一瞬で決着がつけました
「にしてもよ。これ、まっすぐ行ったらまた奴らと会うよな?」
「誰も真正面から帰ろうなどとは言ってはいないだろう? 遠回りしていくに決まっている」
ランの言葉にそれもそうかと納得する楽兎。
でも、今では心強い仲間、アルセイムもいるために、万が一であっても逃げ切れるので心配する必要などない。
「遠回りすんのかぁ」
「何か不満でもあるのか?」
あると言えばある。楽兎は遠回りとか、急がば回れということわざがそこまで好きではない。
近道、急ぐなら距離で行け、人の家に入っても気づかれなければ良し。という言葉を持っている楽兎には遠回りはめんどくさいだけだ。
「距離で行かないか?」
「断る」
楽兎の提案にランが全力で否定する。
否定されては仕方が無い。楽兎はこの世界を知らないのだから前を歩くランの後をついて行くしかないのだ。
「む。隠れろ」
突如足を止めて隠れるように言うラン。
楽兎とアルセイムは身を木陰にひそめると、前から話し声が聞こえてきた。
「連絡は着いたか?」
「いや。前に言った奴等から連絡が途絶えたままだ。もっと向こう側じゃないか?」
「逃げられたとしたらギン様に何されるかわかんねぇぞ!? 急げ急げ!」
あわただしい声が聞こえ、目の前をガシャガシャと鎧の音を立てて走り去って行く紫色の鎧を着た兵士達。
その顔には冷や汗が垂れており、息切れもしている。
どうやらかなり焦っているようだが残念ながら兵士たちが向かう方向に楽兎達はいない。焦げた平原が広がるだけだ。
音が遠くになり、消えていくと、ランはこっちと手で合図して足音をあまり立てないようにゆっくりと走りだした。
楽兎とアルセイムも、同じようにして走りだし、声もなるべく潜めていた。
そしてまたランが足を止めて楽兎達を木陰に隠す。
今度は辺りをしばらく見回している兵士が一人いた。
「チッ。ここにももう兵が……」
「どうする?」
楽兎がランに訊くと、ランは口元に人差し指をやって静かにさせた後、ベルトにつけられたポーチの中から何やら細い鋭利な物を出した。
「おい。それどうするつもりなんだ?」
「もちろん、これで息の根を止める。ここからなら首を十分狙える」
それを聞いて驚愕する楽兎。ランはそんな楽兎の様子も見ずに、それを投擲するような構えをする。
だが、命を奪うと言う事がやっぱり納得いかない楽兎がそのランの腕を握った。
「何をする。投げれないではないか」
睨みつけられるような感覚を覚えながら楽兎が首を横に振る。
「別に、殺さなくても抜けられる方法が絶対にあるって。もう少し待ってみろよ」
「甘いな。今この場であいつ一人だけを相手にするのと、少し待っていて相手が増えるのとどちらがいいと思う?」
「それは……そうだが……」
「わかったならば放せ」
強く言い放つラン。楽兎はその様子につい握っていた手を離してしまう。
するとランが再び細い鋭利な物を構えて……腕を降ろした。
当然どうした事かと思う楽兎。
実は楽兎がランを止めた間に、近くにいた兵士が移動していたのだ。つまり目の前にいない。
兵士は遠くの方へと行っていて、ここから外側へ行っても問題ない状況だった。
「……楽兎に命を救われたな……」
「は?」
「何でもない。行くぞ」
ランが茂みから出て静かに走る。楽兎とアルセイムも足音を鳴らさずに走る。
しばらくすると、ランは一度脚を止めて、目を閉じる。魔力の流れを読むのだ。その事によりこの先に敵がいるかどうかを見分ける。
ランはこの先魔力の流れが無い事を確認すると、身を低くしたまま先に進んだ。
そして、しばらく行くとランは辺りを見渡しながら立ちあがり、そして走り始めた。今度は普通に音が鳴っている。音が鳴っても聞こえない所まで離れた所に来たのだ。
楽兎とアルセイムもそれに続いて姿勢を元に戻して走り出す。
しばらく無言で走っていると、ランは走る速度を下げて行き、しまいには歩き始めた。
「どうしたんだ?」
「いや。あの黒騎士がこうも簡単に私達を逃がすのかと思ってな……」
「どういうことだ? あいつが追ってきてんのか?」
楽兎は後ろを振り向く。誰かがいるような気配が無いから居るはずが無いと予想付ける。
「あいつ、とは? 我が焼き払った人間の仲間か?」
「むしろその兵士達の親玉的な奴だな」
「【黒槍】のギン……。確かあいつは相当な腕前だったはずだ。簡単に逃がしてくれるはずが無い……」
キョロキョロと、ランは辺りを見回している。だが、何も見つからないと、再び歩き始めた。
「私が奴を過大評価し過ぎたのか……」
「まぁそんなもんじゃね?」
実際に会うと印象とまったく違っていたなんて楽兎の世界では多々ある事だ。
それにギンは楽兎に片目を潰されているのだ。そう簡単に追ってこられる状況では無い。
片目を失うということは、距離感がつかめなくなる事がある。その状態で戦っても厳しいだけだろう。
だから楽兎は黒騎士が来るとは全く考えていなかった。そう……。
「見つけたぞ……」
――奴の声が聞こえるまでは。
「「!?」」
バッと勢いよく振り向き、ランが腰を落として氷で剣を作る。
楽兎は驚きながらも手で握りこぶしを作って構える。
その手には、楽兎の言う博士が作った指が出ている手袋がはめられている。手の甲の部分には博士のマークがしるされている。これは博士が作った、楽兎専用の武器である。
「貴様ら……特にそこの男。良くもさっきはやってくれたな……」
「ぐ、偶然だ偶然。そう怒るなよ」
なんとかたしなめようとするも、ギンは完全に頭に来ているらしく、楽兎の話を聞こうともしない。
これはもう戦闘しかないと考える楽兎。ランも同じく戦闘準備をし、その手に持っている剣をいつでも振り抜けるように構える。
「男ォ! お前だけでもここで殺してやるわ!!」
黒い靄のような物がギンからあふれ出した。それはギンの黒槍と呼ばれる所以であり、ギンの最強魔法。
「すべての色は黒から始まる!! 〈ブラック・ホーンデット〉!!」
黒い靄がすべてギンの持つ槍へと集まりだすと、その槍が肥大化する。
ギンはその肥大化した槍を力強く突き出すので楽兎は真正面から砕いてやろうと、拳を引き絞り、放……。
「!? マズイ、ラクト避けろ! その魔法は直接相手を死に葬る魔法だ!」
は? と思ったのもつかの間。完全に拳を繰り出す直前。ここまで来たら避ける事も、拳を止める事も出来ない。
だからこそ楽兎は、むしろ拳に入れる力を増やしたのだ。
「ラクト!?」
その行動に目を見張るラン。ギンは、勝負に勝ったと言わんばかりの笑みを浮かべた。
だからこそ、この二人は次に起こる事が信じられなかった。
「借りるぜ博士!!」
楽兎はギンの黒槍へとぶつかる寸前にそう叫び、更に入れている力を増強させた。
そして……ギンの黒槍と楽兎の拳がぶつかり合った。
――そう思ったのもつかの間。楽兎の拳が、黒槍をいとも簡単に砕いた。
「な……ッ!?」
「ば、馬鹿な!?」
ランとギンがそれぞれ驚き動揺している時に、楽兎は更に脚に力を込めて破壊した黒槍の先に居たギンへと拳をめり込ませた。
「がふっ」
ズガァンッ! と、激しい音を立てて吹き飛ぶギン。途中途中にある木々はすべて破壊していった。
飛ぶ速度が落ち、木にぶつかってようやく止まったと思ったら飛んだギンはすでに白目をむいており、生きてはいるが、完全に気絶していた。
「ぃよっし! さすが俺!!」
「ふむ。我が友である楽兎はいろいろと不思議な所があるのだな」
ガッツポーズをして喜ぶ楽兎と、今の行動を見ていたアルセイムが腕を組んで考え込んでいた。
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