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観聞噺  作者: 五位鷺
第一章 日常から堕ちて
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第三話 招き猫は何処に招くか

 チャイムが鳴る。本日の学校がようやく終わった証拠でもある。

 そんな放課後。

 二年二組の教室。窓際、一番前の席。

 西日が差していて、眩しい。

 頬杖をして、校庭のグラウンドを見る。

 突然、視界が真暗になる。いや、一寸明るい。

「だーれだ♪」

声色の高い、少し女子っぽい声が聞こえる。あくまで、女子っぽい(・・・・・)、だ。

「……そういうのは、女友達同士か若しくは、カップル同士でやるものだろ!!」

僕は伏せられていたもの、というか手を振り払う。

「はあ、ノリが悪いなぁ、九十九(つくも)は」

けらけらと、男子(・・)制服を着た男子(・・)生徒は笑う。

 この男子生徒、名前は高木 健(たかぎ たける)。僕のクラスメイトで、小学校からの、友達、だ。

 寝癖を直していない、ボサボサの髪。眠そうな半開きの目。身長は僕よりも5cm程度低い。

 因みに、僕は163cmだ。

 高木は、僕の隣にある椅子(つまりは隣の席に普段座っている奴が使っている椅子)に座る。

「なあ、九十九、一緒に帰ろうぜ?」

「お前は居残りで課題を終わらせろ。小田(おだ)先生、カンカンに怒っていたぞ」

小田 友里(ゆり)。二年二組担任の教師。担当教科は歴史。序でに言うと、三十歳独身。

 生徒の評判はわりと良い方だ。わりと。

「課題? ……何それ?」

「おい」

駄目だコイツ。

「アハハ、まあいいじゃんかよ。帰ろうぜ」

「……僕は、どうなっても知らないからな」

因みに、高橋先生は、課題を忘れると忘れた生徒に対して、歴史関係のレポートの課題(レポ用紙で最低十枚)を一日でやって来させることでも、校内では有名である。

 だから、しっかりと課題を提出した方がかなり、というか明らかに楽なのだ。

 その後、少し駄弁ってから、僕達は教室を出る。

 帰り道。僕達はのんびりしながら、ゆっくりと歩いていた。

「―――でさ、最近妹が二人増えたのだよ♪」

「お、そうなのか。そりゃ、オメデト」

嬉々とした顔で話す高木。

 高木の家は、七人家族。高木は五人兄弟の末っ子。歳はそんなに離れてはいない。

 で、確か去年の暮れにも妹が二人生まれたとか言っていたから、合計十一人家族。高木は四人の妹のお兄さんだ。

 にしたって、高木のご両親は、随分とお盛n……いや、別に。

 というか双子の確率がおかしい。彼の上のお兄さん方も、それぞれ双子だ。

 どんだけですかい。

「んじゃあ、随分と賑やかだな」

「ああ♪ 毎日ワイワイ騒ぎだよ」

とても嬉しそうに笑う。

 それは、さて置き。

 今日の寝床を探さなければ。

 昨日は、予期せぬ幸運というか、不幸というか、何とか大丈夫ではあったが。今夜はそうはいかない。

「……そうだ」

「ん? どした?」

高木の家に、今晩だけでもいいから泊まらせて貰おう。せめて、寝床だけでも。

 図々しいが、こればかりは。

「なあ、高木。今夜お前の家に泊めさせてもらえないか?」

「ん? 何で?」

「まあ、色色あってだな……」

色色ありすぎだけれども。

「で、どうだ? やっぱ駄目かな?」

「いや、別に良いぞ?」

「おお!! 有難う!!」

「ただ、妹達に刺激与えるなよ?」

「諒解だッ」

これで、取敢えずは寝床を確保だ。明日以降のことは……今夜考えるか。

「それじゃ、早速向かうか」

僕達は、高木の家へと向かう。






 その途中。

「にしても、いやあ、久しぶりだな、お前ん家に行くの」

「……確か、小六以来か」

多々あって、中学に進学してからは、全く行かなくなった、友人の家。

 僕の微かな記憶では、高木の家族はとても温和で、誰に対しても優しい人達であったと思う。

 暫く、下らない事をお互いに話しながら歩く。

 進路や、娯楽、色恋、普段も、普通にするような話を。ただ、話し合う。

「な、なあ高g「あ!!」

急に大声をあげる高木。

「……急にどうした?」

「あ、ああ……えと、な。悪い」

「へ?」

「やっぱり、家に来るのは……止めてくれるか?」

高木は申し訳なさそうな顔で謝る。

「いや、別に構わないさ」

「ああ、悪いな……」

こう言われると、押し切れない。

 まあ、それなりの理由があるのだろう。仕方がない。

「いいっていいって。その代わり、今度、お前ん家に遊びに行ってもいいか?」

どちらにしろ、久しぶりに行きたかったのだ。

 だが、僕がそう言うと、一瞬、ほんの一瞬なのだが、高木の顔が曇る。

「……あ。ああ、そうだな。きっとみんなも楽しみにしてるよ」

「ああ」

何か、引っ掛かりはしたものの、気にするのは、止めた。

「えと、じゃあ、俺はもう近くだから、此処で」

ああ、もうそんな距離か。

「ああ。んじゃ、またな」

「おう。また」

高木はそう言うと、走り去って行った。

 高木の家の近辺。と、いうことは、僕の家も近い。

 ……さて、今日の寝床を改めて探さないと。いくらなんでも、自宅の近くは、嫌だ。

 そんな事を考えていて、ふと気づく。

 此処は。

 此処は。

 あの、公園の前だ。

 昨晩、妖しき猫達に襲われそうになった、公園の前であった。

 そりゃ、偶然なのだけれども。

 だが、それでも、別の事で、僕は疑問を感じた。

 この公園は、僕が幼稚園児であった頃からある。

 そして、僕の記憶が正しければ、高木の家へ向かうとき、この道を通る事は絶対に無い。

 何故なら。

 彼の家とこの公園の場所は、全くの逆方向なのだから。

 僕は、その公園に入って行った。

 まるで、招き猫に招かれたかのごとく。

 其処は誰もいない、シンとした雰囲気であった。

 辺りは、夕暮れ。いや、もう陽が落ちる頃。

 僕は、一先ずベンチに座る。

 昨日と―――同じベンチ。

 何をするでもなく、ただ、ぼうっと座っていた。

 だから、ぐっすりと眠ってしまったのだった。






 パッと目が覚める。

 辺りは真っ暗。いや、少ない蛍光灯が淡い光を放っている。

 腕時計で時刻を確認する。

 十八時四十分。十二月の今では、もう真っ暗でもおかしくない時刻。

 僕は、昨晩の事を思い出し、早々に此処から出て行こうと、立ち上がる。

 だが、一歩も踏み出せない。

 足元を見る。

「え」

 思わず、声が出る。

 其処には、左足に二匹、右足に二匹、合計四匹の猫達が僕の足にしがみついていた。

 僕の声に気がついたのか、四匹の猫達は此方を一斉に向く。

 四匹の猫達は、ニタァと口を歪ませて。


「「「「逃ガサナイヨ、オ・ニ・イ・チャ・ン?」」」」


と、言った。

「う、うわああああああああああ!!」

僕は其処から逃げ出そうと必死に四匹の猫達を振り払おうとする。

 だが、全く離れない。

 いつの間にか、辺りにはとても沢山の猫達が集まっていた。

 沢山の猫達は、僕の目の前までやってくる。

 僕はより焦って足にしがみついた四匹の猫を振り払おうとする。余計に離れない。

 すると、集まってきた沢山の猫達は、何気なく、しれっとこう言った。だから、僕も最初は、良く解らなかった。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「イタダキマス♪」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

僕はその数秒後、やっと理解する。そしてパニックになる。

「え、ちょっと待て、おい、おい!! やめ、やめろ、やめてくれええええええ!!!!」

沢山の猫達は、そんな僕の声などお構いなしに、どんどん近づいてくる。

 もう駄目だと、完全に諦めた、その時だった。


「そこまでよッ!!!」


昨日聞いた声と同じ、あの声が聞こえた。

 それと同時に、僕の目の前にいた沢山の猫達が、横に吹っ飛ぶ。

 僕は、沢山の猫達が吹っ飛んだ方向とは逆の方向を見る。

 其処には―――。

「一日振りね、九十九君」

其処には、昨日と同じ、白い和服を着た、永久 巡(ながひさ めぐる)さんがいた。

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