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2 見初められる

 僕の名前は日浦章吾、7月が来て25歳になった。


 実家は新潟にあって、大学入学のために上京してからずっと高円寺に住んでいる。

 何で高円寺かって言うと、高校生の時にはまって読んでた作家の大学時代の自叙伝の舞台が高円寺で、そこで同じ大学生の仲間と織り成すあれやこれや、本当にくだらないようなそれでいて充実した毎日に憧れたからだった。

 でも実際はそんなことはなくて。

 ちょっと名の知れた私立大学の、自分の成績と見比べて一番無難に選んだ経済学では、どっちかって言うと目立たない居ても居なくても誰も気にしないタイプで、成績だって中の中くらい。何とか卒業して今の会社に入ったのはいくつか受けた中で一番最初に採用通知をくれた所だって周りには言っていたけれど、本当はここしかくれなかったからなんだ。

 けれど、考えてみればアパレル業界の中でも難しいといわれてるカジュアルメンズファッションを中心に扱っていて、しかも結構業績が伸びてきているこの会社がなんで僕なんかを、と思ったのは会社に入ってからだった。



 『ラウドネス』 日本語で「粗野」と言う社名は、創業以来の中山紳士衣料というのを現在の取締役、社長の息子である中山和孝氏が取締役に就任した時に強引に変えて、名前ばかりじゃなく会社の中身自体も変えて、それからこの会社は一気に伸びてきたと言う。中山取締役は、スーツが主力でカジュアル路線はジャケットがやっとと言うラインナップを、麻素材や軽いナイロン素材を使った着心地のいい、しかも色目も時に原色を効かせ色に使って目を惹くアースカラーが中心なものに変え、トータルで着まわせるようインナーからボトムズ、果ては下着まで売り出して「ラウドネスファッション」と呼ばれるものを作り出した。それが雑誌やインターネットに取り上げられるとまず若い女の子が飛びつき、自分の彼氏を着せ替え人形のようにして着飾る、という現象が起こった。一昔前の男のイメージとはガラリと変わった、スリムな外見と日本人離れした顔立ちが受ける最近の『男子』 に甘すぎないデザインとちょっとやんちゃなアソビココロがいいというのだ。

 それまでもカジュアル路線のブランドはいくらでもあったが、中山取締役が打ち出した宣伝効果と大型スーパーでの販売を見込んだ抑えた価格、そして老舗が出しているという安心感も、幅広い客層に受けた要因のひとつだろう。

 とにかく、大ブレイクと言っていい時期に僕は入社し、一時期はショップで販売員をしていたこともあった。そのときにわかったのは、僕みたいなどこにでもいそうだけれど一見日本人離れした顔は、女の子受けすると言うことだった。

 まさに 『ラウドネス』 を着ていそうな顔、と言うんだって。

 それに今まで気がつかなかったんだけれど。

 ・・・僕ってカワイイ系の顔らしい。

 駅ビルの中に入ってるショップで新商品を着て立っていると、『カワイイ〜』と気安く触っていく女の子の多いこと多いこと。初めは洋服のことだと思っていたんだけれど、先輩から『お前は顔で受けてるよな』 といやみ半分で言われて本当に初めて気がついた。

 僕自身はあんまり好きな顔じゃないんだけどな。

 と思っても押し出しの弱い性格で 「はぁそうですか」 しか言えずにいて。

 そんなことを1年半くらい続けた頃だろうか、社内で行われたステップアップ研修会に参加して、その販売員として立っていた時気がついた些細なこと、カタログの大きさとか説明文のバランスとか、本当にそんなことなんだけれど、こうしたほうがお客さんに受けるんじゃないかな、といったことをレポートにしてみたらそれを読んだ中山取締役に 『見初められちゃって』。

僕は入社3年目でこの春企画室に抜擢された。


 そこで出会ったのが、僕の上司、企画室主任梶原理沙子さん、だった。


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