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1 見惚れる

 本当の恋愛って、したことある?

 本当の恋人って、どこにいると思う?


 居るとは思っていなかったところにいたら、きっと驚くよね。でもそこに居たらきっとわかると思うんだ。一目合ったその日から、とかって言うじゃない、それってあなたは信じてる?

 僕は、信じてなかった。

 そんなこと信じられるほどお気楽じゃないよって、そう思ってた。

 けどさ。

 本当にわかるんだ、そこに居ると。

 いくらそんなつもりはなくても、どうしても惹かれていくんだ。

 駄目だと思っても、無理だと確信しても、どんなに邪魔が入っても、そんなのへっちゃらで突き進むんだ、って思うのって。

 やっぱ本気ってことだよね。

 あーーー、マジ?

 なんて自分に訊くのって、どうよ。





 最近、可愛くなったって思わない?

 隣の席の美奈ちゃんがそう言ってきて、え、っと顔を向けたら「えへ」と舌を出しながらツンツンと後ろを指差した。

 もうちょっとで昼休みになるって言う、なんとなくソワソワしだす時間。でも仕事は山ほどあって、一区切りがつくのはまだまだ先だなぁなんて思っていたそんなとき、指につられてそぅっと肩越しに振り返ると、そこにいるのは梶原主任だった。

 年上相手にそれはどうかと思うよと、その時は笑って返したんだけれど、そう言われてみればなんだかやけに可愛いじゃないですか。

 落ちてくる髪の毛をかき上げる仕草になんだか訳もわからずどきっとして、僕はあわてて姿勢を戻した。



 なんてことがあった所為か、ちょっとなぁ、と思ってしまう。

 今はパソコンとにらめっこして、この冬の新作ウェアの発表時期とその宣伝媒体の計画を立てている主任の横顔が、とたんにくっきりと浮かび上がって、僕は一人でドギマギとしてしまって、確認してもらうはずの書類を胸に抱いたままその場に立ち竦んだ。

「日浦?」

「は・・・はいっ」

「あんた、何やってんの」

 うわぁ、ちょっと眉を寄せてこっちを見上げてくる顔が、これまた色っぽいんですけど。

「ちょっと、日浦。何やってるんだって聞いてるんだけど」

 すっと立ち上がって、僕の抱いてる書類をとんとんとつついた。あああ、そうでした、これってば主任に頼まれてた急ぎの書類なんでした。

 「もう、しっかりしてよ」

 ちょっぴりムカついてますってな顔がとたんにニコリと笑って、ポンと頭をなでられた。

 あの、えーと、うわぁ僕ってば。

 顔が真っ赤になって、ドキドキが止まらなくて、立ってられなくなってしゃがみこんだ。

「ど・・・どうしちゃったの」

 覗き込まないで下さい! 主任の顔がすぐそこにあるって思っただけで、僕ヤバくなりますからっ、なんて言えるわけないじゃん。

 ただ頭を振り続ける僕の上で、いきなりノーテンキな声が響いた。

「いやー今日もキレーだねぇ、梶原クン」

 バタン、と大きな音を立てた扉にかぶって、わはは、と笑い声が響く。しゃがんだ僕にドンッと何かがぶつかって、それが中山取締役の足だってわかった。

「お前、何やってんの」

 ・・・・・主任に見惚れてました。

 なんて、この人に言えるわけないじゃないか。

 中山取締役はこの会社の社長の息子で、噂では主任の恋人だって言うんだもん。

「ちょっと、おなかの具合が・・・」

 真っ赤な顔をごまかすためにそういうと

「そんじゃ洩れないうちに行って来いって」

 主任の前だって言うのにそんなデリカシーのない事を、ガハハと笑って言う。こんのぉ、社内セクハラで訴えるぞ、と憤って、主任何だってこんな人の恋人やってるんですか! と言ってやりたくて顔を上げると、嬉しそうな顔をした主任がことさらにっこりと取締役に笑いかけているのが目に入った。

 可愛くなったって、綺麗になったって、まさかこの人の所為じゃないですよね? 違いますよね??

 主任ーーーと声に出して聞けないまま、僕は中山取締役にさっさと行ってこいよ、と企画室から追い出された。


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