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定番からは逃げられない

「くっ!魔力があまりない所を狙うとは…」


「へへっ、おとなしくしていれば痛い目見なくて済むぜぇ」


「諦めるものか!サモン、ウルフ!」


「そんなもんで勝てると思ってんのかぁ!やっちまえお前ら!」


「「「ヘイ!!!」」」


『太古の大森林』をでて、何やら騒動があると見に来てみるとそこでは、銀髪の美しい女の人が襲われていた。歳は、16歳くらい?少なくとも、ザルテより若いかな?それよりも…

きてしまったか…まさにこれは盗賊イベント。冒険者が出てくる物語やゲームでは定番のイベントだ。

盗賊やらモンスターに襲われている人を救い、その救われた人から感謝され、そこから知名度が上がっていくのだ。知名度が上がってほしくない俺からすれば、とても厄介なイベントと言える。


「でもなぁ、手助けしないほど悪人ではないしなぁ、俺。というより助けたいのが本音だし」


俺にだって、襲われている人を助けたいという良心はある。俺はただ目立ちたくないだけなんだ。でも、このまま見てるだけなのもまずい…どうする?


「いけ!ウルフ!」


「ガウッ!」


「くっ!しゃらくせぇ!オーク!さっさと倒しちまえ!」


「右だ!、そのまま突進!」


「うっ…お!」


「お頭ぁ!俺達も行くぞ!」


「「「おお!!」」」


あれ?意外と戦えてるな?Nモンスターのウルフだけでここまで善戦できるなんて…結構手練れなのか?

のわりには、モンスターが弱いが…


「くそっ!魔力があれば…!」


「へへへ、どうあがいたって無駄だぁ!」


ああ、なるほど。魔力がなくてモンスターが召喚できないのか…となれば簡単だ。魔力を回復させればいい。


「サモン…ブルースライム+99…」


気づかれないようにブルスラを召喚した俺は、あるものをブルスラに渡した。


「ブルスラ…この魔力回復薬をあの女の冒険者かな?とにかくあの女の人に渡すんだ。渡した後は、出来るだけ気づかれないように俺の元まで来い」


「キュ」


「よし、行け」


俺がブルスラに渡したのは魔力回復薬。これはモンサモのバトルで魔力を消費した際に使っていたものだ。こちらに来て試しに使ってみたこともあったが、普通に回復したので大丈夫だろう。


「駄目だ!このままでは…」


「やっと観念したかぁ~?どれ…っん?なんだぁこのスライム?」


「えっ?」


盗賊達の間を通り過ぎたブルスラは、女の冒険者らしき人物の所へいき、目の前で魔力回復薬の瓶を差し出している。


「これは…魔力回復薬?どうしてスライムが……っは!そんなことよりこれがあれば!」


「しまったぁ!その瓶を壊せえ!」


「ゴクッゴクッ…もう遅い!サモン、ヘルバウンド!」


「しまっ…!」


「ガウ!」


「ギャアア!!」


女の冒険者が召喚したヘルバウンドが他の盗賊の喉をかみちぎり、絶命させた。ウルフでも最初は善戦していたんだ。ヘルバンドがいれば余裕で盗賊達を倒せるだろう。


「しかし、ヘルバウンドか……強いんだよな?」


ヘルバウンドのレア度はSRの中位。ついさっきまで…というよりこの半年間ほぼ毎日狩っていたモンスターだったため、いまいち強いのかがわからない。いや、本当は強いんだろう。盗賊達もヘルバウンドが出た時点でほとんどの奴らが戦意喪失してるし。

いよいよもって、本当にまずく思う。強さの感覚があの森のせいで麻痺してるんだ。このままだと王都で下手な発言もしかねない。少しずつでも鳴らしていくしかないな…


「っと、スライムも来たしさっさと、とんずらだ」


そのまま俺は別方向から王都へと向かうのだった。



ーーーーーーーーーー



「ふう…なんとかなったかなあ」


「キュ?」


先ほどの、盗賊イベントを華麗に?クリアした俺は、遠回りになってしまうが、別の道から王都へとブルスラと共に歩いていた。護衛がブルスラなのは、この辺ならブルスラ1体でも大丈夫だと判断したからだ。


「まっ、これも俺の作戦が完璧だったってわけだ!」


「何が完璧だと?」


「へっ?」


振り向くとそこには、いないはずの女冒険者がいた。そんなばかな!あの戦闘の中で俺が逃げるのを見てたのか!?


「君なあ!確かにこの回復薬をくれたことには感謝をするが、もうちょっとましな助け方はなかったのか!?」


「えっ、あっ、その…」


まずいぞ…この状況は予想外だ!何をどうすれば…と、とりあえず誤魔化す?


「え、えーと…俺、何かしましたかね?回復薬とは?」


「はあ、今更何を言っているんだ、君は…さっき私に回復薬を届けたスライム、そこのスライムだろう」


「キュ!?」


やばい!まずい!どうしよう!三大慌て文句でてしまったよ!いや、そうじゃなくて…この状況をどうするかだ。冷静に冷静に……よし、俺は弱者でモブだ。背景のように誰にも気にかけられない存在。なら、俺のすることは?


「あっ、あはは、ばれちゃいましたか~」


「君なあ…」


すまないモブよ。この状況だと最悪モブは諦めるしかない…モブは背景。誰にも気に留められず、坦々と作業をこなす存在だ。でも、こんな強者に認知されてしまった時点で背景でなくなる。ならせめて強者とばれず、弱者として媚びへつらっていれば、認知されることはあれど、目立つことはないはずだ。ここから俺はモブじゃなく、弱者を演じる!


「でも、確かに君だとあの盗賊達は倒せないだろうな。なんせブルースライムじゃあゴブリンも倒せない」


「あっ、そうですか…」


やっぱり、スライムは弱いと思われているようだ…しかし、モンスターを召喚していることに疑問を感じていない?やっぱり背が伸びて、最低13、4歳にはみえてるのだろうか?


「あの…変なこと聞きますがモンスターを召喚するのはだいたいどれくらいの歳からですか?」


「本当に変なことを聞いてくるな。普通は13歳でどの子もモンスター召喚の儀式に参加させられる。常識だろう」


「あっ、いやちょっと確認を…」


「そうか。まあ、なんにせよ助けてくれたのは事実だ。私は、セルティ。王都の方で冒険者をしているものだ」


「あっ、僕はアキって言われてます。よろしくです」


「アキか…それで君は冒険者なのか?見た所13歳ぐらいには見えるし、モンスターがスライムの所を見ると駆け出しのように感じるが?」


「あっはい、駆け出しっていうよりもまだ冒険者登録してないんですよ。だから、今から王都に向かおうと思ってまして」


「なるほど、なら私についてくるのがいいな。どうせ、私も王都に行くのだ。お礼の代わりにはならないだろうが護衛ぐらいしよう」


「えっ…と、それは正直ありがたいです。とりあえずスライムがいるのですが、不安で不安で…」


「ははっ!確かにスライムでは心細いだろうな!よし、行こうか!」


「はい!」


「キュウ…」


不機嫌になるなよ…ブルスラ。俺達は今、弱者なんだから。とにかく今は、寄生虫のように強者に媚びへつらって何としても目立たないようにするんだ!


こうして、なんだかんだと、セルティと共に俺達は王都へと向かっていった。




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