半年後
「おーい!そろそろ行くぞ!」
「クイッ!」
『うむ、ついに旅立つか』
あれから半年がたった。当時の俺は150センチほどだったが今ではぐんと伸びて、160センチはあるんじゃないだろうか?この体は、イベント開始前の見た目とは幼さ以外は変わっていなかった。でも、この成長速度は、前とだいぶ違う。俺が実際にこのぐらいの歳の時は伸びても155センチぐらいだったはずだ。それが今では、半年で10センチ…レベルとか関係してるのだろうか?
まぁ、これで少しはモンスターを召喚しても怪しまれないかもしれないからいいんだけどね。
「それにしても、充実した日々だったなぁ…」
この半年間は何もなかった。何も起きなかった。
ただ毎日、この森に出てくるモンスターを狩り、ピュアを鍛える(魔石で強化したり)とかして一日一日が充実していた。誰にも注目されずに、坦々と日々を過ごしていく。これがどれだけ素晴らしい日々か!
一時期はここで永遠に過ごしてもいいなと思ったくらいだ。
「でも、さすがに家には帰りたいし、いつまでもここにはいられない」
もう半年だ。あっちでは俺はどうなってしまったのか…だけど何年かかっても俺はイベントをクリアして必ず帰る。
「それにしても、本当にいいのか?こいつ連れてって」
『かまわん。この子も、この半年で驚くほどの成長を遂げてしまった。主におぬしのせいでな』
「なんだよ、別に悪いことではないだろ?」
『まあ、そうだが…』
実は、このスピリチュアルドラゴン…リチュアの子供のピュアも俺についてくることになった。なぜ、リチュアが許してくれたかというと、主にこのピュアの成長速度にあった。
『まさか、半年で進化するとは思わなかったぞ…』
「俺にかかればこんなの朝飯前だ!」
そう。俺はこの半年間、自分のレベルを上げるついでにピュアの強化もしていた。
本来モンスターは他のモンスターを狩ることで経験値を得ることが常識らしい。他にも、魔石を使って強化できるが、モンスターを倒した方がレベルが上がりやすいのだ。しかし、俺にはある特殊な強化魔石がある。それを使ってぐんぐん強化していった結果。レベルがマックスになり、進化素材があれば進化できる段階までいってしまったのだ。
「あとは、素材を集めてちょちょいと進化って感じだな」
『こんなやつがいるとは…世界は広いものだ…』
「おーい。戻ってこーい。あっ、あと、ここに人が来ても俺のことは言うなよ!」
『確かあまり目立ちたくないんだったの。大丈夫だ、もともとここには人が来んし、来てもそんなことも言わせずに帰ってもらう』
「ははっ、なんとも物騒なことで…よし!じゃあ行かせてもらうよ」
『ああ…我が子のこと、頼んだぞ』
「任せな!」
ーーーーーーーーーー
リチュアと別れた俺たちは、この森を抜けるため坦々と歩いていた。
「さてと、ピュア」
「クイッ?」
「実はこのままお前を表に出したまま行くと後々面倒なことになるんだ…というわけで俺と契約してくれ」
今のピュアは、ピュアコドラからリトルピュアコドラへと進化したため俺より少し大きいぐらいまで成長している。そのため、王都にこのまま向かえば目立ってしまう確率がある。というより100パーセント目立つ。なので、俺と契約してもらい、基本的には俺のスマホの中?にいてもらうのだ。
「クイ」
「おう…決断早いな…」
ピュアは迷いもせず、俺に契約の印となる魔方陣を出してきた。相変わらず信用しすぎではないか?
「よし、じゃあ改めてよろしく」
「クイッ!」
これでピュアは完全に俺のモンスターになった。本人が嫌なら、リチュアに返すつもりだけど。
「んっ?」
リチュアを戻すと同時に、何やらまわりが騒がしく感じてきた。
「ああ、この森も相変わらずだ…」
「「「グルルル…」」」
俺の前には、複数の大きな黒狼がいた。こいつらは、ヘルバウンド。SRの中位モンスターで、この森ではよく見かけるモンスターの一体だ。
「うーん。ピュアしまっちゃったしなぁ…どちらにせよ、ピュアだけじゃきついんだけどね」
ピュアは進化して、レア度がSRとなったばかりだ。スピリチュアルドラゴンまで進化すれば簡単に倒せるが今のままではつらい。
「うーん、SRモンスター三体か…じゃあこいつかな。サモン、フルメタルブルースライム」
「キュイ!」
いつものように召喚されるメタスラ。俺自身、この半年でレベルは大幅に上がった。だからと言って召喚するモンスターが変わることもない。強力なモンスターを大量に召喚できるのは確かだけど、わざわざSRモンスター三体ごときに俺のオールスターズを使うまでもない。なんかここにいて、モンスターの強度感覚がおかしくなってきているような…気を付けよう。
「「「ガウッ!」」」
「メタスラ、左へ」
「キュ!」
「「「ガッ!?」」」
ヘルバウンド達が一斉にメタスラへ攻撃を仕掛けるが、俺の指示で、ヘルバウンド達の隙間をすり抜けたメタスラは、すり抜けざまにカウンターをお見舞いした。
「ほい、そんで『青銀の槍撃』っと」
「キュイ!」
「「「ガァッ!!?」」」
カウンターでひるんでいる隙に、メタスラのスキル『青銀の槍撃』でヘルバウンド達はあっという間にやられてしまった。
「結構、レベルだけじゃなくてプレイヤースキルも上がってるかもな」
「キュ?」
半年前なら、これぐらいのモンスターだとメタスラでも苦戦していたかもしれない。だけど今だと、ヘルバウンドの攻撃パターンが読めてしまうためか、まったく苦戦することなく勝ててしまう。メタスラとの連携もうまくなっているような…
「見えないパラメーターがあって、よく使うモンスターほど連携がうまくなるとかか?」
なんにせよ、俺は強くなった。いや、強くなりすぎた。レベルもプレイヤースキルも上がって、今なら七天魔将7人がかりでも勝ててしまいそうだ。
「今ので、久しぶりにレベル上がったな。最近じゃあ全然上がらなくなってたからなぁ」
そう言いつつステータスを確認する俺。
ステータス
アキト(12)
LV93
体力192
魔力187
攻力187
防力187
モンスター932/1500
アイテム/装備品412/1000
ガチャポイント182653
ジェル27389114
イベント
ショップ
地図
改めて見て思う。これはやばい。
「ますます隠すのが大変になったな」
レベルは上げといた方がいいと思った事もあった。というより今の今まで、無心にレべ上げをしていたんだが、実際にレベルを見てみると気づいてしまった。この強さがばれたら、絶対に目立ってしまうということに。
「いや、気づいてはいた。これがばれたらどうなるかぐらいは気づいてはいたさ……これは実感したということなんだろうな」
実際に頭で考えてこうなると予測するのと、実感するのでは大きく違う。
強くなってしまったが故に、ばれてしまったときの怖さがよく分かってしまう。俺は、絶対にこの強さを知られるわけにはいかないと改めて思った。
ーーーーーーーーーー
「久しぶりの森の外だな」
「キュッキュー」
念のため、メタスラを護衛に森の外へ出てきて周囲の確認をする。どうやらモンスターはいないようだ。
「さて、王都へ行きますか」
「キュ?キュー!!」
「どうした?メタスラ…んん?あれは…」
何やらメタスラが遠くの方を見ながら俺に訴えてきた。見てみると何やら人同士がモンスターを使って争っているようにみえる。
「くっ!まさか魔力を消費してるときに狙われるとは!」
「へっへっへ~おとなしく俺達について来ればいい思いさせてやるぜぇ」
「こいつはぁ、いい女でさぁ、お頭!」
茂みに隠れながら、近づくとなにやら女性が襲われているようだった。
「ああ、これが盗賊イベントか…」
どうやらゲームでよくある展開に俺は巻き込まれたらしい。




