銀狼と白銀
「お前ら、しつこいぞ!?」
「グルルルル」
「ガウッガウッ」
現在俺こと武田楽兎はなんとか大草原を走り抜け、近くの木によじ登った。
その間、狼はずっと追ってきていて、まったく立ち去る様子がない。
楽兎がこの世界に来た=狼に見つかった時間が同じ。
しかも楽兎がこの世界に来てからの時間=狼に追われている時間とはどうしたものか。
楽兎はなんとか妥協策を考えるが何も浮かんでこない。
元々楽兎は考える方ではなく、直感的にいくタイプであり、むしろ考える方はまったくと言っていいほどダメダメだ。
一応高校生なのだが中学生に知識的に負けてしまうのが楽兎だ。
近所の中学生にバカなどと呼ばれた事はあったが、スポーツの方ではむしろ協力してくれと懇願されるばかり。
別にスポーツが天才的にうまいとかではない。
ただ、人には思えない身体能力があり、彼の事をバカだけどスポーツでは頼もしい人員だと言う人も大勢いた。
だから今回も狼相手に大草原から逃げてこれたのだが……。
……っていうかコレ、狼増えてないか?
「ガウッガウッ」
「アオーン」
「ああああ。どうしたら……」
何か無いかと荷物を漁る……事は出来ない。
ポケットを探る。
楽兎は荷物を持っていない。
この身一つでこの世界に叩きだされたのだ。
「何が入ってるかなっと……」
ハンカチ。
「いや、何に使えと?」
テッシュ。
「まぁ来るとは思ってたけどさぁ」
ゲーム機(PAP)。
「定番だよな」
飴玉(いちご味)4個。
携帯電話。
鍵(愛用バイク)
「どれも使えねええええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
元から期待はしていなかったが……。
そうして狼が諦めて去るまで待たなければいけないとわかった瞬間……。
「そこで何をしているのだ?」
声が聞こえた。
救世主だ! と思って振り返ってみると、そこにいたのは……、
「何をしているのだ? と聞いているのだが……。聞こえているのか?」
楽兎と同じぐらいの年齢の女の子が、いつの間に楽兎の後ろまで来たのか、楽兎の後ろに綺麗に座っている。
雪をイメージするような綺麗な白銀の髪を一つに束ねてポニーテールにしている。
服はポケットが多く、胸は正直残念だが、穿いているズボンはショートパンツで黒二ーソックスとの間の生足がなんとも魅力的な女性だ。
「なんだ? 私の顔に何かついているか?」
ハイスキーボイスの声に楽兎はハッとして焦りながら答える。
「え、えっと下見ればわかると思うけど狼に追われててさ……。なんとか木の上にまで逃げれたんだけど……」
助けてくれないかな。そうやって言おうとした自分を恥じる。
女に助けを求めてどうするのだ。
彼女だって逃げてきたのかもしれないし……。
「ん? つまりスノウウルフから逃げて木の上に逃げたと?」
「はい……」
すると彼女は目をパチクリと何度かまばたきをすると……。
「ぷ、あははははははは!!」
腹を抱えて笑いだした。
「な、なんだよ! どうして笑うんだよ!」
「ふふふ……君……面白いんだな」
そういうと彼女は……、
――木から飛び降りた。
「あ、バカ!」
気づいて手を伸ばしたがすでに遅し、手は届かず、彼女は木の麓まで落ちてしまった。
楽兎はぎゅっと目を瞑った。
だが、いつまでたっても悲鳴も狼が鳴く事も無かったので、ゆっくりと薄目をあけるとそこには……、
「あははは。まぁ待て。ほら」
「ガウッ」
「くぅん」
狼と戯れている彼女を見つけた。
「…………」
呆然とする。
あの狼が彼女にあんなに懐いているなんて……。
「ほら、何をしている。君も降りてこないか? 大丈夫だ。こいつらスノウウルフの主食は雪。肉もいけるが、焼かないと食べない奴らなんだ」
つまり無害?
楽兎が一生懸命逃げ回った記憶がとても無駄なものだったと気付いた時、バランスを崩し……、
「うわぁ!」
ドスンッと木から落っこちた。
狼はそれにびっくりして散開。
少し離れているところで見ている。
「いててて……」
ふにょん
「ん?」
右手に柔らかい感触。
もう一度握ってみる。
「んぁ……ッ」
ふにょんと言う効果音とともに声が聞こえた。
なんだか、かなり色っぽい声で……。
「…………」
冷や汗がたらたらと流れ始める。
だって、楽兎が落ちた場所は……。
「いつまで触っている!! この、変態!!」
バチィィィィンッ!!
これが、バカで身体能力が高い『武田楽兎』と……。
最初の仲間となる『ラン・レイト・フェデルカ』の出会いだった。
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