぼんやりと。
「未来に対する不安」だなんて表現をすると、まるで学生時代に戻ったような錯覚に陥るが、俺が今抱えている不安の大きさは、学生が通例抱えるそれとは比べものにならない。
ぜんぜんならない。
だって、『文明を再建しろ』だぜ?
何度でも言うが、『文明を再建しろ』だぜ?
大人になったら何をやりたいか、とか、どんな人と結婚したいか、とか、そういうんじゃなくて。
「はあ……」
無意識のうちにため息が出てしまった。
青息吐息とはまさにこのこと。自分の吐息の色を確認することはできないが(電気がないと、夜とはここまで暗くなるものなのか)。
今の吐息で、隣で寝ている一人と一匹を起こしてしまったのではと、一瞬別の不安がよぎったが、その不安は不要だった。寝息から判断するに、どちらもぐっすりと眠っていて、起きるような気配はなかった。
ふと思う。俺はこんなにまで不安にまみれている有り様だが、では、シトルフはどうなのだろう。
俺はここまで、シトルフに頼り切りのおんぶにだっこ状態だった。諸々の説明をしてくれたのも、諸々を魔法で解決してくれたのも、全てシトルフだ。シトルフはこれまで俺に、不安の色を見せたことがない。
不安心はないのだろうか?
だとしたら、俺なんかよりも、数倍、数十倍も、強い人間だ。
頭が上がらなさすぎる。
そんな尊敬の気持ちと共に、俺は目を閉じた。明日より先の未来を、まぶたの裏に想像しつつ……。