【十五章】復活のクロス 4
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
落ち着きがある重々しい天蓋付きベッドで眠りについている要。
薄いシルクの丁度いい寝心地と、力に飲まされた睡眠薬は、彼に悪夢のような精神世界を齎していた。
――
鼻を突っつく古めかしいラベンダーのような香り、そして、耳を障る長く平らな経文が、五感のうち二つを辿る。
妙なぼってり感が乗っかっている瞼は開けられない。
即ち、さっきからずっと黒塗りばかり見ている彼の誇らしい視力は今、ただの役立たずに過ぎないということだ。
しかしながら、眼の代役を引き受けた鋭敏な直感は、彼に教えている。
今いるのは葬式だろう、と。
それも、自分の。
『要、どうして俺様を表に出さなかったんだよ? たかが睡眠薬で俺様が起きれないとでも思ってたのか? おかげでこんな厄介なとこに飛んじまったじゃねえか』
精神世界にいる要の、更に心の奥底で、黒豹がグチグチと行動力の無い相棒を責めている。
「起きたところで、王子を助けに行くことも止めに行くことも出来ねぇんだよ……」
自分の能無し加減に呆れるような相棒は、随分と投げやった言葉を吐いていた。
『狼が怖いのかよ?』
「……違う。俺様は」
続けようとした時、魂が吸い込まれるように、精神世界へと引き戻されてしまった。
閉じた視界に眩しさが差し、接着剤が落ちたかのように簡単に、鮮血の眼が開く。
だが、
右に左に動かした眼に映し出された光景は、悲惨の極みを絵にしたものだった。
木が腐った廃墟的な斎場に、枯れて茶色く悄気た花が飾られた祭壇。
その中で蓮の形をした灯火だけが艶やかなまま生きている。
顎を引いたその目前には、
「うげっ!!」
朽ちかけた金属の棺桶に詰め込まれた自分と、その周りを隙間なく埋める花……ではなく風化した人骨。
要は思わず、寝ていながらぶっ倒れそうになってしまった。
参列者は自分の体を埋め尽くす人骨と区別もつかない亡者達だ。
ただし、彼等は召集でもかかったかのように、生き返った要には目もくれず、せかせかと斎場から流れ出ている。
取り残された亡者は、棺の蓋を持った、一人だけ。
こいつは最後の死亡確認でもしていたのだろうか、と要は呑気で、為にもならない憶測を立てていた。
「勝手に人の葬式やるんじゃねぇよ」
少し不機嫌な彼は、ギュウギュウな棺から抜け出そうと、埋まった両手を錆びた縁にかけて、上体を起こす。
しかし、亡者は再び棺桶に彼を閉じ込めようと、蓋を閉めかけていた。
「っ、てめぇ、何しやがんだ!」
みすみす焼かれてたまるか、と左手一本で塞がれかけた蓋を押し返す。
骨だけの体から繰り出される腕力は、その頼りない容姿とかけ離れ、馬鹿に豪快だ。
少しずつ、ギリギリと押される要は、閉鎖寸前で、
「……なめんじゃねぇ、くそったれーー!!」
ずっしりと重い赤褐色の蓋を、亡者ごと勢いよく押し飛ばした。
蓋の下敷きになって潰された骸骨に、おふざけな合掌を捧げる要。
そして、ガラガラと音を立てつつ骨風呂からやっと抜け出した。
だが、
――ヒュッ、
覚えのある、空を掻っ切る予備動作音が、要の反射神経に至急回避を命じる。
振り向き様に体を右に反らせた彼の真左を、尖った先端が垂直に落ちた。
「……!」
影が過ぎた、のではない。
そう見間違う程、全体を黒い服で固めた人間だ。
黒髪と紫色の眼が、冷艶を持つ、青年。
「……祐也!!」
間を与えず、腰に付けたチェーンを鳴らした強力な飛び蹴りが、要を狙う。
「……?!」
『いただくぜ、黒豹!!』
――ガツッ!!
吹っ飛ぶことを危惧した要の長い脚は、瞬時に低く踏ん張って防御体勢を取っていた。
身長差があるからといって受け身を怠ろうものなら、かなりの痛手を負うか、最悪、秒殺され兼ねない恐ろしい蹴り。
その威力は以前、トレーニングの相手をさせられた時に、気絶という形で味わっている。
ライオン頭の攻撃を。
「……王子!」
直後、打ち合わせたように、力達が退いた。
『二人に殺られていれば楽に死ねたものを……』
要のいる、その、ほぼ真上から凶暴なバイオリンが奏でられる。
問題を出す前から正解を教えているような、特徴のある声質。
そして力と祐也の二人が出てきたということは……
「……ファラオか!!」
朽ちてボロボロになった天井の穴から、しゃがんで片膝を立たせた脚が覗いていた。
仰ぐ鮮血の眼が、彼の構える銃を見極めようとする。
(AFOLか、ティガーか、どっちだ?!)
それは、防御可能か否かを定める為だった。
AFOLであれば難なく腕を盾に出来るが、ティガーであれば、一発食らうと急所でなくとも致命傷だ。
この場合は、逃げる他に選択肢はないだろう。
しかし、
『はあぁぁあ!』
木片と埃をバラバラと散らし、天井を突き破って急襲する彼の手に握られていたのは、銃ではなく、振り翳した長い剣だった。
「あぁっ?! ちょ、ちょ、待てッ!」
究極の奇想天外に、頭が次の指令を見失い、大振りされている腕に、ただ焦点が釘付けになる。
まさにその時、
『鈍くせぇな! さっさと変われ!』
走る光ほど早い、強制的なチェンジが彼の中で起こった。
ファラオの危険な一撃が、後ろに跳んだ黒豹の脚にたった数ミリの余白を挟んで空振りする。
――ドゴォッ!
代わりに斬撃を受けたカビて湿っぽい床は、派手に叩き壊された。
『どいつもこいつも危ねぇもん振り回しやがって!』
体勢を崩し、手をつきながら着地した彼の前には、祭壇を背に牙をむく狼、ファラオ、そして獅子。
仲間達と敵対する黒豹には、ある思いが巡っていた。
心の内で、その感情を共有した要から、自分を詰った言葉が出る。
「だから言ったじゃねえか。俺様は何だかんだ言っても結局は仲間に手出し出来ねえんだよ……!」
そう、それは狼に左胸を刺される直前に痛感したもの。
言わば、彼の弱点である。
しかし、黒豹には、無益な躊躇をするより先に、編み出さねばならないものがあった。
このどん詰まりを打開する策、だ。
(チッ……!やるしかねぇのか)
鮮血の眼は、まず先に一番戦いづらい武器を持ったファラオに狙いを絞った。
彼が長い剣を振り回す時、力達は巻き添えにならないようにと距離を置き、乱入もしてこないからだ。
1対1ならば、ファラオが相手であれど勝算はあるかも知れない。
『でやあぁぁあ!』
右下へ構えられた剣は、敵を斜め真っ二つにしようと襲いかかる。
しかし黒豹は、ファラオが構えから攻撃に移すまでの間に、若干のタイムラグを見出していた。
『要』であればこの微少な時間を有効に、一つの例えで、回避をしたりなんてことには使えないだろう。
金髪を前に靡かせながら後ろにトンと退き、彼は上体を反らして銀の曲線をかわした。
すぐにファラオはブンッ、ブンッ、とヤケクソのように剣を振り回す。
『気でも触れたか、ファラオ!!』
まるでキレのない粗末な攻撃。
やっぱり偽物は偽物かと、黒豹は少し気を緩めていた。
しかし、
次の一振りを避けて後ろに退いた瞬間、
――ギシッ、バキッ!!
『……つっ!』
まさかのトラブルに見舞われた彼の寿命は、紙よりも薄く縮められる。
腐敗した床が体重で抜け落ち、右足が挟まって尻餅をついてしまったのだ。
冷たい殺意を瞳に表したファラオは、跳躍して高く伸ばした腕を今にも振り下ろそうとしている。
『――!』
足を抜こうなどと、浅はかな望みは持たなかった。
それが叶っても、喜ぶ間もなく葬られる確率は、計算する頭が哀れになる程に高いからだ。
顔を逸らし、目をぎっちり閉じた彼は、覚悟を決めた。




