【十五章】復活のクロス 1
【削除のお知らせ】
クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。
この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。
8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。
リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。
ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)
有澤透真
起こした事故で傷を負い、記憶さえも失った見夜都は、要の時と全く同じ懸念から、田口の屋敷に運ばれていた。
しかし、仲間とはまだ顔も合わせていない。
自分のことを『僕』と呼ぶ、柔和で屈託の無い笑顔が素敵な彼は、独裁のファラオの記憶は疎か、銃の撃ち方までも忘れてしまっていた。
もしかしたら、見夜都自身が、故意的に蓋をしているだけなのかもしれないが。
まるで一般大衆な『彼』の全貌を知らされた力、姫、要の三人は、ファラオの進んでいた道を遮るような、思い切った決断を下した。
殺し屋としての黒い過去を持たない今の彼を、
ただの二十歳の青年として生きていかせよう、と。
これは、力達にとって、残り多い決め事である。
飾りを取り払った言い方をするならば、彼等は、仲間を捨てるのだから。
だが、しかし、
力達は、初めから罪を重ねることを望みはしない見夜都に再び銃を握らせ、自動的に殺し屋の闇世界に引き戻すのは酷ではないかと感じた。
その心配りが、遣り切れない結論を紡ぎ出させたのである。
「見夜都は元々私の養子のようなものだ。普通に屋敷で生活させることに異論はないが……」
二階の静まり返った冷たい応接間に座る田口は、力と姫、そして無茶にもパジャマのまま点滴を引いて強引に飛び入り参加してきた要を前に言う。
慈悲に揺れた田口の心は、『本当にそれでいいのかい?』と、もう一つの選択肢をちらつかせていた。
しかし、見夜都のことを思いやる三人の意志は、揺るぎない。
「そうか……」
伏し目がちに繰り返し頷く田口は、スーツのポケットから見夜都の、というよりファラオの十字架を取り出した。
「これは力君、きみに……。見夜都に渡したんだが、自分の持ち物ではないと返されてしまったんだよ。記憶を下手に掘り起こさない為にも、彼には無理に渡さない方がいいかと思って……」
「……」
力は、数多くの血で塗り固められた十字架を、そして、彼が我が身のように大事にしてきた十字架を、田口の太く、幅のある手から受け取った。
亡き王の志を継ぎ、彼の罪と罰を背負い込むように、ライオン頭の胸にクロスは繋がれる。
――
その日の夜、
人為的に眠らされた要と姫がいるゲストルームでは、ベッドを軋ませる誰かがいた。
見夜都の所持品だった睡眠薬に体を支配され、殆ど反応を見せない彼女を抱くのは、快感を得たいからではない。
「……っ」
抵抗が出来ない姫に同意の上ではない『行為』をするのは、やはり心苦しさに苛まれる。
しかし、眠らせねばならない理由は、別のところにあった。
「――う…っ!」
動きを止めた体は十字架を余韻で揺さぶりながら、本来の『目的』を果たす。
乱していた呼吸と服を整えた彼は、姫の左手の薬指に光る指輪を外した。
そして、もう一つのそっくりな、永遠を誓った証を自分の右手の薬指から同じように外す。
彼は、ベッドから下りて両開きの薄い窓を開け放ち、左手の中の金属を噛み合わせるように強く握り締めた。
決意を心に、手を振り上げる。
その二つのリングは、見渡せる敷地内のどこかへ、……投げ捨てられた。
寂し気な、でも、思いのほか綺麗に響く音を弾ませて、彼女への切ない想いは、段々遠くなる。
「ごめん……姫」
二つの懺悔を呟く彼は、もう一つのメッセージを残した。
居るか居ないかもわからない、そして、もし居たのなら、自分の血を半分受け継いだ『分身』へ。
「ママが寂しくないように、いっつも笑わせてやってくれよ……。……こんなパパでごめんな」
力は、眠るお姫様を起こさないように、そっと優しいキスをした。
「……愛してる」
そして、喉を苦しめる言葉を、それでも伝えなければいけない言葉を、掠れた声で絞り出して、連ねた。
「死んでも、ずっと……」
彼の足は、かつての仲間の待つ、更に、彼女の歪んだ守護者の待つ戦場へ向かい、たった一人で歩き出す。
歯をギリギリと噛み締め、鋭い刃のような眼を緑がかった金色に光らせるその姿は、
最初で最後の罪に対峙する、十字架を掛けた
――獅子。




