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13 梶原理沙子のユウウツ<3>

「祐志、昨日はメール見なかったの?」

 月曜、朝から打ち合わせでやってきた祐志に私はそう声を掛けた。



「・・・携帯、見てない」

 日浦の事があってすっかり忘れていたけれど、2月に発表になる春物のコレクションのカタログのポスターや宣伝媒体向けのコピーやらフォントやら、そういったことを『KISARAGI DESIGN』と細々と話し合うという予定をこの日入れていたんだった。

 だったらあんなに心配することなかったのに、と当の和孝に言ってやろうとして向こうから歩いてきた和孝に手を上げたら、

「どこに行ってたんだよっ」

 目の前についたとたんに祐志に向かって小声で、でもかなりキツイ調子で言ってきた。

「土曜は知り合いのところで呑んでた、それからは成城に居たよ」

 これは私に向かって、祐志がぼそりと言った。

「成城?」

 和孝はひどく意外そうな顔をして聞き返した。

 実家に帰ってただなんて、それは盲点と言うかなんというか、私は思いつきもしなかった。大学を出て、しばらくイギリスに行ってて帰ってきたらすぐに母親の会社に入って、それからそのビルの最上階に寝泊りするようになってから、実家に帰るのは月に数えるほどになったというのに。特別な何かがあったのかと思っていたら、和孝が必死になってなにやら訳のわからないことを話し出した。

「あ・・・あれは親父の独断で、えっと、俺は全然その気じゃなくて」

「別に俺は・・・」

「だから、なにもお前が心配することは」

「何にも心配なんかしてないよ、なんだよそれ」

「だってっ」

 きりっと見返した祐志が先にたって歩いて行くと、和孝は普段は絶対見せないような慌てた様子で後を追った。それについて行くと、祐志は私の腕を取って傍に引き寄せた。

 なんだか和孝に対して、バリアでも張っているようなっ恰好だ。

「祐志、知り合いって誰のこと?」

 肩が触れるくらい傍に寄ったのを利用して、耳元で聞いてみた。

 一緒に飲んでたというのが私の知ってる人なら様子を訊いてみよう、そう思って尋ねたのに「ちょっとね」としか言わなくて、目線すら合わせなかった。企画室のある4階まではエレベーターを使う、そのためにエレベーターホールで立っている間も、祐志は和孝の方は一度も見ないで真っ直ぐ前を向いている。

 気まずい空気が我慢できなくて、私は明らかに不自然な調子で言った。

「・・・お父さん、元気だった?」

「まぁまぁだな」

 私が掛ける声を、和孝が顔には出さないけれど必死で聞いているのがわかる。まったく、なにがあったのか知らないけどこの様子はただ事じゃないわね。なのに昨日は「帰ってこない」と言うだけでさほど慌てていなかった・・・いったいなんだろう?

 不思議に思って和孝の顔を見上げると、ばつの悪そうな顔をして目を逸らした。

 祐志はと言うと、微動だにしないで立っている。

 ますます持って怪しいじゃない。



 チン、と軽い音がしてエレベーターのドアが開いた。

 正面にある鏡に3人の姿が映って、なんだか妙な雰囲気のまま狭い箱の中に乗り込んだ私は、誰も手を上げないのでしかたなく4階のボタンを押した。


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