龍の弱点を見つけました?
「まったく、ラクトは相変わらず……。今度やったらただではおかんぞ?」
「今度とか……明らかに不可抗力だと俺は言ってみるんだけど、それも無駄か……?」
「無駄だ。私が気づく前にさっさと部屋から出るんだな。後で殴るくらいの事はするが」
結局は殴られると言う事になる楽兎だった。
「はぁ。思いっきり蹴られたせいで食べ物の味なんてまったくわかんねぇ……」
「我が魔法を使ったまでは良かったが、痺れはやはり残ったな。我は治癒の龍ではない故」
アルセイムが魔法を使ったおかげで顔を思いっきり蹴られた楽兎を回復させたのだが、痺れは少し残ってしまった。完璧に魔法で回復させるためにはアルセイムに頼むのではなく、ちゃんと回復に特化した魔法使いの魔法が必須だ。
そうでない人間が使ったならばまだ痛みが残っただろうが、アルセイムはドラゴンなので痺れしか残らなかった。さすがとしか言いようがないと、ランは用意された朝食を食べながら考えていた。
「さて、今日中にルルカントまで行くぞ。もう馬車は借りてあるからいつでもいける」
「へぇ。馬車なぁ……。乗り心地は?」
「最悪。とは言ってもお前が馬に乗れないからだぞ?」
ここからルルカントまでは道のりが悪い。辺境だけあってしばらくはずっと整備されていない道なので馬で行きたかったのだ。
馬車よりも馬の方が振動は少なくて済む。馬の方が疲れはするが。
ランがそう考えている内に、楽兎もアルセイムも朝食を食べ終わる。
「さて、食べ終わったなら行くぞ。荷物は全て持ってきているからな」
「と言っても、これと言った荷物は無いけどな」
楽兎が持っている荷物と言ったら、前も言った通り、どれも使えない物ばかりだ。
ネット環境が繋がっていないこの場で使える者は一つも無いし、ゲーム機もスマフォも電源が昨日で切れた。残ったのはハンカチとティッシュとバイクの鍵と残った飴玉二つ。そしてここに来る途中、いくつか手頃な石ころを拾っておいた。
「何故石なんぞ持ってきたのだ?」
「投げる」
飴玉を投げた時みたいに投げるつもりだ。飴玉を使うのなんて勿体ない。甘くておいしいし、舌の上でころころ転がすのが楽しい。
楽兎達が受付に行って外に出た後、近くに置かれてあった馬車へと乗り込んだ。
「ってか、準備すんの早ぇ早ぇ。ランって便利だなぁ」
「私をお前の道具か何かと勘違いしているのか? それだったら今すぐにでもお前の顔面をもう一度蹴ってやろう」
「すみません。マジ勘弁してください。今も痺れてんです」
「すっかり尻に敷かれとるぞラクト」
正座で謝る楽兎をアルセイムが引きつった顔で苦笑いを浮かべていた。
馬の手綱を手に取ったランがその手綱を叩く。馬はゆっくりと歩きだしたかと思うと、少しずつ歩を速め、そして走り始めた。
「ちょ、おい!? いきなりか!?」
馬が走り始めたために、後ろに乗っている馬車内ではかなり揺れ、いきなり内部に頭をぶつけた。
「今日中に着くためだ。本来ならば夜通しルルカントまで走るつもりだったのだから!」
「ンな事言ってもな!?」
そこで楽兎は気がついた。
隣で眠っていたかと思われるほど静かだったアルセイムの頬が膨れていた。しかもその瞳は魚色の瞳で完全に死んでいる。
もしかして、これは……。
「ゆ、揺れるぞ……これ……うぷ」
「ちょっと待てアル!? ここで吐くなよ!? ってかお前乗り物ダメなのか!?」
このままでは楽兎の服に掛かると考え、とっさに楽兎はそのアルセイムの体を抱いて、後方へと顔を出した瞬間、吐物が出た。
「おい大丈夫か?」
「無理……。我は……降りる……」
「ちょい待て!?」
アルセイムが外へ出ようとしたところを楽兎が急いで止めるのだが、それでも出ようとするので仕方なしに楽兎はグローブを嵌めた拳でその腹にめり込ませた。
「ごふっ!?」
その一撃で気絶をするアルセイム。
「ふぅ。これでしばらくは大丈夫だろ」
「どうしたラクト? 中で何かあったのか?」
「あぁ。アルセイムはどうやら乗り物はよくないらしい。と言うか、完璧にアウトだ。乗って数秒としか経ってないのにな……」
ぐっすりと眠るアルセイムに膝を貸しながら答える楽兎。
「……乗り物に酔いやすいとは……。いや、ドラゴンだからこそ、なのか?」
主にランの馬車の運転の所為だと思われるが。
「何はともあれ、ずっと馬車を飛ばしてもらうのはちょっと困るぜ?」
「しかし、一刻も早く行かねば……。ならばこうしようラクト」
顔の見えないランの言葉に、楽兎は耳をすまして聞いていると、驚いた。
「アルが起きるたびに寝かせろ俺に見た目幼女を殴り続けろと言うのかよ……」
「しかし、それしかいい案はあるまい。もしそれが嫌なら、これを使うと良い」
そう言って片方の腕だけ中につっこみ、ランは手に持っていた物を楽兎に渡した。
それはまるで錠剤のような物なのだが、決して酔い止め……と言う物ではないだろう。それだったら俺に寝かせろと言う前に出してくるはずだ。
「なんだ? これ」
「睡眠薬だ。龍の状態の時と、今の状態の時とでラクトの拳を受けた時、今の状態の時に寝るならば睡眠薬も効くのではないかと思ったのでな」
初めからそれを渡せよ。そう思った楽兎だけど決して口には出さなかった。
楽兎はありがたく睡眠薬を受け取り、そのアルセイムの頭を自分の膝に乗せて激しく揺れる馬車の中を必死に飛ばないように抑えつけながら馬車の旅を楽しんだ。
……主に早朝見れなかったアルセイムの寝顔を存分に堪能しながらであるが。
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