大漁 ~ゴブリンに転生したオレは魔物で料理をするしかないのか?~
魔物グルメレース。
『大漁だぞー!』
『祭りだ祭りだ!』
「ん、ああ。
不味いな、眠ってた」
日本語で、オレは呟く。
城の奴らの大声で目が覚めた。
朝から勉強をしていたから疲れてしまったのだろうか。
この異世界の言葉を勉強している。言葉の勉強が終わったら歴史も勉強したい。
姿はゴブリンだから、そこまで本を読ませてくれるかは分からないが。
中身はヒト、専門校生で死に、ゴブリンに異世界転生したヒトなのに。
日本語しか喋れないから、日本語が分からないこの異世界の奴らにとっては、喋れないのと一緒。早く言葉を覚えたい。
『まず、言葉を覚えなさい』
おじいさんのゴブリンは、言っていた。
いや、ゴブリンの言葉も分からないから、なんとなく、だけど。このオレに戻る前、完全なゴブリンだったときの自分だったら、わかったと思うが。
『言葉が通じれば、調理される可能性は低くなるじゃろう。
そして、働き、お金を稼ぎ、いつか魔物の村を作ってくれ』
魔物の村。
『まあ、ムリかもしれんがの。ほっほっほ』
『大漁だ、早くご飯を作らせろ!』
『ごちそうだ! この魔物はどんな味がするんだろう!』
ヒトたちの賑わいが聞こえてくる。
仕事だ。気は乗らないが。
小屋から出よう。
「…行くか」
「こ、これは…」
「目玉はジジイゴブリンだぜ、丸焼きにしてくれ、料理番のゴブリン!」
そう言って、狩った男は、乱暴に、叩きつけるように、テーブルに『それ』をのせる。
ゴブリン。
矢が何本も刺さったゴブリン。
もちろん死んでいる。
「大漁だぜ、今日はゴブリンパーティーだ!」
別の男は笑顔で言う。
今の、この異世界では、魔物のグルメが流行っている。
魔王が殺されると、魔物は弱くなった。
ゴブリンは小さいひ弱な子供でも殺せて、ドラゴンの炎は焚き火に使われたりする。
大きさは変わっていない、と思う。
ただ、弱くなったのだ。
魔物を簡単に殺せるようになり、ヒトたちが思ったこと。
それは、『魔物を美味しく食べたい』というグルメ。
魔物はグルメ。魚や牛と同じになってしまった。
今は、食べられるのはもっぱら魔物。魚や牛はいつでも食べれるし、狩り尽くされるうちに自分たちが狩って、美味しく食べてしまおう、と競うように魔物が狩られ、調理され、食べられている。
「おら、早く料理しろ、料理番」
「じゃないと、お前も食っちまうぞ」
「料理できるゴブリンってどんな味なんだろうな、オイ」
ニヤニヤしながら言ってくる。
オレは、何も返さず料理を開始する。
無言で、同族の料理をする。
前世の専門校で身につけた、料理の腕で。
魔物は前世にはいなかったけど、専門校で学んだことは大いに役立つ。
違う。
このおじいさんのゴブリンは、オレに『生き方』を教えてくれ『夢』をくれた、お世話になったゴブリンじゃない。
そう、信じて。
希望と罪悪感が入り交じっている。
黙々と料理をする。
オレは、魔物。
だから、どうしても、魔物で料理していると、悲しくなってくる。
牛で料理する牛みたいなもの。
ヒトたちは魔物をグルメにしているけど。オレにとっては。
ああ。
ゴブリンのオレにゴブリンの料理をさせるなんて。
神様は、なんて酷い奴なんだろう。
『弾力がいいね! このおじいちゃんゴブリン!』
小さな男の子の声が聞こえてくる。
王様の子だろう。
『やっぱり、ゴブリンはクセになるわ。この、なんとも言えない味っ』
アレは、王様の妻か。皆と同じように、喜びながら食べている。
小屋で、オレは手を合わせている。
墓は作れないけど、とむらいをしている。
もしかしら、オレも食べられていたかもしれない。料理ができるから、たまたま食べられていないだけで。
同じゴブリンとして、今日調理されたゴブリンたちの、来世の幸せを祈る。
などと思いながら。
魔物のエサは野菜。
同じゴブリンを食べなくてよくて、それだけは幸せ。
『働き、お金を稼ぎ、魔物の村を作ってくれ』
『まあ、ムリかもしれんがの。ほっほっほ』
あのおじいちゃんゴブリンを調理してしまったのか。目印があればよかったが。分からない。
この、グルメという無慈悲から逃れるために。
魔物のための、魔物だけの安全な村を。
ありがとうございました。




