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王の愛しき宝と刀二振り  作者: 佐伯晶
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手弱女と鋼

この小説は刀/剣/乱/舞/の二次創作です。恋愛に発展するかどうかは未定です。

思い立った時に更新します。

今日で18になる。上には二人の姉が居る。その二人はこの組合の活動には一切関与せず、普通の社会人として生活している。どちらも家を嫌って出ていったわけではなく、単純に堅気でいた方が楽だからだそう。


豪華絢爛たるこの部屋は、私の父の部屋。この部屋には私と父と見知らぬ男と日本刀が二振り。厳しい顔をした父が渋い唸り声をあげた。


「お前も俺の手から離れて行動することが多くなるだろう。直接俺が付いていたんじゃあこの家も、組合も空けることになる。そりゃあつまり敵さんにいらっしゃいませと言っているようなものだ」


父は私を睨むように見た。いつも部下連中に向ける目だった。私には今まで一瞬たりとも向けなかった目。思わず息を飲んだ。


「だから、常にお前を守ってくれる…所謂護衛を付けることにした。安心しろ。俺の直属の部下で、絶対に裏切らないと契約書も書かせた」


父が手で二人の男に前へ出るように促すと、嫌な顔もせずごく当然のことのように従った。


「やあ。君がボスの娘さんだね。僕のことは、光忠と呼んでくれ」

「よっ。俺のことは鶴と呼んでくれ。隣の光坊…光忠とは結構昔から縁があるんだ。そうだ、後で光坊の面白い話を聞かせてやろう」


真っ黒の男と真っ白の男。どちらも私の期待を裏切るような性格だ。

まずは黒い方。鋭い眼差し、金色の隻眼。片目は手術用の眼帯と前髪で隠している。見た目で言えば、刃物のような冷たい人物。今話していた口調、声色、目の動き、仕草…それらを含めると、がらりと変わる。きっとこの人は優しくて温かい人だ。しかし、どこか胡散臭い。

次に白い方。白い髪、白い眉、白い睫毛、綺麗な金色の瞳、白い肌、綺麗な鼻、薄い唇。線の細い体も手伝って、儚い印象を持つ。だが、話すとそうでもない。笑顔も少年のような活力がある。声も想像より低く、儚い印象を易々と打ち砕いた。この人は真っ直ぐで嘘のつけない人だ。


「……よろしく」


私は一言挨拶をすると父に目をやった。父は相変わらず厳しい目をしていた。


「それと、お前にこの二振りの刀をやろう。護身用と言うにはちと重いが、きっと役に立つ。刀の扱いはその二人が上手い。教わるといい」


父は私に二振りの長くて重たい刀を手渡した。黒いのと、白いの。父に礼を述べて頭を下げる。そこでやっと父の目がいつもの柔らかさを取り戻した。


「急に呼び出して済まなかったね。さあ、今日ももうすぐ終わる。お誕生日おめでとう、俺の大事な娘よ」


頭を撫でられてくすぐったい気持ちになりながら、また礼を述べた。





「それで、貴方達は何故私の部屋に居るんです?」


部屋の入り口に立つ二人の大男を離れた場所にあるベッドから睨む。鶴とやらは人の部屋をじろじろと見回しているし、光忠とやらはそんな鶴を宥めている。


「何故って、護衛の為さ。どちらかが部屋の中で、どちらかが部屋の外で。寝ずに番をするんだ。こら、鶴さん!女性の部屋だよ!そんなにキョロキョロしないの!」

「痛っ!ちぇ…まあ、何だ。怪しいことはしないし、部屋の物も君が許可したもの以外は触れない。ああ、だがその刀には君の許可があろうがなかろうが触るがな」

「それは君の護身用であり、僕たちの武器だ。あらかじめ言っておくからね」


男二人は息ぴったりに台詞を分けて話した。まるで兄弟のように。


「…お好きにどうぞ。部屋の物なら何でも触っていいし、変なことをしないなら、ここを貴方達の部屋だと思って過ごせばいいわ。私も基本この部屋から出ないし、貴方達を監視できる。何かあれば父さんに連絡する」


だからどうぞ、と部屋に入るように促すと二人は靴を脱いで部屋に入った。本棚にある本を手に取ったり、机の上に広げたままの課題を見たりしている。

その間に私は刀を触っていた。黒い方は鞘に紫の紐が巻き付けられているだけのシンプルな装飾。柄を握って鞘から少し刀身を覗かせてみる。電気が反射して眩しいくらいに輝いた。


「…綺麗」

「その刀は、燭台切と言うんだ。伊達政宗が使っていた刀でね。無礼な態度を取った小姓を切った時に、青銅の燭台も切れたから、燭台切と名付けられたんだ」


いつの間にか隣に座っていた光忠が耳元で囁くように説明した。私は距離を取った。


「おや、何故そんなに離れるんだい?」


何故?


「貴方が近くに居るからです。何ですか、あの距離。下手すれば接触してしまいます」


光忠はキョトンとした後、大声で笑った。何だ、こんな顔で笑うのか。


「鶴さん、聞いた?お嬢さんったら、僕に近寄られるのが嫌で距離を取ったんだって」

「ああ、聞いたぞ。珍しい人だな。光坊に近寄られて逃げるなんて」


二人にゲラゲラ笑われて、さすがの私も腹が立ってきた。笑われる意味が分からないのに笑われているんだもの、腹が立って当然よ。


「あんたら、そこに座りなさい。本当に青銅が切れるほどの切れ味か、試してあげるわ」


刀を抜いて二人に向ける。その瞬間、二人の笑い声は止まった。そして、空気も変わった。光忠の目は細く鋭くなって私を見据えていて、鶴の口元は楽しそうに笑みを浮かべている。冷たくて、氷のような空気を二人は纏う。


「君、それが何を意味しているか分かるかい?」


光忠はベッドから立ち上がって私に向かって一歩踏み出した。刀を持つ手が震える。それでも真っ直ぐに彼を見据えた。


「うーん…必死に刀を構えて睨みつけてくる女性と言うのも、なかなか美しいね」

「だが、君を守ろうと誓った男共に刃を向けて、挙句切り捨てようなんてことを言うのは、褒められる話じゃあない」


鶴に視線を移した。その瞬間、私の手首は何か強い力で叩かれ、あまりの痛みに刀を落としてしまった。慌てて拾おうとした手を黒い手袋の手が掴み、引き寄せ、最終的に腰に腕を回されてしまった。


「余所見なんて良くないよ。…僕だけを見ていて」


甘くて低い声が脳を溶かそうと、耳の奥で蠢いた。くらっとして足から力が抜けそうになって、それでも耐えた。弱みを見せてはいけない。私は強いと見せなければ。


「やれやれ…。おうい、光坊。純情なお嬢をあまり弄んでやるな。きっと、俺たちが笑ったんで気に食わなかっただけだろう」


離れた場所から鶴の声が聞こえる。先程までの気迫はどこへやら、呑気に茶菓子の煎餅を食べている。光忠は鶴の方を見て笑った。私に一言謝罪をして、頭を撫で、刀を鞘へと収めた。刀と、光忠。とても似合っていた。


「…どうしたんだい?」


見惚れていたのか、光忠が困ったように微笑みながら首を傾げた。ドクドクと自分の心臓が脈打つのを感じた。何か…何か、私の想像を超える何かが始まろうとしている。そんな高揚を覚えた。


「刀が、似合うなって」


光忠と鶴が目を合わせた。目を合わせて、微笑みあって、頷いた。鶴が煎餅の袋をゴミ箱に捨てて、ベッドに置いてあった白い刀を手に取った。


「そりゃそうさ。だって俺たち、刀だもの」


白い刀は鶴によく似合った。

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