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第12話 レクイエムの能力

 両の機体が相対する。

 梵天ノ化身は背筋を伸ばし、足を肩幅に開いて重心を安定させている。

 どこからでも打ってこいと言わんばかりだ。


「……おい、武器はないのか」

「開発途中なんだからあるわけないでしょ」


 アッシュはワザとらしくため息をつく。

 聞こえていたのか、ニアが口を開こうとしたとき、梵天ノ化身が腰を低くして向かってきた。


「き、来た、何とかなさい!」

「……言うだけなら、簡単だな」


 波に足を取られながらも、構えをイメージするとレクイエムは両手を挙げてくれた。

 しかし、まだ自分の身体のように扱えない。


「生意気。武器無、舐――!」


 罪人刀を器用に振り回す。

 刃は片手剣よりも短く、ナイフよりも長い。


 リーチはないが、その分小回りが利くようで、レクイエムのレインコートに傷をつける。


「驚愕! 強化装甲!」

「簡単に壊されて、たまりますかっての! アッシュ、反撃なさい!」


 言われるがままにアッシュは梵天ノ化身目がけて拳を繰り出す。

 

(――ダメだ、まだ思い通りに動かせる気がしない)


 意識しても一拍子遅れて命令形系統が動いている。

 半身で攻撃を避けられ、相手の体当たりによって再び海へと背中から倒れた。


「つうぅ!!」

「きゃあ!」


「赤子同然。我ラ、《《聖雨ノ使徒》》――敵無!」


 勝ち誇ったように梵天ノ化身は笑い、レクイエムの両腕の付け根を狙って二刀の刀を突き刺した。


 装甲だけは固いのか、一撃で断ち切られることは無かったが、強く食い込んできているのが分かる。

 両腕が切り離されるのも時間の問題だ。


「反撃なさい、アッシュ! 騎士団でピクシーフレームを扱ったことあるんじゃないの!?」

「無いよ、雑用の俺が乗ったことがあるのは、作業用エレメンタルフレームだ」


「《《あの》》姉さんといたのにそんなことって――、それじゃ――」


「ああ、初めて操縦してんだよ!」


 声だけでニアが青ざめている。

 だがアッシュも初めてだからと言って、このままやられている気はない。


「両腕。去――!!」


 ――ゴキィ。


 生物ではないのに生々しい音が、コックピット内まで響き渡る。

 両の腕が断ち切られた。


「残念無念、貴様、弱者!」


(メグ姉さんに繋がってる可能性があるんだ――やっとレイガを探しに行けるのに……なに腑抜けてんだ――俺に対する世界の不条理を思い出せ!!)


 腹の底に力を入れて、アッシュは正面を見据える。

 両手に力を込めて、操縦桿を強く握る。


 世界はずっとアッシュに優しくは無かった。

 生まれた村も、義姉も、騎士団という居場所も、すべて奪われた。


「……まだ命を喰らってないんじゃないのか、俺を叩き落そうって意思が不足してんじゃねぇのか!!」


「ア、アッシュ……?」


「――噛み殺してやる、俺がここで負ける可能性なんてさあ!」


 その時、異変が生じた。

 通常照明が赤へ。

 コックピット内が緋色に塗り替わっていく。


「え、な、なに……こんな機能、知らない――ひゃっ」


 ニアが座っていた座席が倒れて床に同化する。

 彼女は倒れることなく立ち上がったが、彼女の手を覆っていた無機質な腕に拘束される。

 無理やりに身体は持ち上げられ、宙で十字架に磔されたかのように固定された。


「つっ――私の魔力エーテルまで取り込んでる……?」


 様々な腕が伸び、腰、首、脚、腕へと絡みつき、まるで民衆に晒上げられた生贄のようだった。

 

 後部座席で何が起きているのかも気にせず、アッシュは拳に力を込める。

 腕は血管が浮き出てて、切れてしまいそうなほどだ。


「ふはは、俺の命なんて――好きなだけ使えよ!」


 梵天ノ化身は両腕に打ち付けていた刀で頭部を狙う。


「――終焉!!」


 衝撃でレクイエムのフードが外れた。

 鎧兜のような頭部の顎が――不気味に開く。


「うらあ!!」


 レクイエムは隙をついて上半身を起こし、顎で刃を砕く。

 次いで獣の如き速さで、二の刀も噛み砕いた。


「驚嘆! 次、千手!!」


 梵天ノ化身の背中から生える何十本という腕が、レクイエムの胴体、首、脚、を掴み取り、強靭な力で引き千切ろうとする。


「逃避ノ錬金術師、諦!」


「もっとだ、もっと魂を喰らえ、俺の命はまだあるぞ!」


 苦しそうにもがくレクイエムは、アッシュの声に同調するように咆哮を上げた。

 死神を思わせる不気味な声は緋雨を弾き、緋海を揺らす。


 レクイエムを構成する魔術的金属が無理やり伸ばされて、コックピット内が、不気味な悲鳴を上げる――その時、緋海が大きくうねった。


「何!? 固有魔術――!? 否、不明技術!?」


 機体の失われた両腕へと、海水が集まり、左腕を形成する。

 緋雨すらも止み、世界の時間が停止したようにさえ感じた。


「――奴を飲み込め」


 知らぬ間にアッシュの失われた左目は、見開き――人とは思えない禍々しい闇を孕んだ瞳が開かれる。

 彼の命令通りに、レクイエムが左腕を付き出す。


「有得!? 海面操作!?」


 海面が高く持ち上がり、巨大な一本の槍を形成して梵天ノ化身の頭上から突き刺した。


 いわゆる串刺しである。

 力を失った数十の腕はダランと垂れ下がり、レクイエムの身体が解放されていく。


 数秒の後、海水で構成された槍は爆散し、地上に真赤な雨を降らせた。

 けぶる景色の中、レインコート姿の人型が朽ち果てた僧侶を見下ろしている。


 ――再び、緋雨が降り出した。

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