げんこつくらいました
「んで、こいつどうすんだ?」
「もちろん、捕虜として王都へ連れて行く。こいつは価値があるからな。ターコイズの【黒槍】と言われれば、主戦力の一人だ」
そう言うと、ランは腰につけているポーチから瓶を一つ取り出した。ビール瓶のような物では無く、ゲームとかによく出てきそうな瓶だ。
それを気絶している黒槍に近づける。
「封じろ」
すると、瓶から出てきた何か白い物が黒槍の体に巻きつき、そして瓶の中へと封じ込めてしまった。
「おぉ。すっげぇ。人がこんなちっせぇ瓶の中に入っちまったぜ……」
「そんな事ばかり言っていると王都では田舎者と呼ばれ差別対象にされるからある程度は控えろよ?」
「えっと、ひかえ? それってサッカーとかのあれか?」
なぜかスポーツの方が出てくる楽兎。ランは意味不明と言った顔をし、アルセイムが説明の補助を入れる。
「ラクトよ。あまり言うなと言う意味だ」
「へぇ、サンキュウ」
アルセイムにお礼を言う楽兎。その楽兎にランは瓶のふたを閉めながら問う。
「先程、私が過大評価と言ったが、あれは理解できたから言ったのではないのか?」
「いや。適当だけど?」
(こいつの頭は子供以下か……)
頭を抱えて肩を落とすラン。楽兎はその様子に疑問しか浮かばず、アルセイムに目を向けてみるがアルセイムはどこ吹く風で楽兎を見ようともしなかった。
「よし。とりあえずは先に進もう。黒槍が居なくなった事を兵が知れば、探索地域を増やしてこちらが見つけられてしまうからな」
「た「探す範囲を広くすると言う意味じゃ」なるほど。そりゃまずいな。さっさと此処を離れようぜ」
「頭が悪いにもほどがあるだろう……」
楽兎の質問を見越して説明したアルセイムを、ランは心の中で良い通訳係を拾ったと感謝した。
ランが足を踏み出し、第一通過点である『ラフエノ村』へと歩き始めた。その後を楽兎とアルセイムが追う。
それから数分後、唐突に楽兎は口を開いた。
「にしても、この世界っていろんな動物がいんだなぁ」
楽兎は歩き続けるだけなのは暇だと思って森を見回していたのだ。
するとそこには雑草を食べている赤色のイノシシや赤色の蝶が居たり、しまいには翼が燃えている鳥などが居た。
「ラクトの世界にはあんな動物は居なかったのか?」
ランが気晴らしにと楽兎の反応に応じた。
「あぁ。イノシシは普通茶色ってイメージだし、あそこまで赤い蝶なんて居ないと思う。大体燃えてたら普通死ぬし」
「そうなのか? ルビーでは赤い動物はよくいる。逆に赤色では無い動物の方が珍しいのだ」
そうランが言うと、ある一点に指を指す。
そこには楽兎が良く知るカラスが居た。日本でよくみた事のあるカラスだ。
「他の国。例えば我が生まれたサファイヤの領国では青色や水色の動物が多い。そのように遥か昔から別れておるのだ。領国外の場所ではいろんな色の動物が居るので安心するがいい」
アルセイムがそう言うので、国ごとに色がある事がわかる。
「そういえば言っていなかったな。我が国、ルビーは赤を象徴としているのだ。他国には我が国と友好的なサファイア。エメラルド。その他にはパール。トパーズ。ターコイズがある」
ランがそう説明していく中で、勉強が嫌いな楽兎はほとんど聞いていなかった。目が後ろの背景に奪われているのだ。
「パールとトパーズは同盟していてな、ターコイズだけがどことも繋がっていない。ターコイズは欲望の塊でな、あまり好ましく思われていないのだ髪色はこいつ同様、紫色だから楽兎が疑われる心配は……」
前を歩くランが不意に後ろを見る。楽兎は他の場所を見ている。
ランの手が自然と握りこぶしを作る。
「少しは話を聞かんか! 貴様が帰るまでの間、避けて通れぬ道だぞ!」
ゴッと頭に激痛。
「いってぇ! いきなり何すんだよ!?」
「貴様が話を聞かんからだ! この世界に住む以上。ある程度の常識を身につけてもらわなければ生活できんぞ!?」
「いやぁ俺すぐに帰るつもりだしよぉ」
「帰り方を知らないのではないか?」
「…………」
「…………」
「すまん。初めから話してくれ」
このとおり! と言って楽兎は土下座で返す。
「貴様、初めから聞いていなかったのか……」
ランの右手はもう一度殴ろうかと手は握りこぶしを作っている。
「ラクトもランも仲が良い。これが夫婦漫才と言うものか?」
「「違う!!」」
赤くなりながら叫んでいるランはともかく、楽兎は意味こそわからなかったがなんとなく馬鹿にされているよ うな気がしたのでランと同時に叫んだのだ。
実際には馬鹿にしているのではなくて微笑ましく見ているのだが。
「くっ。貴様のせいで説明する気が失せた! もう説明せん!」
「え? それ俺のせいか?」
「当たり前だろう!? もとはと言えば貴様が聞いていないから……えぇい! アルセイムにでも聞いておけ!」
機嫌が悪くなったランは歩を進めるスピードが早くなる。だが、その速度に余裕に追いつける楽兎は別に苦にならない。むしろ丁度いい速さになったと思ったところだった。
「……アルセイム。頼めるか?」
楽兎がアルセイムに懇願する。
「ふむ。まぁ良いだろう。……ときにラン。歩を進めるスピードを緩くしてはくれまいか?」
アルセイムの人間の時の体では、ランの早足の速度に少々ついていけないのだ。
ランは自分が足が速くなっていたのがやっとの事で気がつき、「すまない」と言って歩くスピードを落とした。
「では、話すとしよう」
結局、この世界の事はアルセイムが教える事になった。ランは無言で次の村の案内をしていただけだった。
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