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ランナー  作者: 御伽草子
1/4

第一走 入学式

このお話に同性愛の表現が多少存在します。

苦手な方はプラウザバックしていただきたく存じます。

書き方や物語構成にアドバイスやご意見をどんどん募集しております。

作者は自他共に認めるドMなので、言葉で殴る蹴るしても歓喜します。

きつめで構いませんのでどんどんお願いします。

桜吹雪。壮観だ。校門から昇降口まで直線の桜並木からこぼれ落ちる花びらが、まさに吹雪の如く降り注ぎ、新入生の僕らを迎えている。

 さらに天気は晴天で雲一つ無いような青空。柔らかいそよ風。なれないワイシャツにネクタイとブレザーに身を包み、高校入学は最高に爽やかな気分で始まった。

 幼馴染三人が通う地元の高校に入学するため、ほんの少し受験勉強を頑張って受験戦争を掻い潜った。エロゲやラノベを数ヶ月我慢するのは大変苦痛だったが、幼馴染の勧誘と、僕自身の友好関係の築き方が下手さが手伝って、地元の高校に決めたのだ。根暗な僕が新たに友人を作れるとは思い難いのだ。これで同じクラスになれなければ元も子もないのだが、なぜか幼馴染達と違うクラスになる気がしない。それは確信に近い。小学校、中学校の九年間、彼らと違うクラスになったのは小学校の四年目と中学一年の二年だけだった。腐れ縁。それもやたら根の深い腐れ縁だ。中々切れることがない。

 この高校は東校舎と西校舎に別れている。東校舎は主に一年生と二年生、三年生は西校舎で一日を過ごす事となる。一直線の桜並木が終わると、昇降口脇に複数の看板が建てられ、その前の人集りが出来ている。まだ子供の雰囲気が抜けぬ新入生とその親御達だ。

 意味も無く因むと、僕の親は来ていない。両親は僕が小学生の時に離婚し、父と二人暮らしだ。父は学校行事に参加したことはない。今回の入学式とて同じ事だ。親を自慢したいという訳でもなく、さらにそれが何年も続けば慣れたもので、寂しさや侘しさを感じることもなく、気に病むこともなかった。

 ただ、一人でクラス確認するのは何か、こう、周囲に劣等感のようなものを抱く。皆が友達や親と和気藹々と確認してる。その集団の一回り遠くから、僕はクラスの確認をした。

 素早く自分の名前を見定めると、足早に昇降口へ、この雰囲気から逃げるような足取りで入る。名前を早く確認する事に集中していたが、それでも僕の名前の下に、やはり幼馴染の名前が確認できた。どうやら腐れ縁は未だに健在らしい。安堵の息が漏れた。

 昇降口に入り、向かって左側が一年生の下駄箱らしい。僕が通うクラスの、僕の出席番号を見つけると、革靴を押し込み、一年間お世話になる下駄箱に心のなかで、よろしくと呟いた。

 四階建ての東校舎、三階と四階の一部が一年生の教室となっている。僕の配属先の一年四組は三階にあるようだ。

 開け閉めするだけで無駄に大きい音を立て、周囲の注目を集めてしまう無神経な引き戸の前に立ち、一先ず深呼吸。まったく、我ながら情けない小心者だ。中にいるのは、去年まで顔も知らぬ他校の生徒たち。それは周りから見ても同じなので、教室の中はしんみりと静かであろう。現に話し声が廊下に漏れていない。余計に扉を開ける音は目立つ訳だ。緊張が全身を走り抜ける。そしてまた、深呼吸。いくか。

 扉を開ける。案の定、ガラガラと小煩い音を立て、誰に伝えるわけでもないのに、来訪者の存在をクラス全体に告げた。

 クラスの中にはまだ半分ほどの空席がある。見知らぬ者たちの視線が一瞬、僕に集まった。身体が硬直するのを感じた。

 視線はすぐに散っていく。僕に興味はないらしい。膠着した身体の力が抜けてゆく。

 等間隔に置かれた机が三十口。各々友人との会話やら読書やらに戻っていった。僕の出席番号は三番目。一番左の列、前から二番目の席までまっすぐ歩いた。前の席には二つの見慣れた後ろ姿があった。

 特徴的なのは二人そろって深い紺色の髪。モデルのように手足が長く、女性のように小顔の整った顔立ちだ。二人とも見紛うことなく、近年稀にみるかどうかわからないが、イケメンだ。嫉妬がないと言えば嘘になるだろう。

 無意識の内に溜息を漏らした。

 漏れた溜息に反応し、二人の美青年はこちらに振り向いた。

「やぁ、おはよう天馬君。どうかしたの?」

 この二人、基双子は背格好は似通っていても、浮かべている表情が月と太陽のように正反対なのだ。

 僕に挨拶をしてくれた方が、まさに太陽。蒼神陽人あおがみ ようと。常に微笑みを浮かべている。やたらと後輩に好かれていたのを思い出す。

 次はまさに月。冷たい鉄仮面を貫き通す。蒼神怜人あおがみ れいと。無愛想に見えるが面倒見が良く、周囲から嫌われることはない。女生徒からはクールだ、と人気があった。

 この二人はスポーツは万能、勉強は言わずもがな、喧嘩が強く、片親なので家事全般が出来るそうだ。その上、イケメン。ドラマや漫画のようなスペックだ。少しでいいから分けて欲しいものである。

「ちょっと、神様って理不尽だなぁって思って」

「よく分からないや」

 陽人は困ったような微笑みになった。怜人は僕の答えに興が冷めたようだ。小さく挨拶をすると、本へと視線を戻してしまう。

 クラスに戻った妙な静寂。しかし、それも長くは続かなかった。

 引き戸特有の、皆の注目を集める大きい音が教室内に来訪者の到着を告げる。

「おっはよー!新入生諸君!」

引き戸の音よりも何倍も大きな声で入室してきた小柄の少女。小さな顔には大きな瞳が宝石みたいに輝いて収まっている。短くさっぱりとした髪型とアイドルみたいな可愛らしい顔立ちだが、気取った風はなく、常人より高いテンションは親しみやすさを感じる。

 視線の合った生徒とは、初対面かどうかを気にせず大声で挨拶をしている。大きな瞳が僕と蒼神兄弟を捉えた。途端、表情をいつもより二倍増し明るくして駆け寄ってきた。

「やぁやぁ!天馬に蒼神家ご両人!まーた懲りずに同じクラスになったねぃ!」

 天真爛漫を絵に描いたようなこの少女とも、蒼神兄弟と同様に腐れ縁、幼馴染という奴だ。それも蒼神兄弟と違って家は隣同士。名前を伍茂元姫いつも げんきと言う。小さいころは一緒にお風呂に入ってたこともある。またもやマンガみたいな設定。僕自身信じられないところがある。

「おはよ」

 無愛想だ。本から視線をあげずにご挨拶。怜人の無愛想は、僕も伍茂ちゃんも、弟の陽人も当然見慣れているので気にも止めない。

「おはよ~」

 笑顔だ。

 兄の怜人とコントラストを描いている。

「おはよう」

 僕の方は、一応目を見て挨拶をしたものの、いくら幼馴染とはいえ、可愛い女の子。しかも瞳はくりっとして大きい。恥ずかしくなって、視線を逸らしてしまった。何時からだろう、伍茂ちゃんの事を女の子として意識したのは。




 春休みのぐうたらした生活に慣れきった僕の頭は、学校に来て早々に根を上げて、睡眠を求めた。先生が来るまでやることと言ったら、ラノベを読む事くらいなので、惰眠を貪ることと決める。腕を枕に、夢の世界へレッツゴー。と思いきや、両脇をいきなり突かれて僕は飛び上がった。

「っひゃあ!」

 女性のような悲鳴を上げてしまった。我ながら情けない。

「あはっ!女の子みたい!」

 いきなり脇腹を思いっ切り突かれたら、誰だってこうなる。声が高めなのは気にしているんだから言わないで欲しい。僕は力いっぱい睨みつける。が、当然迫力なんてものはない。

「朝のHRまで30分以上時間あるしさ!校内探検しようよ!」

「小学生か、伍茂ちゃんは」

 思っても口に出さない。伍茂ちゃんは口より先に、手が出るタイプの子だ。それも中々に力がある。僕の薄い防御力では洒落にならないくらい痛かったりする。いただけない、いただけない。口にしないのが剣呑、剣呑。

 僕はわざとこれみよがしに大きなあくびをして、眠たいことをアピールした。

「ごめん、僕はいいや」

 これで伍茂ちゃんの頭の中がどれほどお花畑だとしても、流石に察してくれるだろう。HRまでの30分間、僕は惰眠を貪りたいという事を。では、改めまして、夢の世界へ・・・。

「こらこらこら!元気ないなぁ!未来夢広がる高校1年生がそんなんじゃ、友達出来ないぞぉ!はーい、皆立った!立った!」

 察していただけなかった。怜人は大儀そうに眉を顰めて立ち上がる。反面、陽人は楽しそうに微笑んでいる。伍茂ちゃんに振り回される怜人を見るのが楽しいのだろう。まぁ分からなくもない。

 台風のような子だ。抵抗した所で、僕のような貧弱は力を持って、無理やり連れて行かれるのが目に見えている。抵抗はしない。黙って立ち上がって怜人を見る。163センチしかない僕は、高校一年生にして170以上もある怜人を見上げる形となる。やっぱりでかい。羨ましい。不躾に眺めていると、蒼神は眉を寄せて、僕を一瞥して言った。

「何?」

 不機嫌そうに見えるが、これがデフォルトなので気にしない。まぁ、少しは怒っているかもしれないけど。

「いや、やっぱり神様は理不尽だなぁ、と」

 神様のせいにしておいた。神様、存在しているならごめんなさい。

 蒼神は頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら、あっそ、と小さく呟いて、僕から視線を外した。

「よぉし!じゃあ校内探検にしゅっぱぁーつ!」

 拳を高らかに天井へ掲げ、伍茂ちゃんは大きく歩きだした。朝から元気な事だ。これが一日ずっと続くから信じられない。どんな体力をしているというのだろう。・・・本当に華奢な女の子なのか、疑問に思う。

 引き戸の前で伍茂ちゃんは足を止め、急に教卓に立つと、クラス全体に声を掛ける。人見知りや初対面なんて言葉、伍茂ちゃんの辞書には載っていないようだ。・・・・・それ以外の常識的な言葉も幾つか欠落しているようではあるが。

「校内探検一緒に行きたい人っー!」

 しかし、クラスメイトの方々の辞書にはそれらの言葉は載っていたらしく、誰一人として名乗りを挙げてくれない。伍茂ちゃんは少し、しょんぼりとした表情を浮かべたが、すぐにいつもの明るい顔に戻って、僕と蒼神兄弟を見定めた。

「んじゃ、いこっか!」

「あいよ」

「はいはい」

 蒼神兄弟がそろって首を縦に振る。僕は気を使って少し良い返事を心掛けた。

「あいあいさー・・・」

 しかし、三大欲求の一つ、睡魔に負けて、口から出たのは蒼神兄弟と同じか、それ以上にやる気のない返事になってしまった。・・・気分を害してしまったかな?なんて思ったが、伍茂ちゃんは気にしていないようだ。

 廊下に出ると、生徒たちがいくつかグループを作ってたまっていた。恐らくは中学で一緒だった子とつるんでいるのだろう。見知った顔がしないか見回しながら、伍茂ちゃんの後に付いて回る。

 視線をあちらこちらに移しながら歩いていたせいで、前方不注意になっていた。

 すれ違う一人の男子生徒と肩をぶつけてしまったのだ。

 僕は慌てて振り返り、大声で謝罪し、頭を下げた。

 ぶつかった相手は、所謂不良さん達の集まりで、褐色の髪に、派手な髪型。Yシャツのボタンは大きく開けており、裾はズボンから出している。やや時代錯誤を感じる。

 こちらを振り向き、大きく舌打ちをして睨んできた。ちょっと怖い。絡まれるかなーなんて呑気に考えていたが、すぐに背を向けて去っていった。

「どうした?」

 一人歩みの遅い僕に、怜人が少しだけ心配そうに声を掛けてきた。

「うん、ちょっとぶつかっちゃっただけ」

「きょろきょろしてるからだ」

 溜息混じりに吐き出された台詞。呆れがひしひしと伝わってくる。視線が痛い。皆の方を振り返れば、きっと怜人は目を細めているに違いない。振り向くと、既に僕を見てすらいなかった。怜人の少し先、伍茂ちゃんが大きく手を振っている。怜人は伍茂ちゃんの元へ歩いていた。

「はーやーく!置いてくよー隊員諸君!!」

 僕は隊長を待たせてしまっていたようだ。隊員としてあるまじき失敗である。まぁ怜人も同罪みたいなものだ。罪は軽かろう。軽く小走りして伍茂隊長の元へ急いだ。これで隊長の怒りは晴れるだろう。怒っているのかどうか疑問だが、僕は無罪放免になるはずだ。




一年生の教室がある東棟を一階から四階まで大まかに見回った僕たちは、大した発見も出来ず、HRの時間が間近に迫ってきたため教室へ戻った。開くたびに注目を集める引き戸を潜り、席に着いた。時刻は8時40分。朝のHRは8時50分かららしいので、あと10分ほどで先生が来るはず。流石に眠るわけにはいかない。

 引き戸が開けられたのは8時50分を2分過ぎてからだった。遅刻。

「いやぁおはよう。皆さん。入学おめでとー」

 教室に入ってから、始終笑顔で挨拶をした。入学式ということで、服装は全身スーツにネクタイとフォーマルな服装。しかし、伸ばし放題の髪を後ろでしばり、顔には無精髭を生やしておるというだらしのない様。普段から、ずぼらな生活をしていることが見て取れる。眼鏡に始終笑顔、30代前半、優男風な顔立ちに長い髪は女生徒に人気がありそうだ。清潔感ある格好をすれば、だけど。

 先生は僕らに背を向け、黒板に自分の名前を書きだした。

「自己紹介だね、僕の名前は・・・」

 黒板に書き終わって、こちらを振り向く。

「僕の名前は、泰田英たいだ すぐる。一年間、君たち1年3組の担任をさせて貰うよ。よろしく」

 出席をとりまーす、やる気の感じられない声色で出席簿を眺め、一人ずつ顔を確認しながら出席をとってゆく。

「じゃあ本日の日程の確認だけど、一時間目は入学式。校長の長ったらしい話がメインかな。まぁ頑張って聞いてね。僕も頑張るから。二時間目は教科書配布だね。それで今日は終了」

 どこに行っても校長の長い話はお約束らしい。面倒だなぁ。某魔法学校の校長みたいに本当に二三言で終わらせてくれれば良いのに。

「じゃあ、廊下に出て。出席番号順に二列で並んでねー」

 気だるそうな先生に続いて、廊下へ出る。数分間、体育館までの廊下を歩く。

 体育館の中は、約1000人ほど入れるだけあってかなり広い。縦に一組、横に二組のバスケットがあり、奥には教壇。今回は入学式のため、教団の前には椅子が並べられている。縦に15脚、横に2脚で一クラス。それが10組分も並べられている。恐らく、体育館を使う部活動の生徒が並べたのだろう。中学の時、同級生のバスケ部の子たちが愚痴っているのを聞いた事がる。右から三番目の椅子の列まで先生に着いて行き、泰田先生の着席の合図で座った。後ろの生徒まで聞こえるが疑問な声量だったけど、泰田先生の成人男性にしてはやや高めの声はよく通った。全員が座ったのを確認したのち、先生はご機嫌な様子で頷いて、職員用に並べられた椅子まで歩いて行った。

「スーツ姿じゃなかったら浮浪者みたいだ」

「まったくだな」

 思わず口に出してしまった独り言だった。蒼神が反応したのが意外だった。




例外はあるだろうが、どこも校長先生の挨拶というのは長い。要約すれば、文字通り二三言で済むであろう事を、わざわざ肉づけをして長々と話す。生徒の前に出る機会がこういったイベント事しかないのだから、張り切るのも無理はないだろうが、同じ事を繰り返し話す様は、正直生徒の反感を買うとしか思えない。聞きづらい校長の声は、話を聞く気が一切ない僕には子守唄にしか聞こえない。

 気が付いたとき、教頭先生が入学式の閉式を告げていた。どうやら気を失っていたらしい。僕としたことが!心のなかで校長に謝罪を述べて、先生の起立の声で立ち上がった。

 教室に戻り、一時間目が終わるまで10分ほど時間がある。先生は自由時間、お喋りでもして仲を深めてくれ、と言っていたけど、ほとんどの子は喋ったりしなかった。伍茂ちゃんは言うまでもなく、付近の子と交流を深めていた。




 二時間目が終わり、短い一日が終わった。帰りのHRは先生がとても簡潔に終わらせた。次の登校日は明後日で、移動教室。必要なものはしおりに書いてあるので、しおりをよく読んで準備をするように。実に簡潔。校長先生も学ぶべきだと思う。その簡潔さが、面倒さからくるとしても。

 何事もなく終わったと思えた高校生活一日目だったが、事が起きたのは帰り道だ。昇降口から正門までの、桜並木。とっとと帰って録画してある深夜アニメを見る予定だったのだが、一般人より早い速度で歩いていると、後ろから強い力で肩を掴まれ、無理やり振り向かされた。

「ちょっと話あるんだけど、来てくんね」

 返答を待たずに、派手な髪型の少年に体育館裏まで連行された。台詞の語尾にクエスチョンマークを確認できなかったので、任意同行というわけではなさそうだ。

 今時、不良って時点で既に時代錯誤を感じるっていうのに、連れて行かれた場所は体育館裏。僕を囲んだ四人の顔を見回した。髪型は今風に濃い褐色に染めてあり、普段着はストリートファッションで決めてます、といった風貌。容姿こそ今風なのにやっていることは実に古臭くて笑ってしまいそうだ。この状況で笑ってしまったら、何が起きるかは火を見るより明らかなので、表情を隠す為、下を向いておいた。

 僕が下を向いたのは、恐怖からだと思った彼らは気を良くして僕を威嚇しする。

「今日の朝のHR前さ、肩ぶつかったよね?その時肩痛めちゃってさ。それで頼みごとなんだけど、お金貸してくんね」

 ものの見事に脈絡が欠落した言い分だ。彼らはどうしても僕を笑わせたいらしい。

 考えるふりをして辺りをちらっと見渡す。状況確認。正面に二人。僕の背には体育館。二人の後ろは学校の敷居に網目の柵が設けられている。右を向くと、体育館と敷居の細い道に一人。左にも一人。見事に退路がない。絶体絶命だなぁ、とぼーっと考えた。

 あまり怖気づいた様子のない僕に、彼らは怒りを隠さずに叫ぶ。

「っで、お金貸してくれるの?くれないの?」

 じりじりと詰め寄ってくる。恐怖はあまり感じなかった。怜人や陽人のように、4対1で勝ってしまう程、喧嘩が強いわけでもない。タカられたところで、痛くもかゆくもないほど大金持ち、というわけでもない。ピンチのヒロイン、僕は男なのでヒーローか?なんとまぁ情けないヒーローな訳だが。兎に角、僕はただ・・・。

「黙ってねぇでなんとか言えや」

「・・・・・ドン!」

「あ?」

 ドン!の合図で僕スタート。某歌手の歌に習って僕は駆けだした。

 敷居と体育館の間は約二メートル。敷居側に寄って全力で駆けた。当然、通してなるものか!と道を塞いでる子は敷居側に寄ってくる。道を塞いでる子まで、一足の間合いまで近づいた所で、僕の事を抑えようと両手を広げて、抱きつくように飛びかかってくる。飛びかかってきたのが、伍茂ちゃんならどんなにうれしい事か。未だに僕は場違いな事を考えている。踏み込んだ右足の力で大きく左へ、回転しながら飛んだ。敷居側へ寄ったことによって出来た空間に飛び込むようにして、一気に駆け抜けた。彼ら四人は抜かれると思っていなかったのだろう。駆け抜けた僕を、ほんの少し唖然と眺めた。僕が少し振り向いて、間抜け面を一瞬だけ堪能し、勝ち誇った笑みを浮かべると、彼らは狂ったように吠えながら追いかけてきた。

 体育館と敷居の小道を抜ければ、正門へ続く桜並木の道にでる。正門さえ潜れば、近いという理由だけで選んだだけあって、勝手知ったる地元。地の利は確実に僕にあった。

 正門を抜けると、そこは入り組んだ住宅地。駅までの道しか把握してないであろう不良少年たちは、この住宅で出来た林の中まで追いかけてくるだろうか。ちょっと好奇心に駆られ、正門を潜った所で追いつかれるのをまった。

 あと5メートルほど迫った所で、僕は逃げ出した。後ろから、待て!この野郎!とお決まりの定型句。この状況で待て、と言われて待つ人はどのくらいいるんだろうか。今度アンケートを取ってみるのも悪くない。

 この町で生まれ育った僕でさえ、小学3年生までは迷っていたほど迷路のような住宅地。おそらく電車で遠くからはるばるやってきたであろう不良少年達では、10分と逃げないうちに迷子になってしまうだろう。案の定、振り返り、数分待ってみても誰も追い付いてこない。迷子になったのか、完全にまいてしまったようだ。

 辺りを見渡して現在地を確認。知り合いに追い掛け回されるのを見られたくないと無意識に思っていたのか。家から離れた方角に逃げていたらしい。ここからでは歩いて帰ると三十分以上かかりそうだ。僕は鞄からIpodを取り出して、お気に入りのアニソンを流しながら、帰路へ着いた。

 泊りがけの移動教室。またアニメが溜まっちゃうなぁ・・・。

ノリとテンションだけで書いた作品です。

書いてて物凄く楽しいです。


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