【十五章】復活のクロス 2
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
階下の仮眠室で眠りについていた見夜都。
彼は、夢の中で見渡す限り眩しいネオンが映える夜の都会に佇んでいた。
ここは、五差路という、所謂五つの分かれ道。
自分の立ち位置は、その全ての道を結んでいる、まさにど真ん中だ。
彼の周りを行き交う人達は皆、信号も無く車もいないコンクリートの上を、スクランブル交差点を渡り歩くように、思い思いの方角へ進んでいく。
唯一、見夜都だけは行き先に迷い、戸惑った顔で流れる街をただ、眺めていた。
そこへ、天の声だと勘違いさせてしまうような響きが、彼に呼び掛ける。
『お前が進むべき道はこっちだ……』
「……え?!」
見夜都は導く者の正体を探し、しきりに辺りを見返した。
すると、
さっきまでは無かったはずのものが、五つに分かれた道のうち、四つの道の入り口に一つずつ、忽然と姿を現していた。
置かれているのではなく、立たされているそれは、
――棺だ。
と言っても、通常の棺とは違って彩りは様々。
ある道には白の棺に鮮明な赤の十字マーク、またある道にはシルバーの棺に青の十字……という感じに風変わりな個性を持っている。
ただ、四つの棺のうち、二つ、
紫の十字がついた黒い棺と、黄色の十字がついた赤い棺は、何故か蓋が開けられ、空っぽだった。
人波の流動の中で、鼓動を持たずに立ち尽くすそれらの棺に対し、気味が悪いと感じた
その時、
心の呟きが、別次元からの来訪者がいるということを知らせてしまったかのように、交差点の中の人間が一斉に足を止め、ゆっくりと見夜都に不審な目線を這わせた。
「……ヒッ」
360度、自分を取り囲み、怪しむ、
眼、眼、眼、眼、眼……
彼はこれが夢だと認識出来ている。
と、思いたいが、実際のところは、現実であってたまるかという気持ちだった。
逃げているとは言えないほど、小さく震えた後退りをする彼。
『そっちではない』
逆再生のように引き摺った声は、自分を惑わしているのか、それとも正しい道を教えてくれているのか、それすらも分からない。
だが、
見夜都はどちらにせよ、逃げ道を決めていた。
例え正体不明な声が指し示す場所が進むべき道だとしても、足が竦んで、そちらには行けそうもない。
奇妙な棺桶が立ち塞がり、その先に飲み込まれてしまいそうな闇が続き、更には死霊の唸り声までする、その、四つの道へは。
自分の後ろに遥かに繋がる、夜光に照らされた残り一つの道。
そこだけが、彼の歩ける場所だった。
『ブレーキが……』
「えっ?」
いきなり、天の声は、突拍子もないことを言い出した。
『ブレーキがかからない……』
「……!」
見夜都はその呟きに、恐怖と安堵という、相殺してしまいそうな二つの感情を覚えていた。
恐怖は、声の主が彼を助けてくれる神でも何でもなく、真向かいに立つシルバーの棺の中の死者だったのだという事実から派生していた。
一方、安堵はその声に騙されなくて良かったという安心感から来るもの。
棺の中からたった今、発せられた言葉は単なる『恨み節』だろう。
恐らく、ブレーキがかからなくて事故死した死者が、自分を導くふりをして、地獄へと誘おうとしていたんだなと、見夜都は感じていた。
膝が笑って中腰のまま縮まってしまった彼を、じー…っと見ていたはずの人間達は、見夜都がうっかり考え事をしている間に、すぐ近くにまでにじり寄っていた。
「……?! こ……来ないでよ!」
落ち着き無く薄茶の髪を振って、あっちではない、こっちも駄目だと突破口を探す彼。
しかし、無数の人だかりに囲まれてしまっている見夜都は、今更走り出したところで、振り切って逃げる間もなく捕まえられてしまうだろう、と自ら思っていた。
絶体絶命――
「だ……誰か」
その精神が危機に晒され、崩壊寸前に達した時、
「誰かァーーっ!!」
――バタンッ!
一つの棺の蓋が勢いよく解放されて、中にいた死者が顔面から落ちる勢いで倒れ込んだ。
シルバーの棺から飛び出してきたテイルコートを着た死者。
彼は、到底死んでいるようには見えない程に血色が良く、背中に自分より一回りほど小さい銀の十字架を背負って、それごと全身を動けぬように鎖で縛られていた。
体は痛々しい傷と血にまみれ、頭からは大量の出血。
見夜都を闇の底へ道連れにしようとしていた人間達は、ピクリとも動かない恰好の餌食を目にすると、血の匂いに誘われるように十字架の彼に集っていく。
『……ぅぐっ』
一人、また一人と物凄い早さで彼を覆い尽くす人間達の体は、沸騰したお湯のようにボコボコと肉が蒸発していき、煙をくすぶらせながら骸骨になっていく。
「う、……うわあぁぁ!」
目の前で、犠牲になるように人骨の山に埋められていく彼を、見夜都は間違いなく見ていた。
しかし、『あの人を助けなきゃ』なんて善人ぶった感情は抱かない。
まず先に、自分が逃げたいのだ。
今のうちだと言わんばかりに体を翻し、棺のない『安全な道』へと彼は走り出す。
息を上げ、全力疾走して、自分は助かった……と、人間らしい汚さに自嘲をしながら。




