第10話 足跡
巨人がお帰りになられた後。
「もしかしたら」と思い、シトルフとコウちゃんで、巨人の立っていた場所まで行ってみる。
すると案の定、そこには大きな足跡が深々と残っていた。縦がおよそ一メートル半、深さがおよそ三十センチメートルといったくらいか。あのデカさを支える足には、相当な重量が乗っていたということだろう。それに加え足踏みなんてしていたのだから、なおさら。
「すごく、大きいね……」
「やめろやめろ」
その微妙にいかがわしい発言をやめるんだ。字面なんだから。
「にしても、ここの周りには足跡が無いあたり、本当にここにポンと現れたんだな」
「そうね。時間帯がいつなのかは分からないけどね。……と考えると、待たせてしまったのかも」
「いやでも、急に来られたってな。こっちだって寝てたわけだし」
そこに関してはしょうがないような気がする。つい数分前こそ地鳴りのような足踏みで起きれたが、もしかしたら誰も起きなかったかも。
時計がないので正確な時間は分からなかったが、相当早い時間だ、今。
正直眠い。
たとえ正直じゃなくとも俺は「眠い」と言うだろう。それほどに眠い。
「池でも作れそう」
「んあ? ああ、そうだな。……まさか、作るのか?」
「えいっ」
作りやがった。
巨人の足跡に、ちょっとした池。そもそも足跡が五、六個あったものだから、池もその数だけ生まれた。といっても、水を張ったくらなものか。そこに魚が泳いでいるだとか、ハスの葉っぱが浮いているといったオプションはなかった。
「ひょっとして、あれか、生き物は作れないのか」
「そうよ。おやや、ハジメも魔法に多少の知識があるようで」
知識と言っていいのかどうなのか。前のあの世界に、そんな設定の本はたくさんあったしな。ただの予想だったのだが、本当にそうなのか。
「足跡にもロマンがあるね」
「俺には分からんよ、その感性」
「私はそう思います」
俺は改めて、池となったその足跡を見やる。巨大すぎる、巨人の足跡。
こんな言葉を思い出した。今となっては二度と会えない、会社の上司の言葉だ。
『歴史に足跡を残すのだ。地球に足跡を残すのだ。人は足跡を作りながら生きているのだ』
「足跡ねえ……」
そして神はこう言ったそうな。
『一から文明を再建するのです』
文明を再建するなんて、俺にはとても残せないような大きさの足跡なのではないだろうか。俺の足はそんなに大きくない。文明を再建するなんて、俺には荷が重すぎる。
「何やらネガティブなことを考えているわね」
「……そんなことねえよ」
「そうかしら。『俺には荷が重すぎる』なんて言葉が聞こえたような気がしたのだけれど?」
「…………」
図星。
魔法って恐ろしい。