第一話 大いに困っていた
僕、九十九 肇は大いに困っている。
平凡極まりない一般人の中学生である僕は、先程両親に勘当された。
理由なんて見当たらない。
と、いうかこの現代に勘当なんてものが現存していたことにとても吃驚した。
死語ではなかったのか。
そういった軽い経緯があって、僕は今とても困っていた。
第一、これから先中学生一人が生活していける筈も無い。
それが解っていて僕を勘当したのならば、最早それは僕に死ねと言っているとしか考えられない。
現在、午後十時四十一分を過ぎた。
僕は人気の無い夜の公園、そのベンチに座っている。
あまりにも突然のことだったので、金さえも持ってはいない。
服も制服のまま、無一文で、さらにハードな部活を終えて来て、腹はもうすっからかん。
精々公園の蛇口で水分補給を、と思ったのだが、此処最近の寒波の所為で完璧に凍っていた。
そうやって無駄な事を考えている内に、もう意識が薄れ始めた。
「みゃあ……」
足に子猫が抱きついてきた。ああ、お前も独りなんだな。ふふ。
僕は子猫を手に取り、抱きしめた。この時期、子猫……というか動物の温かさというものは、とても心地よく、危険だ。
「「みゃう」」
すると、次々子猫がやってくる。この子の兄弟なのかな。ふふ、みんな抱き寄せて一緒に寝ようか……。
だが、そんな僕の願望は一瞬で消え去る。序でに意識もしっかり覚醒する。
「「「みゃう」」」「「「みゃう」」」「「「みゃう」」」「「「みゃう」」」「「「みゃう」」」
目の前に広がる光景。それはまさに、渡る世間は猫ばかり。
猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫猫―――――。
見渡す限りの猫天国、いや、猫地獄か?
そんな事はどうだっていいんだ。ただ、一瞬でここまでもの猫が……違う、先ず一箇所にこれ程猫が集まることが有りえる訳が無い。
僕がずうっと考え込んでいると、抱きかかえていた子猫が、僕をじいっと見つめてくる。
僕と目が合うと、子猫はニタァと口を歪ませて、
「遊ボウ?」
と、言った。って。
「あ……え、あ……!?」
「ア・ソ・ボ・ウ?」
僕は、顔を上げる。
公園中にいる、おぞましい数の猫が一斉にこちらを向いて。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ア・ソ・ボ・ウ?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
僕の視界は、そこでフェードアウトした。