愛した人は死んでもやって来る 2
依頼人に成人男性の悪いイメージを与えた事務室から場所を強制的に移して応接室へご案内。
この部屋に居るのは、我らが社長と会計事務にすら負ける権威無き副社長の俺とお茶を差し出す副社長より権威のある会計事務のケイ、お若き依頼人。そして、そびえ立つ一枚。
「お茶をどうぞ」
「アッ、ハイ…」
社長の勧めにより、慌てるようにお茶を啜る女の子。まぁ、こんな得体の知れない事をやってる大人たちに囲まれたら緊張するだろう。
「それでまずはお名前聞いても言いかな?」
「吉田由子です。エット、露花高校の一年生デス」
緊張ガチガチですな。
「私はこのフラット社の社長の平夏菜です。隣に居るのが一応副社長の真内士郎君で、お茶を運んでくれたのが小針経ちゃんね。年上ばっかりだけどあんまり緊張しなくても良いよ、敬語とかも気にしなくて良いからね」
社長がこれまた誰が見ても落ち着くような無邪気な笑みを浮かべる。
「アノ…。ごめんなさい。実はそんなにお金持ってなくて…、今、三千円しかお財布に入ってなくて」
彼女の必死な様子に申し訳ないが笑いがこぼれてしまった。
「大丈夫だって、高校生からぼったくるほど食うに困ってねぇよ。只で良いから話してみな。ここに来るからには、それなりに困ってるんだろ?」
まぁ俺はなんて優しいんでしょう。
ありゃ、依頼人の目から涙が。えっ、俺ですか?俺の言い方に何か問題があったのですか?
「どうすれば良いのか分かんなくて…、凄く怖くて…、でもこんなこと誰も信じないし…、それで街でポスター見かけて」
遂に顔を手の甲で拭い始める。まぁ、言いたいことは何となく分かる。あのポスターが見えたってことはそれなりの事態に巻き込まれてる可能性も高い。
「そっか、怖かったんだね。辛かったよね。もう大丈夫だよ。お姉さんたちが何とかしてあげるからね」
依頼人の隣に移動した社長は依頼人の背を擦ってあげながら赤子をあやすような声音で語りかける。
「ゆっくりで良いから、話してくれるかな?」
社長に諭されてから暫くして、少女はしゃくりあげながらも、彼女がミたことを語り出した。
三日前、彼女が付き合っていた彼氏の一回忌。学校を終えた彼女は彼の墓へと参った。なんて良い子なんでしょう。既に彼の家族が昼に訪ねて居たようで磨かれた墓石に彼女は花を備えて帰ったそうだ。
その帰り道には既に日は暮れ始め、周囲は薄暗くなっていたそうだ。
逢魔が時。朝の世界と夜の世界が重なる時。この世とあの世の交わる時。
その時、彼女は逢ってしまった。既にこの世のもので無くなった彼に。