世界の頂点
結局、戦況は敵の有利であった。
こちらは戦えるのがランだけであって、完全に楽兎の事は無視されている。
最初こそは狙われもしたが、今はそうでもない。途中から楽兎の事が戦闘員ではないとわかると、楽兎を狙っていた奴らもランの方へ狙いに行った。こっちを狙っているのはたったの二人程度だ。
おかげで楽兎はいつでも簡単に逃げれるが……。
(だからと言って、ランを置いて逃げてしまっていいのか? 俺!)
心の中で葛藤する楽兎。だってそうだろう。
女であるランに戦わせておいて、男である楽兎がこのまま逃げてしまってもいいのかと言うことだ。
それはどう考えてもおかしい。少なくとも、楽兎の中の常識ではない。完全な非常識として認識されている。
女に任せておいて男はさっさと逃げる。それは万死に値する。
だけど楽兎がこの場に居てもただの足手まといになるとわかっている。
「邪魔だ貴様ら! 精霊よ……〈氷風〉!」
氷の刃が兵士を襲う。
兵士はそれを火の魔法を使って防いでいる。その後に後衛にいた兵士が火の魔法で攻めてくる。
ランはそれを見越していたのか、次の魔法を放つ。
「凍てつかせ……〈アイスファイア〉!」
水色の炎が飛んできた炎に直撃し、飛んできた炎を凍らせる。
これが氷炎……?
「ほぅ。これが貴様の二つ名の由来か」
「貴様などに見せるのはしゃくだがな」
そう言って水色の炎がランの元に帰ってくる。
飛んできた炎を凍らせるだけではこの魔法は消えないようだ。
ランが余裕の笑みを漏らすが、額には冷や汗が流れている。楽兎の場所からだとよく見えるのだ、それが。
(一体何をすりゃぁいいんだ……? くっそぉ。俺の手に使い慣れたアレがあれば……)
無い物ねだりをしても仕方が無い。とにかく、この戦況を打開できるような策があればいいのだが……。
そんな物、簡単に思いついたら苦労しない。楽兎は考えることがとてつもなく苦手だ。
よって、策なんか何も思いつかない。
考える方ではなく、動く方が楽兎にはあっているのだ。
そう思って何気なくポケットに手を突っ込み…………。
「………………いいもんめっけ」
楽兎は嬉嬉としてそれを持つ。合計四つだ。
攻撃できるのは四回のみ。それ以上は許されない。
さて、楽兎が一体武器に何を選んだのか。それはたまたま持っていた丸い物。
「あの、仮面の目のところにブン投げりゃぁ目は使えなくなるだろ」
そう思って楽兎はさっそうと木の上に登る。
狙いは…………あの隊長みたいな黒騎士!
「失明してもしらねぇからな!」
そう思って、一つ、投げた。
――剛速球で。
ゴウッ!!!!
「!?」
どこから来たのかわからない小さく、丸い物にギンは慌てて対応しようと思ったが、間に合わず。
簡単に右目にジャストミート! ――グシャっと音を鳴らしておそらくだが右目を潰しただろう。
「グオォォォゥゥゥ!! 目が! 俺の右目がぁぁ!!」
「隊長!?」
「大丈夫ですか!?」
ギンに近づく兵士達。そこをランが氷の炎で兵士達を凍り付けにしていく。
そんなランに不意打ちで攻撃する兵士に、楽兎は黒騎士に投げた物と同じように剛速球で投げた。
「ぐわぁぁぁ!!」
目を押さえて倒れ込む兵士。
今度はグチャっと音が鳴った。あまりいいものではない。
「おいラン! 今の内に逃げるぞ!」
「あ、ああ」
そう言ってランの手を持って全速力で兵士達から離れて行く。
「しまった! 貴様ら! 俺の事はかまわず行け! 絶対に逃がすな! 特に男の方は生かして俺の前に連れてこい!! 俺が直々に殺す!!」
「「「はっ!!」」」
その後から兵士達がそれぞれ魔法を使って追ってくる。
「うわぁ! 怖ぇし、しつけぇな、あいつら!」
魔法をランにエスコートされながら避ける楽兎。するとランは楽兎に向けてこんな疑問を抱く。
「先ほどの攻撃……ラクトなのか?」
「ん? そうだけど? って言うか俺以外に誰が攻撃するんだよ」
「いや……ラクトが武器のような物を持っているとは……」
「いや、武器じゃねぇよ。これだよ」
そう言って手に忍ばせておいた物を見せる。
それは小さくて丸い、飴玉だ。今はもう二つになってしまった。
「なんだ? それは?」
「簡単にいやぁ菓子だよ菓子。知っているか?」
「一応は……。ちょっとお腹が減った時に食べるが……」
こっちでも菓子で通じるようだ。よかったよかった。
「一個食ってみるか?」
「そんなことをしている場合か!? 今は追われているのだぞ!?」
そういえばそうだった。
後ろから魔法やら何やらがたくさん飛んでくる。
うわぁ。めんどくせぇ。
とにかく、どっちに行ったらいいのかわからないのでランに道を聞くが、完全に迷ったらしい。
どこも森だしな……。前も後ろに右も左も森な訳ですよ。
そう思って何度も周りを見渡していると、不意に、何か大きな物が……。
「喰らえぇ!」
「おわっ! あぶねぇだろうが!」
振り向いて怒鳴った後、前を向いたら、大きな物に魔法が当たった直後で……。
――大きな物が動いた。
俺はなぜだろう。本能的に動いて、その大きな物の影に隠れるようにした。俺の自慢の高跳びで、一気に跳躍して完全に起きる前の大きな物の背中に乗った。視界の端で『何か』が太陽に反射して光った気がする。
「ま、待て! ラクト! ここはどう考えても――」
「ダレだ……ワレをオこすのハアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッッ!!!!」
ガアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァッッッッッ!!!!!
大きな咆哮を轟かせる大きな物。
いやぁ、まさかね。男のロマンともいえる一つ……。
――ドラゴンに会っちまうとはね。しかも背中に乗ってる。
「キサマラか……ニンゲェェェェンッッッッ!!!!」
そうやって兵士の方に口を向けて…………放った――ゴウゥゥッゥッッ!!
「わ、わぁぁ!! 助け――」
「い、嫌だぁ! 死にた――」
「俺たちじゃ……うわ――」
ドラゴンの放った火炎に飲まれて灰となってしまった兵士達。しかも鎧もすべて灰だ。
いやぁ。素晴らしいほどのあっけなく終わったなぁ。
「ツギは……キサマラだ、ワレのセにノっているニンゲンよ!」
豪快に動いて楽兎とランを振り落とそうとするドラゴン。その速さは車などとうに超え、コンマ一秒で二百キロを超える。
だけど……。
「うお! すげぇ! ドラゴンはえぇぇ!」
完全に楽兎ははしゃいでいた。
「こ、こら! ラクト! はしゃぐのはよくない! 今すぐにこのドラゴンの機嫌をとらないと私達までが灰になってしまうのだぞ!?」
「そんなもん、なるつもりはないさラン! なぁドラゴンさんよ!」
意気揚々とドラゴンに話しかける楽兎。その様子にランは頭を抱えている。
「なんだニンゲン!」
「俺、お前気に入ったわ。話ができるんなら丁度いい! 俺と友達になんねぇか!?」
「はぁ!? ら、ラクト!? 正気か!? ドラゴンと言えば、この世界で最も凶暴で、あらゆる動物の頂点に立つんだぞ!?」
ランが驚いたまま、楽兎に怒鳴る。
だが楽兎は聞かずにそのままドラゴンに友達になろうぜ宣言をする。
それを聞いたドラゴンは……。
「フハハハハハハハハハハハッ!! ニンゲン! ワレとトモになろうだと? ナゼあらゆるセイメイのチョウテンにタつワレがニンゲンなどとイうカトウシュゾクに!」
「下等種族じぇねぇっつうの。確かこういうときってぶちのめせばいいんだよな? そうすりゃぁ俺の言うこと少しは聞いてくれるか?」
「ら、ラクト!?」
ランが目を見開いてバカでも見るような目をする。
「ほぅ。ワレとタタカうか。ならばそのスガタ、ワレのマエにアラワせ」
「お安い御用だ!」
「な、ラクト!!」
驚いて楽兎を心配するランに、楽兎は肩を叩いて――
「と言うことだ。頑張れラン!」
「私にまかっせっきりか!!」
「ぐふぉ!!」
思いっきり頬をなぐられたはドラゴンの背中から落ちる。
「いてて……。もう少し加減しろよ」
「お前が変なことを言うからだ!!」
そう言ってランもドラゴンの背中から降りる。
それを見た楽兎はその手に武器にはめる。
そう、武器だ。
さっきは武器が無かった。楽兎が親しんだ武器が。だが今はある。太陽に反射して光っていた『何か』は、楽兎の武器だったのだ。
(なんでドラゴンの背中にあったかはしらねぇけど……ありがてぇ)
とてもなじむそれは、確かの楽兎の物であり、これ以上に使いやすい物は無い。
「さぁ。勝負といこうや。俺が勝ったらお前は俺の友達だからな!」
「いや、もし勝ったとしてもドラゴンがそんな正直に……」
「いいだろう! だがそのまえに、キサマはすでにこのヨにイないとオモえ!!!!!!」
ドラゴンの咆哮。
耳が痛くなるけど、楽兎は心地がいいとさえ思ってしまった。
誤字、脱字、修正点があれば指摘を。
感想や質問も待ってます。