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【十一章】二者の欲望 3

【削除のお知らせ】


クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。


この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。


8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。


リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。


ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)


有澤透真

外車、グラーヴェの車内は静閑に支配されていた。


敵を捕捉する為なのかは定かでないが、音楽はかけていない。


エンジン音とワイパーの振る音、あとは雨粒が打ちつける音だけが沈黙を静かに飾っていた。


「……力が本当にそんなことを言ったのか?」


見夜都は事の全容を姫から電話で聞いていたようだ。


まず、彼の群を抜きまくった聴力で聞き間違いは有り得なかったが、俄かに信じがたい力の発言を、念の為、もう一度だけ姫に確認する。


「言った!」


姫はすっぱり決めつけていた。


信用が置ける人間に関する事は、簡単に決めつけたりしないのが見夜都。


(……感情的な姫に聞くよりも、後で力に直接連絡を取った方が早いようだ)


姫にはひとまず、可も不可もない返答をしておいた。


「……そうか」


「うん」


左側で運転する見夜都を、助手席から横目でちらちら見ていた姫は、彼の雰囲気がいつもと違っているように思えていた。


まるで、大事な、決して忘れてはいけないことを思い出せない時のような、もどかしい気分。


今一つ、何かが足りないような……。


言葉が途切れ、再び静寂に返った二人きりの空間で、姫は焦りすら見せながら話題を探していた。


その時、見夜都の口から飛び出てきた忠告が、彼女の胸を曇らせる。


「……一つ言っておく。仲間であっても男の車に一人で軽々しく乗るのはよせ」


「どうして……?」


意味がイマイチ理解できない様子の姫は、見夜都の顔を透き通った眼で覗き込んだ。


至極、真面目な、そして少々険しさもあるファラオの表情。


見夜都は、警戒も用心すらもしていない姫に、噛み砕いて促す。


「何が起こるか保障は出来ない……、と、いうことだ」


彼の胸に、自らが課した制約の証である十字架が存在しないことを、姫はまだ気付けていない。




タイヤは田口の屋敷に向け、徐々に回転を速めていた。


あと五分もあれば到着、


……するはずだった。


見夜都は右に曲がる十字路を、真逆の左にハンドルを切った。


その瞬間に、さすがの姫も彼の行動が何かおかしいことに感づいたが、それはもう後の祭りと言えるもの。


「見夜都、……どっか寄るの?」


僅かに、彼女から笑顔が失せ、眉が動揺を表す。


さっきの彼の言動から、この先に待ち受ける大まかなことは推し量れていた。


でも、それを聞けるわけがない。


言って、『肯定』が投げ返される事が、怖い。



彼が怖いのではなく、


待つ行為が。



見夜都はもう、彼女に眼を向けることすらしなかった。


ただ、大雨の降りしきる灰色の街を走り抜ける。


行き先もわからないどこかへ、彼女を運んで。




誘拐されている気分すら覚えた息の詰まるドライブ。


しかし、暫くして見夜都がブレーキを踏んだのは、ただのレストランだった。


姫は、


(余計な心配しちゃったじゃない……。この間みたいに笑われなくて済んで良かった……)


と、安堵に胸を撫で下ろしていた。


だが、食事をしている最中も、その後に立ち寄った場所でも、彼の表情は何故か冷ややかだった。


見夜都は姫の行きたい所に付き合い、まるでデートのような一日を過ごした。


時間はもう22時。


夜光を散らす街中を突っ切り、あとは遊び倒して満足げな姫を華園の部屋に送り届けるだけ。


しかし、その前に彼は寄り道をした。


ギアを引き上げたのは、どこかの会社の倉庫が立ち並ぶ岸壁のような場所。


人気ひとけは全くと言っていい程に無い。


海は荒れていて、雨も土砂降り。


これをロマンチックと感じる人はいないだろう。


激しくガラスを叩き付ける豪雨で視界も殆ど崩れていた為、夜景を見せようとしたとも到底思えなかった。


鍵をロックし、エンジンを止めた見夜都は、綺麗なブルーの瞳で何かを告げる。


突如、心臓が動悸を覚え、困りまくった顔で緊張を張り巡らせる彼女。


その指先が引かれ、そして彼は、姫の手の首にキスをした。


不意に息を喉に引っ込め、姫は頬を真っ赤に染めてしまった。


「それ、ど……どういう意味?」


心臓に悪い、と言えるほどの急速な鼓動が彼女を襲う。


「知りたいか?」


「……うん」


ベンチシートの肘掛けを上げ、寄り添うような距離まで接近した見夜都は姫の掌を指差し、教えた。


「掌へのキスは『お願い』」


次は手の甲を指差した。


「手の甲へのキスは『尊敬』」


更に額。


「額へのキスは『挨拶』」


次は瞼。


「瞼へのキスは『憧憬』」


その次は頬。


「頬へのキスは『親愛の情』」


すぐ後、


一瞬だけ動きを止め、でも、姫の眼をしっかりと見つめたまま見夜都はゆっくりと指で唇に触れた。


ドキッとしてしまうその仕草と、自由を拘束されそうな強い眼差し。


そして彼は突然、優しく姫を抱き締めた。


「見夜……」


刹那、蝶でも寄ってきそうな甘い消毒液の匂いに包まれる。


右手が顎を持ち上げて、見夜都が少しだけ体を引いた。



押し付けられた、


唇。


その隙間を埋めて、吐息と舌が絡まり合う。


息継ぎを持たせては再び口づけて、溜め込んでいた感情を移すような長いキスをした。



「……ここへのキスは、『愛情』」



媚薬を思わせる香水の匂いに意識が侵されて、猛毒にやられたように心までもが惑わされていく。


恐怖心さえも解かれて、引きつけられる。


「……見夜都」


彼は黙って首筋に跡を残しながら姫の上着を捲る。


体の輪郭を這うような指で。


「……声を出しても外には聞こえないからな」


この間、意味を履き違えたその言葉。


でも今度こそ、間違えようもない、制圧の響き。



「……眠れ、『見夜都』」



聞こえない程に小さく、自らに囁く声は『独裁者』。



そして、手の首へのキスは――『欲望』。



彼女はすでに、ファラオの射程圏内に入っていた。



逃げることなど、



もう、



できない。



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