永久幸福論の欠点
神様は恋をしました。
それは、決して美しいとはいえない少女でした。決して綺麗ではない服をきて、決して住みやすいとは言えない家に住んでいました。彼女は不幸でした。
けれど、とても優しい少女でした。
少女はいつも周りを気遣い、自分の犠牲を払ってでも他人を助けようとしました。
彼女はある時、神様にお願いをしました。
「この世界の、全ての人を幸福にして。決して、不幸な人など、出ないように」
彼女の言葉に、神様は強く頷きました。
そして神様は、決して不幸な人が出ないように、永久に、幸福になるように、世界を作り変え始めました。汚いものなど全く無い、とても、とても、綺麗な世界に。人々の記憶も作り変えました。不幸で忘れたい記憶を、全て無くし、綺麗で美しい記憶にすり替えてしまいました。
世界は、とても綺麗で美しくなりました。
神様は、少女の希望を叶えることが出来た、と満足しました。
けれど、あるとき、一人の少年が、雲に向かって叫ぶのです。
「僕は不幸だ、こんな世界、大嫌いだ!」
「何故だい?」
神様は思わず雲の端から顔を出して言いました。
「この世界は汚い」
少年は喚きました。
神様にとっては、理解しがたい言葉でした。と、同時に腹立たしい言葉でもありました。神様は声を怒りで少し震わせながら、少年に尋ねます。
「どこが汚いんだ? 君の容姿も、君の着ている服も、君に関わる人々の心も、何もかも、綺麗じゃないか」
「どこが綺麗なんだ。全てが汚い。綺麗なものなんか、一つもない」
少年の言葉で、神様はようやく気づいたのです。
綺麗な中に囲まれ、汚いものなど全くない世界に生まれた少年は、この世界が全てなんだと。汚いものを知らずに育った彼は、綺麗なものでさえも、汚いものだと判断してしまったのだと。
神様がこの世界を綺麗だと思えるのは、目を背けたくなるような容姿の人を、ドロドロに汚れた服を、そして、人々の心の汚さを、全部、知っていたからです。
永久に保障された幸福は、同時に永久に維持される不幸でもありました。
神様は頭を抱え、考え、悩みました。
そして、不幸と幸福を平等に与え、汚さと綺麗さを平等に兼ね備えた世界を創り出しました。勿論、不幸を乗り越えられず自滅する者も居ましたが。
不幸に飲み込まれてしまった少女はナイフを自分の首に突きたて、神様にこう言いました。
「この世界が、こんな不幸に満ちた世界ではなく、幸福に満ち足りた世界になりますように」
神様は哀しそうに答えました。
「それはできません」
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