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【十二章】孤独の獣の守るべきもの 1

【削除のお知らせ】


クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。


この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。


8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。


リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。


ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)


有澤透真

屋根にぶつかる雨音だけが部屋に満ちていく。


窓の上から下へ不規則なスピードで流れ落ちていく雫を追う水色の瞳は、二つの二段ベッドの間にペタンと座り込んだまま窓を見上げ、一人の男を待っていた。


携帯のディスプレイは午前一時を知らせる。


消灯時間が十時のはずの華園の部屋は、まだ明かりが灯されていた。


帰って来るはずのない彼が、戻って来たときの為に。



つい一時間前に、体中を痕跡だらけにして見夜都のもとから帰ってきた姫。


その姿を見た要と祐也は手遅れだったと知りながらも、彼女が誤解した力の言葉の真相を、全て明かした。


『ガーディアンじゃなかったらこんな目に遭わなかったのになぁ〜。嫌んなっちゃうよ、本当に……。姫がいなきゃ問題ないんだよ……』


それは性欲処理に悩んで出た言葉だと知った姫。


『どうせあたしに好きって言ったのも冗談だったんでしょ? 尻軽男の言うことなんか信用しなきゃ良かった……! ……これだから男って嫌い! その中でも力みたいな嘘つきが一番大っ嫌い!!』


彼女は力にぶつけてしまったとんでもない言葉、そして悪いことなど何もしていない彼を傷つけてしまったことを、うなだれて肩と唇を小刻みに震わせながら悔やんでいた。


でも、何もかもが既に遅すぎた。


それから姫は、まるで魂の抜け殻のように、ぼんやりと窓の外を眺めてばかりいる。


取り返しのつかないことをして、誰よりも大切な彼を失ってしまった悲しみが、虚しく溜まっては一粒ずつ零れ落ちていくだけ。


彼女が受けたショックは心の許容量を超えすぎていた。


一言も口にする気力も起きずに、心の息までもが絶えてしまっている彼女を案じて、二段ベッドの上から要が声を掛ける。


「そんなに気になるなら連れていくぜ? 王子のとこに。居場所も割れてんだし……。謝れば許してくれるんじゃねえか?」


彼女は聞こえているのか聞こえていないのか、微動だにせず反応を示さない。


携帯の画面を紫色の眼でじっと見つめながら、祐也のキレのある低い声が、姫の代わりに呟いた。


「……やめとけ」


放心状態の姫の手には、淡いピンク色の携帯が滑り落ちそうな程、弱く握られている。


画面は、離れた歓楽街を示していた。




そこでは、力が長い茶髪の美女を相手にしていた。


と、言ってもお喋りをしているわけではない。


ガーディアンになる前のプレイボーイにすっかり返った彼は、近くでナンパした女と雑居ビルのトイレで手早く行為に及んでいた。


女の白い脚を持ち上げ、更に個室の壁に体を押し付けて、挿し込みを繰り返す。


「……ンッ、……あ…っ」


「……」


女の押し殺した喘ぎ声の中、無言で息を荒げるその脳裏には、胸を貫く顔。


水色の眼をした彼女を抱きたいわけではなかった。


その原因さえ分からないのに、いつでもどこかに彼女がいた。


「……は…、…あぁッ」


「……」


全身に染み着いて消えない彼女を忘れたくて訪れたはずの歓楽街。


しかし目の前の女は、心を一瞬で捕らえてしまうあの笑顔を忘れさせてはくれない。


「ダメッ……、そこっ、……良すぎ…」


「……」


街に降りしきる雨音のノイズも、あの可愛い声を忘れさせてはくれない。


「アッ……!だめ…ぇ」


「……」


女が漂わせている甘さのきつい香水の匂いも、あの柔らかいシャンプーの匂いを忘れさせてはくれない。


「あッ、……あぁッ」


「……」


この久しぶりの快感も、あの細い体を抱き締めた優しい感触を忘れさせてはくれない。


「やんっ、イクぅッ!」


「……」


彼はただ、荒っぽいテクニックで蓄積されたストレスを晴らしていただけだった。


女に対する罪悪感など微塵もありはしない。


「あぁぁ…ッ!!」


「……っ」



全て出し切り、余韻に浸ることもなく、さっさと服の乱れを正す彼の首に、女は腕を絡ませていた。


「リキくん、エッチ上手。今の彼氏と別れるからあたしと付き合ってよ……」


「ごめん。俺、彼女と別れたくないから……」


嘘だった。


女を体で魅了出来てしまう彼の言い訳は、いつも決まってこれだった。


でも、力の体の味を覚えてしまった女も、彼を容易く手放してはくれない。


どうにかして手に入れようと唇を近付けてみる。


それを振り払うように、力は顔を背けた。


「……俺、キスって好きじゃないんだ」


これも嘘だった。



ただ単純に、姫とした血の味のキスだけは、……忘れたくなかった。




――


力は逃げるように歓楽街を立ち去り、高速のサービスエリアに向けてギアを引き下げた。


到着するとシートを倒し、彼のいつも寝ている方向である左腕を下に寝転がる。


しかし、電灯に照らされた誰もいない助手席が視界に入ってしまった。


思わずまた、ゆっくりと体を起こしてしまう。


そこは二人の時にいつも彼女が我が儘を振りまきながら座っていた席。


『アイス食べた〜い!』


『はぁ?! たった今高速乗ったのに?!』


『じゃあ次で下りて!』


『あ〜の〜なぁ〜……』


『半分こして一緒に食べようね!』


『……う、……仕方ねーなぁ、ったく』


もう、そこに彼女の姿が映ることは二度とない。


形にならない幻影だけが、いつまでも離れていかずに残っている。


「……早く消えてくれよ、姫」


彼女がいないこと。


それは同時に、自分の命も危険に晒されないということを表していた。


命を懸けてまで守らなければならないものは、もう何一つ持ち合わせてないのだから。



自由で、孤独。



(失う辛さをいつか味わうなら、最初から何も持たなきゃいい……)


ダッシュボードを開けて、彼はタバコを手に取る。


昔から心が落ち着かない時にだけ吸う癖があったタバコ。


一度、姫に吸っているところを見られて、力は怒られていた。


もう、


止めてくれる人さえもいない……。




――


朝方、部屋の照明を落としたのは要だった。


朝日が差し、白んできた窓辺には泣き疲れて倒れ込むように眠ってしまった姫。


祐也は彼らしく、誰よりも先に寝入ってしまっていた。


彼女を抱える鮮血の眼に、見夜都と姫が愛し合った証拠が嫌でも飛び込んでくる。


要と祐也は、聞いていた。


見夜都とは一回限りで終わったことを。


隣人を力だと誓った見夜都は、自身に再び十字架をかけた。


一方の姫も、皮肉なことに見夜都との行為によって、本当に好きな人が誰なのかを、意識のしないところで知らされることになった。


車のシートの上で不意に叫んでしまった、二文字の音。


嘘も偽りもない気持ちが、近くにいる見夜都ではなく、裏切られたと思っていた彼を求めていた。


要はベッドにぐったりした姫を運んで、彼女の泣いているような寝顔をしゅんとした顔で見つめる。


(夢の中だけでも戻って来てやってくれ……王子)



願いは、


届かなかった。


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