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【十三章】危険信号 〜侵される精神〜 2

【削除のお知らせ】


クロス・ガーディアンを読んで下さっている皆様にお知らせです。


この度、読みづらいということと、ラストがグダグダしているという理由で、クロスを削除することにしました。


8月10日より、毎日一話ずつ削除をしていく予定です。


リメイク版のアップ予定は今のところ未定ですが、なるべく努力はしたいと思います。


ではでは、いつかまた会いましょう(´艸`)


有澤透真

華園から一駅離れた場所に構える精神病院の閉鎖病棟。


真っ黒な静寂に薄気味悪さを煽る非常口の発光が、床の上にもう一つのぼやけた緑の輪郭を映している。


横に五つ繋がった椅子が縦に六つの列を作っている、中央の休憩スペース。


昼間であればテレビを観ることのできるその開放的な空間と、すぐ真横にあるナースステーションを中心とし、病室の群は十字架のように四方に伸びていた。


椅子のほぼ真ん中に座り、要と見夜都を待っている力と姫の二人。


あの後、祐也は護身用に隠し持っていたのであろうナイフを振りかざして、突然、力に襲いかかってきた。


飛び道具ならともかく、ナイフのような武器で攻撃してくる人間を相手に闘うのは、格闘能力が四人の中で一番優れている力の専門分野と言える。


祐也に背を向けていた彼は後ろを取られ、振り返った時に左腕にナイフをかすってしまったが、素早く向き直り、即座に臨戦態勢を取った。


刃で心臓をえぐろうとしてかわされ、前のめった姿勢から、祐也は間を置かずにナイフを翻し、力のいる右側にヒュッ、と大きく振る。


しかし、動きを先読みしていた力は後方に短く跳んで刃先を避けた直後に、右腕を大きく振り上げた状態、言わば、がら空きで無防備な祐也の懐に突っ込んで、その腹に容赦ない一撃をかましていた。


手痛い打撃をまともに食らった祐也は殴り飛ばされ、突如、何の前触れもなく始まった二人の闘いは、呆気なく、ものの十秒で蹴りが付いたかのように思えた。


だが、その後も彼は要に羽交い締めにされながらも、


「俺の女を返せーーッ!!」


と、力に対して奇声を張り上げ、いつかかってきてもおかしくない程に、激しい敵意を剥き出しにしていた。


それを単に、パニックを起こしてわけがわからなくなってしまっているんだと受け流していた男達。


しかし見夜都の後ろに下げられた姫だけは、その言葉に含み隠された異変に気付き、背筋の凍る思いをしていた。


彼が叫んだ『女』というのは、つまり『美緒』を指す。


そして彼の中で、死に別れた彼女『美緒』と、力と婚約した『姫』との境界線が断絶され、二人のミオが一纏まりの存在になってしまっていた。


更に、被害妄想がそこに加わり、憎悪の矛先が、異常を起こした精神に創り出された架空の仇敵、高山力へと向いてしまっていたのだった。


要を振り払い、再びナイフを持って殺意を見せた祐也を、仲間三人はやむを得ず敏速に取り押さえた。


彼の両腕は力によってがっちりと背中で拘束され、両脚は見夜都の手で押さえ付けられた上に膝で圧迫され、起き上がれもしない状態。


頭には、要にシヴァを突き付けられて、まさに全ての動きを封じられた祐也。


その彼から、そして不気味に吊り上がった口角から、ぼそりと呟かれたのは不吉な予告だった。


「鮮血の黒豹」


いきなりもう一つの名前で呼ばれた要は、銃を向けたまま怪訝そうに彼を見下ろした。


「通り名の付けられたお前は、必ず消す……」


「……!」


その悪意の塊を受け入れられずに、戸惑いを表していると、また彼は、通り名を連ねた。


「独裁のファラオ」


名前の主は早くも彼の殺気を捉え、眉を顰めていた。


「俺はお前を亡き者にして頂点に君臨する……」


「……そうか。ならば貴様が返り討ちに合ったときには確実に死を与えてやる。今から覚悟しておけ」


自分に刃を向ける存在は、仲間であろうと射程圏に入れてしまう冷酷な殺し屋、ファラオ。


十字架をさげた王は彼を『敵』とみなしたようだ。


更に、邪念の標的は、まだいた。


イリュージョンの眩しすぎる青白いヘッドライトの中に。


「リキ」


得体の知れない嘲笑に寒気を覚え、一瞬の間、手が緩んでしまった『彼』だった。


「俺の女を奪った貴様は絶対に許さない。……殺してやる!!」


「……祐也」


最も理不尽で恨みのこもった感情が、力に疑問と不祥をわき上がらせる。


そして、残された者。


冷え切った視線は、水色の眼の彼女に突き刺さっていた。


「逃がさない……」


呪詛のようなこの一言が、四人を震撼させたのは言うまでもない。


その中心で、反応を楽しむかのように奇妙な笑い声を絶えずこぼす、かつての仲間。




――


味方に牙を向いた祐也の『予告』は、ライオン頭を返す返す流れては黒い輪を形作り、不安を呼ぶ。


今は他の事なんて考えられる余裕はどこにもない。


ただ、姫の細い指を無意識にぎりぎりと、痛みを感じさせる程に強く握り締めることしか出来なかった。


彼女だけは、離さないように。


その力のもとへ、暗く伸びる影と二つの異なる足音が忍び寄る。


張り詰めた顔の、殺し屋二人組だった。


彼らは物音が思いのほか響く廊下を、無言でコツコツと歩いて力達との隔たりを埋める。


何も喋っていないのは、夜間だから入院患者に気を遣っている、……ということでは無い。


力と姫の右手側に体を投げ出してドカッと座る要。


その前列の端に、横座りする見夜都。


二人は一様に、物憂げだ。


もう、祐也がどんな状況に陥っているのか聞かなくても、大方の予測は出来てしまっていた。


「入院、だってよ」


悪い知らせを届ける要の呟きが、力を脱力感で縛り付け、胸の奥から深い溜め息をつかせる。


重ねて、


「ショックは相当なものだったのだろう。精神が著しく不安定な上に人格障害も引き起こしているそうだ」


見夜都の声が、一刻も早く普段通りの祐也に戻って欲しいと願う二人に、またもや絶望の重圧をかけた。


そこに、


どこかの室内から発せられたキレのある阿鼻叫喚が、四人の間を突き抜ける。


「ぐあァァァ! 来るな……! 来るなぁーーッ!!」


要と見夜都の二人を待っていた時から何度となく耳を刺した、闇を這いつくばる祐也の叫び声。


「もう嫌ぁっ!! 耐えられない……!」


耳を塞ぎ、震えながら姫は体を縮めた。


男達が知らない、祐也の元彼女としての姫が、苦しむ彼の声を拒絶していたのだった。


まるで精神崩壊曲でも聴かせているかのような、その情動。


このままでは限界点に立たされた彼女の自我まで崩壊してしまうと危険を直感した力が、すすり泣きながら自分の体を抱く姫を、左腕で引き寄せてあやした。


他にどんなことをすれば彼女が少しでも救われるのか。


最初から無い答えは、当然、見つけられない。


「……もう出よう」


声を掛けられた見夜都と要も、今、まさに同じことを提言する寸前だった。


先に痺れを切らしたのが、たまたま力だっただけである。


暴れる彼が強制的に鎮静させられたら、様子を伺うつもりだった四人。


しかし彼等は、叫び狂った祐也を預けたまま、閉ざされた闇を後にした。



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