第六話 こうして、二人はいつまでも仲良く暮らす事なく死んでしまいましたとさ
僕は縁側で、暇そうにお茶を啜っていた。この季節には、やはり熱いお茶が良い。
今朝の天気予報では、今日も一日快晴だそうだ。お涼さんが嬉しそうに洗濯物を干しているのを先程見かけてもいた。
とても穏やかな月曜日。
ああ、祝日なのだ。明日から、僕の学校は冬休みに入る。というか、今日から。
僕はお茶を飲み終えると、お涼さんに頼まれていた庭の掃除を始めようと腰を上げる。
「……なに馴染んでるの? 九十九君」
「あ、巡さん。お早う御座います」
ここの主である巡さんが、いつもと同じ白黒の和服を着て、立っていた。
「ええ、お早う……って!! 違うわ!!」
「なーに朝から怒ってるんですか。徹夜明けですか?」
「いやそうじゃなくって!!」
騒がしい人だ。今日はとにかく。
「あのねえ九十九君。あなたいつまでここに居る気? かれこれもう五日よ?」
「あれ? 言ってませんでした? 僕、ここに住まわせてもらう事になったんですが」
「え?」
「え?」
あれ? お涼さんてば、伝え忘れてるのか。
「ですから、これからよろしくお願いします」
「いやいやいやいや!! 駄目でしょ、親御さんが心配してるわよ?」
縁切られたから両親はいない。
そのことを説明する。その上でお願いする。
「……はあ。仕方ない。いいわよ。解ったわ九十九君。これからもよろしく頼むわ」
「はいっ!!」
半ば無理矢理、承諾してもらった。
それと、もう一つの、大事なお願いをする。
「僕を、弟子にしてください」
「唐突!! だけど、それは承諾出来かねないわね」
「何でです?」
「何でってそりゃ「肇くん! 本部に肇くんがご主人の下での見習い活動が承認されたのですよっ」
グッドかバッドか判別出来ないタイミングでお涼さん登場。
「……ありぇ?」
「おおおおおおおおおりょおおおおおおおおおおお!!」
「ごごごごご主人!? くくく苦しい!! 苦しいって!! 首絞まってますって!!」
僕はくすっと笑って、少し歩く。ここは学校の裏にある山の山頂にある。一般人は立ち入れられない場所だ。だから、ここからは町が一望できる。
一杯に風を浴びて、僕は町をグルッと眺める。
……巡さんが止めるのも、その理由はお涼さんから聞いていた。その上で、僕は頼み込んだのだ。
でも、僕はそれでもよかった。今はそれが何からくる自信なのかは判らないが、それでも、そう感じた。
「肇くーん!! たたた助けてえ!!」
「お涼!! 待ちなさい!!」
二人の声が聞こえて、僕は振り返る。
戻る前に、ある場所を掘り返す。
箱が埋めてあった。まあ、僕が埋めたのだけれど。
僕は箱の蓋を開けようとして、一瞬躊躇う。だが、開けた。
そこには、壊れてしまった四つの人形と、猫の白骨化した屍骸が四匹分。
ただ、あっただけだった。
何だ、何にも変わりはしないじゃないか。ただの、ものだ。
蓋を閉じて再び箱を埋める。
埋め終えて、少し手を合わせてから、二人達のところへ歩き出す。
日常から堕ちてしまったって、きっと悪くはないだろう。大切なのは、自分に正直であること。自分で決めたのなら、決して悔いは残らないだろう。
僕、九十九 肇は、少し困った顔をして、取っ組み合う二人を仲裁しに、歩き出した。