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27 キラースマイルの功績

「章吾から聞いたけれど、あの人コイツの会社の宣伝やってるって」

 でもってさ、あんた荒木さんとどんな関係あんの。

 するんと涼子さんと主任の間に入り込んだ先輩は、そのまま居座って不穏なことを言い出した。

 先輩。

 荒木氏のことやっぱり知ってるんじゃん。



 あの日、僕が荒木氏のことを話したときに驚いた顔をして、しかもそれが主任との抱擁シーンを僕が目撃してのことだとわかったら「嘘だろ」と即座に返してきたんだ。絶対何か知ってる、そう思ったけれどあのあとはそこに居る涼子さんの出現でそれどころじゃなくなって。

 それどころかってのはそれだけじゃ済まなくって、涼子さんは先輩の母親だとか、そんなこといきなり聞かされても信じられないじゃないか、そう思っていたところに先輩と僕がどうのって、うーんあんまり想像したくないことは聞かされるわ、そうじゃないならその証拠に彼女を連れて来いだわ、なんだか圧倒されることばっかりでちゃんと頭がついてこないうちに主任がOKしてくれちゃって。

 ものすごく驚いたけれど、とんでもなく嬉しかった。

 じゃああとで打ち合わせしないとね、と言って定時であがって、駅前の『Ritirata』っていうイタリアン・パブでピザを食べながらあれこれ話していたときも、舞い上がっちゃってほとんど覚えていなくって、だからさっきいきなり腕を組まれてニコッと笑って見上げられて、それどころじゃなくってピッタリくっ付かれたときにはもう、ドキドキはMAXになっていたからもうもう、自分がなにやってるんだかわかんなくってさ。

 先輩にウーロン茶出してもらって、これってこないだとおんなじじゃないですよね、と聞いてるときが一番楽だったって言うか。

 だって主任、今日はカッコ可愛いんですよ。

 ものすごく。

 流行のグレイを基調にしたチェックの上下は、夏に僕が雑誌の宣伝ページを組む時にレイアウトしてOK貰ったのと同じものだった。すっと斜に構えて立ち上がったモデルさんにディレクターズバックを持ってもらったのも僕が決めたことで、それとは形が違うけれど主任が僕の考えたとおりの格好をしているのに驚いちゃって。ヒールの高い靴を履いたら僕とあんまり変わらなくなっちゃう身長があるからこれだけ綺麗に着こなせるんだよな、そう思ったらすごく嬉しくて。

 主任が本当の彼女だったらどんなにいいか。

 こんな素敵な人と並んで歩けたらどんなにいいか。

 そう思ってさっきから見蕩れてばっかりなんだけれど、いきなりもいきなり、先輩は僕が今は考えないようにしようと思っていたことを突然すらっと訊くしっ。

 いったいどんな返事が返ってくるのか、僕は気が気じゃなかった。

 社内では中山取締役と付き合っているという噂だけれどそれは本当じゃなくて、実は荒木氏が本命でした、なんてのが語られたらどうしよう。いや、それよりもあの時は荒木氏に突然襲われて危なかったところだったとか、あーでもそんなことあるわけないか、いくらなんでもこっちはクライアントなんだし。

 じゃあ、と考えてあの時そういえば『俺は、お前の泣き顔を見るのはいやなんだよ』って言ってたのは荒木氏だったと思い出した。

 泣いてた?主任が?

 なんでどうしてと思い巡らして思いつくのは、取締役との仲を荒木氏は知っててそれでなにかあって主任を慰めてたとかって言うなんだかドラマによくあるようなシチュエーションで、そんな馬鹿なとすぐに自分の考えを否定した。

 こんな可愛い人をフルなんて考えられないじゃないか。

 フッタのかどうかはわかんないけど。

 そんなことをむーっと考えている先で、ニコニコ笑っている先輩に向かって「ぷっ」っと噴出すと、

「関係って」

 ククク、と笑いたいのを堪えている、そんな感じの主任はしばらくそうしていたけれど、チラリと僕の方を見たら耐え切れなくなったように「あははは」と笑い出した。

「やだっなにそれ・・・私と祐志?」

 クスクス止まらない合間に涼子さんは「何よ他にもいるの?」と言ってきて、また先輩に「黙ってなさいって」と怒られてて、なんだかこうしてみてると親子って言うよりも姉弟みたいな感じに見える。その方が自然だっての。

 って、それよかその『関係』のほうだって。

 ひとしきり笑いが収まるのを待って、先輩がまた「教えてって、なぁ」ととっておきのキラースマイルで言い寄った。すると主任は、それに負けないくらいの極上の笑みを浮かべてあっさり応えた。



「教えるも何も、祐志は私の双子の弟よ」

「えっ」

「・・・えぇっ?」

「あらまぁ」

 予想外の答えに先輩も固まっちゃったけれど、僕はそれ以上にカチコチに固まっていた。

 弟って。

 マジ?


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