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大漁 ~ゴブリンに転生したオレは魔物で料理をするしかないのか?~

作者: 雪柳オイル
掲載日:2026/04/12

魔物グルメレース。

『大漁だぞー!』

『祭りだ祭りだ!』


「ん、ああ。

不味いな、眠ってた」

日本語で、オレは呟く。


城の奴らの大声で目が覚めた。

朝から勉強をしていたから疲れてしまったのだろうか。

この異世界の言葉を勉強している。言葉の勉強が終わったら歴史も勉強したい。


姿はゴブリンだから、そこまで本を読ませてくれるかは分からないが。

中身はヒト、専門校生で死に、ゴブリンに異世界転生したヒトなのに。

日本語しか喋れないから、日本語が分からないこの異世界の奴らにとっては、喋れないのと一緒。早く言葉を覚えたい。


『まず、言葉を覚えなさい』

おじいさんのゴブリンは、言っていた。

いや、ゴブリンの言葉も分からないから、なんとなく、だけど。このオレに戻る前、完全なゴブリンだったときの自分だったら、わかったと思うが。


『言葉が通じれば、調理される可能性は低くなるじゃろう。

そして、働き、お金を稼ぎ、いつか魔物の村を作ってくれ』

魔物の村。

『まあ、ムリかもしれんがの。ほっほっほ』


『大漁だ、早くご飯を作らせろ!』

『ごちそうだ! この魔物はどんな味がするんだろう!』

ヒトたちの賑わいが聞こえてくる。


仕事だ。気は乗らないが。

小屋から出よう。

「…行くか」




「こ、これは…」


「目玉はジジイゴブリンだぜ、丸焼きにしてくれ、料理番のゴブリン!」

そう言って、狩った男は、乱暴に、叩きつけるように、テーブルに『それ』をのせる。


ゴブリン。

矢が何本も刺さったゴブリン。

もちろん死んでいる。


「大漁だぜ、今日はゴブリンパーティーだ!」

別の男は笑顔で言う。


今の、この異世界では、魔物のグルメが流行っている。

魔王が殺されると、魔物は弱くなった。

ゴブリンは小さいひ弱な子供でも殺せて、ドラゴンの炎は焚き火に使われたりする。


大きさは変わっていない、と思う。

ただ、弱くなったのだ。


魔物を簡単に殺せるようになり、ヒトたちが思ったこと。

それは、『魔物を美味しく食べたい』というグルメ。


魔物はグルメ。魚や牛と同じになってしまった。

今は、食べられるのはもっぱら魔物。魚や牛はいつでも食べれるし、狩り尽くされるうちに自分たちが狩って、美味しく食べてしまおう、と競うように魔物が狩られ、調理され、食べられている。


「おら、早く料理しろ、料理番」

「じゃないと、お前も食っちまうぞ」

「料理できるゴブリンってどんな味なんだろうな、オイ」

ニヤニヤしながら言ってくる。


オレは、何も返さず料理を開始する。

無言で、同族の料理をする。

前世の専門校で身につけた、料理の腕で。

魔物は前世にはいなかったけど、専門校で学んだことは大いに役立つ。


違う。

このおじいさんのゴブリンは、オレに『生き方』を教えてくれ『夢』をくれた、お世話になったゴブリンじゃない。

そう、信じて。


希望と罪悪感が入り交じっている。

黙々と料理をする。


オレは、魔物。

だから、どうしても、魔物で料理していると、悲しくなってくる。


牛で料理する牛みたいなもの。


ヒトたちは魔物をグルメにしているけど。オレにとっては。


ああ。


ゴブリンのオレにゴブリンの料理をさせるなんて。


神様は、なんて酷い奴なんだろう。




『弾力がいいね! このおじいちゃんゴブリン!』

小さな男の子の声が聞こえてくる。

王様の子だろう。


『やっぱり、ゴブリンはクセになるわ。この、なんとも言えない味っ』

アレは、王様の妻か。皆と同じように、喜びながら食べている。


小屋で、オレは手を合わせている。

墓は作れないけど、とむらいをしている。


もしかしら、オレも食べられていたかもしれない。料理ができるから、たまたま食べられていないだけで。

同じゴブリンとして、今日調理されたゴブリンたちの、来世の幸せを祈る。

などと思いながら。


魔物のエサは野菜。

同じゴブリンを食べなくてよくて、それだけは幸せ。


『働き、お金を稼ぎ、魔物の村を作ってくれ』

『まあ、ムリかもしれんがの。ほっほっほ』


あのおじいちゃんゴブリンを調理してしまったのか。目印があればよかったが。分からない。


この、グルメという無慈悲から逃れるために。


魔物のための、魔物だけの安全な村を。

ありがとうございました。

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