愛した人は死んでもやって来る 1
西からの麗らかな春の日差し。眠気を払う為、暇に任せて煙草に火を付ける。
『副社長、私の近くで煙草を吸わないでください』
隣のワーキングディスクに座りパソコンを打っていた女性、姿は中学生に劣る少女から、何度も聞いたことのある声にならない声が、愛すべき喫煙者を苛める言葉の針を綴ってくる。
「いやぁ、ケイちゃんの可愛らしく働く姿を眺めながら煙草を吸うのが俺の楽しみでさぁ」
何度も読まされた標語に適当に言い返してやる。
『社長、今の発言はセクハラです』
予想以上の報復に慌てる俺。その文字列に誰もが認める三国一の美人女性が顔をあげる。あぁ、相変わらずお美しい我らが社長。もう一度言い直そう。
社長のこの場における絶対的な発言である。
「それじゃあ、シロ君の給料から好きなだけ慰謝料もらって良いよ」
社長は天使の微笑みで悪魔な宣告をする。
素早く首から下げた、ホワイトボードに思いの丈を書き込むわが社のお金を司るケイちゃん。
『副社長の今月の給料、17万、私は53万ですね♪』
社長の“良いよ~♪”が部屋に響くと同時に本社のお金を全て管理する機械の箱へ入力を始める会計士。
副社長たる俺を脅すとは良い度胸だ。そっちがそういう態度を取るならばこっちにも覚悟がある。
「ごめんなさい。ワタクシに不適切な発言がありましたことを切に御詫びいたします!」
決まった!我ながら綺麗な土下座だ!
三十万は現実的かつ大きすぎます。
プライド?そんなもので何が買えるというのです!
「ケイちゃん、シロ君も反省したみたいだから許してあげて?」
あぁ、さすがは社長!神のごとき優しさ!
「後、十分経ったらね♪」
さすがは社長!悪魔のごとき優しさ。
「軽部勇一、只今帰りましたぁ~…シロウ、どうしたの?」
バッドタイミングに現れた男。全身黒い作業着。右胸とキャップにflatのロゴの入る服装。その男の後ろから入って来たカルが煩いと言わんばかりの顔をしたイケメン男児も俺の様を見て疑問符を黙って浮かべる。
「シロ君がケイちゃんにセクハラしたから謝罪中♪」
いかにも機嫌良さそうに答える社長。社長、もしかして俺は何か貴女の気に障ることしましたか?いつもの社長は俺にもっと優しいはずですよ。
「ナニぃ~!俺のケイちゃんにセクハラだとぉ~!シロウ、テメェ~!なんて羨ましいことを!いや、違う!何故、俺に相談しなかった?これも違って!俺のケイちゃんに俺の断りなく手を出すとは最低だぞ!」
カル、それも立派なセクハラだ。
「ケイちゃん、カル君の給料からも好きなだけ慰謝料取って良いよ」
『この男からは本気で取りますよ』
結果、床にひれ伏す人間が増えました。
「遠慮しないで入りな。おい、客が来たぞ…、何してんだ、お前ら?」
カルやクロと同じ服装の中年男性が、おそらく女子高生だろう制服を着た女の子を連れて入ってくる。
二人の視線は当然俺たちへ。
「セクハラに対する謝罪中です」
俺たちをケイちゃんの前にあるディスクに座り見下ろすクロが分かりやすく状況説明。
緊張しているだろうその女の子は、床に居る俺たちと目を合わせたことでさらに身を強ばらせた。
ご免なさい!
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