一夜限りの夢の先
ふとなんとなく思い付いたもの。
これ、どういうカテゴリ扱いなんでしょうね?
もう一つ?い、一応色々考えては居るんですよ、文章化してないだけで。……申し訳ありません。一応書くつもりではあるんです。はい。
当時、私は10歳だった。その頃私は辛い日常から目を背けたくて、1人きりで好きな物を食べ、好きに寝て、好きに起きて、遊びたい、と。そう願った。
その日は、流星群を見た。星に願い事をすれば叶うなんて迷信を信じ、心の底から願った。
私の、私だけの世界になりますように――
気付くと、私は家の布団で眠っていた。目覚ましを見ると朝、いつもと同じように起きる時間だった。けれど、いつもぐちぐちと煩く香水臭い母は見えず、毎朝当たり散らす父も姿が無かった。
ふと外に出ると、そこには何も無かった。いや、正確には晴天と草原が広がっていた。しかし、それ以外には何も無い。コンクリートで出来た地面も、五月蝿い車の音も、通勤通学で騒めく人々も、連なる家々も。普段あるものは何も無かった。
私はそれで直感した。夢が叶ったのだと。ここは私だけの世界。私に都合の良いだけの世界なのだと。
そう知ってまず行ったのは、大声で叫ぶ事だった。大都会に住んでいるのだ、大声なんて一度出す事も出来ず、あるいは物心付いて初めての叫びだった。
初めての咆哮は掠れていた。それでも私はあらゆる苦痛を吐き出した。あらゆるヒトを呪う言葉を紡ぎ、あらゆる理不尽に苦言を呈した。
喉が枯れる程に叫ぶ。けれど、ここは私に都合の良い世界。決して喉が枯れる事はなく、痛みも無く、世界には私の怨恨だけが響いていた。
やがて、そんな言葉も尽きる。一つ一つの事柄全てを呪い、最後に夢を叶えてくれた何者かに感謝をした。
心が多少なりスッキリすると、ヒトはお腹を空かせる。都合の良い世界なのに腹は空くのかと感じたが、私は今まで食べたかった物をいくらでも食べられると思えばそれは都合が良いのかもしれないと思い直した。
最初に私が食べたいのは、暖かいご飯だった。そう思えばそれは叶った。食卓には湯気の立つご飯が置かれていた。私はそれを掻き込むように食べた。美味しかった。暖かいご飯はこれほどまでに美味しいものなのかと、私は涙を流しながらご飯をお腹いっぱいになるまで食べた。
お腹いっぱいになれば眠くなる。私は柔らかいベッドを望み、そしてその願いはやはり叶う。私はそのベッドに潜り込み、何年ぶりかの安眠を貪った。
心身ともにスッキリとした目覚めを迎えた私は、外に出た。何時間経ったのかは判らない。目覚まし時計は、私が起きるいつもの時間で止まっていた。外は、日は少し傾いていたが相変わらず晴天で、草原が広がっていた。暖かい風が草木を揺らす、長閑な世界。
まずは私は草原に仰向けに寝転がった。柔らかい草木のベッドは、家に生み出したベッドとはまた違った良い気分にさせてくれた。何も考えず、ぼうっとしていることが幸せに感じた。
どれだけそうしていたか、私はぼうっとしていることに満足すると、今度はのんびりと草原の中を散歩した。
ゆったりと時間が流れる。気付けば世界は暗くなり、美しい月の光だけが草原だけの世界を映していた。
私はその場に小さな小屋を生み出した。何処かで見た木の小屋だ。私はその中で昼寝の時と同じベッドを生み出し、そこで再び眠りに落ちた。
次に目が覚めた時、夢は終わってしまっただろうかと不安になった。だってそこは、いつも見ている汚い天井だったから。
恐る恐る確認してみると、しかしそこはどうやら未だに夢の中だった。
ほっと安堵して、私は再び温かいご飯を望み、温かいお茶を望んだ。2度目だったが、やはり涙が出るほどに美味しかった。
この世界は私だけの世界。全てが私が望むものを生み出せる。
私はこの世界で望む限りのことを尽くした。惰眠を貪り、あらゆるお菓子を食べ、公園を生み出し遊び、学校で話題になった漫画にも手をつけた。
そうして何日経っただろう。あの頃は数ヶ月経ったような気分だったが、今考えてみると1週間程度の出来事だったはずだ。
やりたいこと、望むこと。私は全てを叶えた。次から次へと出てくる尽きないと思っていた願いは、完全に尽きていた。
そう手持ち無沙汰になってふと、思ってしまったのだ。
――嗚呼、寂しいな。
私と会話する人間なんて口煩い母の愚痴と、怒鳴る父、それしか居なかったはずだ。それなのに、私は思ってしまった。1人は、寂しいと。
この世界は、私に都合の良いように出来ている、私だけの世界。
この世界は望むだけの物は出てきたが、唯一、願った時に思いもしなかったヒトだけは、この世界で生み出すことは出来なかった。
誰も居ない、私1人の世界。私が心の底から望んだ世界。
そこには全てがあり、全てが叶い――願わなかったものは、叶わなかった。
一度、寂しいと言う感情が漏れると、それは止め処なく溢れ出した。温かいご飯、美味しいお菓子。柔らかいベッド。欲しかったと思った物は全てが叶った。
それなのに、欲しいと一度たりとも考えなかったモノが、これほどまでに恋しいとは。
一人は、寂しい。一人は、辛い。
何でも叶う世界が、ただそれだけの事で急激に色褪せていく。
私は本来の家に息を切らせて走った。誰一人居ない世界だ。何でも叶う世界なのに、それ全てが恐ろしく見えて。私は必死に駆けて自分の家に戻ると、目覚まし時計を抱きしめた。
もう良いのだと。もう戻してくれと。わがままを言ってゴメンナサイと。私は必死に祈った。
――こんな世界は、要らない。と。
ジリリリリリリリリリリリ!!古い目覚まし時計の音が、どこかで聞こえた。
色々飽きて途中から雑になったのでいつか加筆修正するかもしれません…